世界の真実 その2
多田乃は右腕のバンドを二回叩いて手元の鎌を消した。先程男たちに暴行を受けた箇所は痛むものの、多田乃は体の痛み以上に自分の身に起きた事態にショックを受けていた。
「あの男たちは何者だったんだ…?まるで死人やゾンビのような、人じゃないように見えた。それに…」
多田乃は独り言を呟くと右腕に巻かれたバンドを見た。市役所で依代に襲われたときには無かったはずなのに、どうして今あるのだろう?このバンドは『神』から贈られたものであり、この「何もない世界」では使用できないルールがある。にも関わらず、手元にあると言うことは…
「うん、これは夢だ」
多田乃は自分にそう言い聞かせて、深呼吸をした。そしておもいっきり自分の頬をつねった。
「いでででで!!」
頬が真っ赤に腫れ上がりそうになるほど、つねる力を込めたが夢から覚めるような気配はない。多田乃は自分の頬を押さえて、ビルの屋上から下の様子を見た。
すると、夜の町を歩く人々がドクロやゾンビ、天使の輪っかを頭の上に乗せているように見えた。多田乃は目を擦って二度見する。しかし、目を擦っても状況は一緒だった。
「何だ…これは」
多田乃が後ずさりすると、足元に何かが当たった。慌てて下を見ると一匹の黒猫がいた。
「どうやら君にもこの世界の真実が見えてきたようだね」
「アラン・スミシー!てめえ、さっきはよくも裏切ってくれたな!」
「まあまあ、申し訳ない。奴等に正体がバレる訳にはいかないから、仕方なかったんだよ。とりあえず武器が出せるようになって良かった」
多田乃はノンビリと現れたアラン・スミシーを睨み付けていたが、アラン・スミシーは淡々と先程の語りを続けた。
「…さっき多田乃君を襲った連中、君はどう思う?」
「どう?って、人間とは思えない顔をした奴等だった…まるでこの世のものじゃないような…」
多田乃の動揺した口調に対して、アラン・スミシーは冷静に聞き続けていた。
「それに奴等だけじゃない…このビルの下を歩く人間たちもゾンビや死人のように見える。地獄にいるような嫌な気分だ」
「大正解だよ、多田乃君」
「はい?」
アラン・スミシーの返答に多田乃は素っ頓狂な声を上げた。アラン・スミシーはニコニコしながら多田乃を見ている。
「今いるこの世界は「何もない世界」じゃない。「何でもあり」、つまり「死者の世界」だ」
「し、死者の世界…!?」
「今まで君が見ていたのは死者の世界であることを隠すまやかしだった。あの男、依代がこの世界に干渉してきたことでこの世界のバランスが崩れ始めたようだ。君にこの世界の真実の姿が見えたのもその影響だ」
「バカな…あり得ない」
「何故だい?」
「僕は何者なんだ?ここが「死者の世界」なら、僕はチートであり、死人…ってことか?」
アラン・スミシーは混乱する多田乃の問い掛けにゆっくりと頷いた。アラン・スミシーの反応を見た多田乃は愕然として膝をつく。
「君がこれまで信じてきたものがひっくり返されたんだ。ショックを受けるのも無理はない」
「…そんな僕の、今までの記憶や思い出は何だったんだ?それに、何故『神』は僕を選んだんだ?僕にどうしろというんだ…?」
多田乃は矢継ぎ早にアラン・スミシーに問い掛ける。アラン・スミシーは頭をポリポリ掻いて多田乃をゆっくり落ち着かせようとした。
「多田乃君、君の使命はたった一つだ。これはある意味この世界の存亡を掛けた戦いになるかもしれない」
「はい?」
真顔のアラン・スミシーの答えに対し、多田乃はまたも素っ頓狂な声を上げた。




