世界の真実 その1
「早速だが、多田乃君。君と会ったのは先日が初めてではない。それよりも遥か前から私は君のことを知っている」
「はああああ!??何をいってる?僕に喋る黒猫の知り合いなんか居たことないぞ?」
多田乃はアラン・スミシーのいっていることが理解できず、思わず大声で反論した。しかしアラン・スミシーは冷静に多田乃の様子を見ると、
「ま、君のリアクションは尤もだな」
「いいから勿体ぶらずに教えろ」
「いいだろう。これから私のいうことをよく聞くんだ」
アラン・スミシーの口調が真剣味を帯びた。表情も険しくなっている。多田乃もアラン・スミシーの気迫に押されて後ずさる。
「……信じられないかもしれないが、私が君と知り合ったのは君の前世だ。前世の頃に出会い、君と行動をしばらく共にしていた」
「……ま、待ってくれ…、僕の…前世…?」
「前世といっても数百年も前の、それもファンタジーのような中世だ。君は所謂騎士の端くれ?ってやつだったかな?」
「い、いやそういうことを聞きたいんじゃない…僕は、僕は…僕は異世界転生者なのか……?」
多田乃はアラン・スミシーが語る事実に対し、受け止めきれないような上擦った声をあげた。これまでの自分の境遇をひっくり返すような話に多田乃は夢ではないかと自身の頬をつねりそうになった。アラン・スミシーは多田乃の動揺に構わず話を続ける。
「…察しがいいね…広義の意味では確かに君も異世界転生者だ。しかし、この世界はちょっと他の異世界とは事情が異なる」
「そんな、…僕もチート……チートだなんて…」
「ま、聞きたまえ。この「何もない世界」いや、「何でもありの世界」だが、妙だと思わないか?」
「……どういうことだ……?これより更に衝撃な何かあるのか?」
多田乃が恨めしそうにアラン・スミシーを睨んでいると不意にビルの屋上に通ずる出入口が開いた。慌てて多田乃が振り返ると、如何にもその筋の人と思われる屈強な男が三人ほどやってきた。
男たちは多田乃の姿を見てメンチを切るような姿勢で迫る。多田乃は逃げようと立ち上がるが、ここはビルの屋上。飛び降りるわけにもいかない。しかも出入口の方には男たちがいる。アラン・スミシーに助けを求めようとしたが、素知らぬ顔で迷い猫の振りをしている。
「裏切ったな……」
多田乃はアラン・スミシーに恨み節をぶつけたが、それと同時に男の一人が多田乃の胸倉を掴んだ。他の男たちも多田乃を囲むように立つ。
「おう、兄ちゃん。うちの組のビルに勝手に入って何やっとるのかのぉ?」
「不法侵入ってやつか?警察に突きだしたろか?ま、それなり誠意を見せれば見逃してやらなくもないがな」
「それともとっとと出ていってもらうか?そこから飛び降りれば楽だぜ?」
男たちは震える多田乃を見てゲラゲラと笑いながら脅迫する。多田乃は恐怖の余り口をパクパクさせた。よりにもよってヤクザのビルに逃げるとは……多田乃が事態を打開する為に思案していると痺れを切らせた男が多田乃にボディブローを見舞った。
男が多田乃の胸倉を離すと多田乃は痛みの余り地面に臥して咳き込む。その様子を男たちは嘲笑した。更に多田乃に追い打ちを掛けるように蹴りを加える。数発の暴行を受けて多田乃は仰向けに倒れた。男の一人が唾を多田乃に吐いた。
「へっ…大したことない奴だ」
「こいつどうする?」
「組長にバレたらまずい。動けなくして夜の内に連れ出してバラそう」
男たちの物騒な会話を朧気に聞きながら多田乃は体を動かそうとした。が、痛みで思うように動かせない。そんな多田乃の様子に男の一人が気づき、多田乃に近づいてきた。
「まずい……このままでは殺される…!」
多田乃が覚悟を決めたとき、驚くべき光景が見えた。先程まで多田乃に暴行を加えていた男たちの顔がドクロのような不気味な顔に変わったからである。よく見ると人間ではない…まるで死者のような…… 多田乃がハッと我に返ると自身の右腕の手首に文字盤のない黒いバンドが巻かれていることに気づいた。
「どうして、こいつが…?」
多田乃が疑問に思う間もなく男たちが多田乃を囲む。男たちは多田乃にトドメを刺すかのように首や腕を鳴らす。多田乃はゆっくりと立ち上がり、男たちを睨んだ。
「おい、兄ちゃん。まだやる気かよ」
「大人しく寝んねしときゃいいものを」
「恨みっこなしだぜ」
男の一人が懐からナイフを取り出し、多田乃に
刃を向けた。多田乃も応戦すべくバンドを二回叩いた。男たちは嘲笑しながら多田乃を見ていたが、何もない宙から大きな鎌が現れ、多田乃の手に納まるのを見たとき驚愕して腰を抜かした。
「な、何だ?こいつは?」
「手品の類いか!?何処から出した!」
「てめえ……や、やる気かよ…」
男たちの様子が動揺に変わったのを見た多田乃は鎌を振り上げて男たちを一瞬にして両断した。男たちは声を上がるどころか斬られたことすら気づかずにバラバラの石灰の結晶のようになって消滅した。男たちを始末した多田乃は思わず膝を着いて息を弾ませた。




