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脇屋と脇谷

「いえ、全く心当たりはありませんね」



 脇谷の名前を聞いた多田乃は咄嗟に否定した。多田乃の答えに依代は当てが外れたのか、溜め息を付いて「そうですか」と呟くように返事した。

 脇谷と名乗る女性はというと未だ多田乃に目も合わせようとせず、怯えるように震えている。


 多田乃は脇谷の名前に驚いたものの、昨夜ダイブして仕留めた脇屋とは似ても似つかぬ容姿だし、そもそも多田乃はあの時園田茂夫として脇屋に接触していたのだ。園田=多田乃であるという証拠は何一つ残していないはず。…いやあるとしたらアラン・スミシー経由か?単純に同姓同名の偶然の一致、である方が現実的ではないのか?


 多田乃は頭の中でぼんやりと考えながら小声で話し合う依代と脇谷の様子を伺っていた。どうにも思惑が外れたことに対して作戦会議をしているように見える。



「ですが、記憶を戻す上で何か参考になるのでしたら住民票のデータだけでもご提供しましょうか?」



 二人の態度にしびれを切らした多田乃は二人に提案した。二人は驚いたように多田乃を見据える。多田乃は「少々お待ちください」といって会議室を出た。多田乃は自席へ戻る前にトイレへと向かった。


 洗面台の鏡を睨み付けると、40を越えたくたびれた中年男性の顔が浮かんでいる。昨夜の園田茂夫の顔とは全く似ていないし、同一人物だと推理することなど不可能なはずだ。多田乃は無理矢理自分を安心させると自席のパソコンから脇谷の住民票のデータを検索した。


 脇谷久那子…確かにデータはあった…が、しかし。



「どういうことだ!?…脇谷久那子さんは昨年末に25歳で乳癌で亡くなっている……?」



 多田乃は脇谷のデータを見て、先に仕留めた脇屋のことを思い返していた。やはり…脇屋は異世界転生者(チート)だった。しかし、今いる脇谷は何者なんだ?脇谷を騙る人間か?そして依代は何故既に死んでいるはずの人間のことを持ち出して自分に接触してきたんだ?


 いくつもの疑問が頭に浮かぶ中、多田乃は最大級に警戒を胸に秘め、二人の待つ会議室へと向かうことにした。二人の正体は…一体…?会議室に向かう多田乃の足取りは確実に重くなった。


 何とか無理矢理にでも会議室へと辿り着くと多田乃は平静を装って、二人の前に座った。二人の表情は険しく、特に依代は多田乃の動向をじっと睨んでいる。



「大変長らくお待たせしました」


「いえ、突然で此方こそご迷惑を掛けます」



 事務的なやり取りを交わした後、少しの沈黙があった。何とか次に進むべきと腹に決めた多田乃は住民票のデータを手に口火を切った。



「依代先生…確認させてください。此方にいらっしゃる女性は「脇谷久那子」さん、でよろしいのですよね?」


「はい、間違いはありません」


「そう、ですか……」


「何か問題でも?」



 多田乃の煮え切らない態度に苛立った様子で依代が詰め寄った。



「その非常に申し上げにくいのですが…確かに「脇谷久那子」さんの住民票のデータはありました。ですが、脇谷さんは既に故人になられているのです」


「故人…?」


「ええ。昨年末に死亡届が出され、受理されております」



 多田乃の報告に対して二人の反応は驚くほど、薄かった。まるで最初から脇谷は死んでいることを知っていたかのようである。多田乃の眉間にシワが寄る。



「あの、…いかがでしょうか?」



 何とも言えぬ沈黙が辺りに漂う。脇谷と名乗った女性は心配そうに依代を見る。依代は少し思案しているように天井に目線を向けていた。



「なるほど…やはりそうですか…」


「やはり……?」


「………チートバスター………」



 独り言のように呟いた依代の言葉に多田乃は思わず「えっ…!!?」と声を上げてしまった。

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