終わりと始まり
アラン・スミシーが去ったあと、多田乃は伊能のいる階段まで戻り、右腕のバンドをもう一度捻った。すると静止画のように止まっていた光景が再び動き出した。生徒たちの賑わいや鳥の鳴き声、風のざわめきが辺りに響く。
多田乃が伊能に目を向けると伊能は箱を持って階段を下っていた。多田乃は脇屋が持っていた箱を持って伊能の後を追う。伊能は脇屋から多田乃にすり替わっていることに何の違和感も抱いておらず、最初から多田乃と行動しているかのように多田乃に親しげに話し掛けてきた。
どうやら脇屋のことは最初から存在していなかったかのような素振りであり、箱を持っていった先の先生も脇屋のことに触れることなく、伊能と多田乃に礼をいった。
「あの…伊能さん」
多田乃は用事を済ませた伊能にそれとなく話し掛けた。声を掛けられた伊能は振り返ると不思議そうな表情を浮かべた。
「園田君、どうしたの?何か私についてる?」
「いや僕ともう一人、一緒にいなかったっけって思ってね」
「えっ…?何それ!此処にお化けでもいるの!?」
伊能はわざとらしくキャーと悲鳴を上げてみている。笑みを浮かべてふざけた感じである以上、この世界の中で脇屋のことは完全に抹消されたのだろう。
「ごめんごめん、何でもない」
多田乃ははにかむと伊能と別れて、誰もいない校舎裏へと向かった。多田乃は周りを慎重に見回しながら右腕のバンドに向かって喋った。
「これにて作戦は成功。直ちに帰還します」
そう報告すると多田乃は右腕のバンドを外した。すると周りの光景がホワイトアウトして、気がつくと自分の部屋のパソコン画面が見えてきた。
多田乃はVR用のゴーグルとヘッドフォンを外すとそのまま寝転がった。
「アラン・スミシー……『神』の意思の否定……チートバスターハンターの暗躍……」
多田乃は自室の天井を見ながらうわ言のように呟いた。あの時のアラン・スミシーの言葉が脳裏を過る。
「チートは絶対悪ではないのか……?そして僕も誰かに狙われている…?」
多田乃がふとテーブルの上の時計に目をやると午前二時を回っていた。多田乃は仕事に遅れまいと無理矢理眠ろうとする。が、夢の中にもアラン・スミシーが現れ、その度に多田乃は起こされる羽目になった。結局多田乃は一睡も出来ぬまま朝を迎えた。




