アラン・スミシー
「…何がいいたい」
多田乃は黒猫を睨み返して問い掛けた。黒猫は多田乃が不愉快な表情を浮かべているのに対し、淡々と持論を続けた。
「要は何故君がそこまで異世界転生者たちを目の敵にするのか不思議でね。別に一部の者を除いて彼等は基本的に無害だし、寧ろ平和に貢献しているんだよ?いくら異端の存在とはいえ、全てを害悪と見なして排除しようとする発想は極めて危険だし、偏見に満ちていると私は思うな」
「…僕は『神』に選ばれたチートバスターだ。言わば『神』の代行者であり、『神』の意思の元でチートどもを排除しているんだ。『神』に逆らう者は何人足りとも容赦はしない」
「おおー、怖いねー」
黒猫は多田乃の言葉に対してわざと恐がるような素振りを見せた。その姿に多田乃は眉をひそめる。
「君にとってよっぽど『神』って奴は絶対なんだろうね」
「…その通りだ。『神』に選ばれたことは僕にとっての支えであり、心の拠り所でもある。自分が求められ認められている証だからだ」
「なるほど、こりゃ重症だ。盲信もいいとこだね」
「何だと!!?」
多田乃は激昂して鎌の切先を黒猫の顔面に向けた。しかし黒猫は全く動じる様子を見せず、多田乃を真っ直ぐ見据える。
「じゃ、君はその『神』が正義と信じている訳だ。私からすればその『神』こそが害悪だと思うがね」
「貴様!『神』を愚弄する気か?!」
「一口に神といったって、色々いるだろ?女神にしかり、邪神にしかり、貧乏神にしかり。人の数だけ神も沢山いるだろうよ」
「…僕にとっては『神』が全てだ。だからこそお前を始末する」
「無駄だね。君に私は倒せないよ、多田乃君」
「なっ、…!!………違う、僕は園田、だ」
多田乃は突然黒猫に本名を呼ばれたことに動揺して思わず「なぜ知っている?」といい掛けた。しかし、チートバスターが最も恐れているのは自分の正体がバレることであり、それは死に直結するほど危険なことである。辛うじて冷静になり、今の体の名前である園田を名乗った。
黒猫は目をパチクリしながら多田乃を見た。そして何かを悟ったのか、フーッと息を吐いた。
「…なるほど。本名は明かせないからあくまでもシラを切り通すか。でもね、多田乃君。これだけは忠告させてくれ。君もまた命を狙われる身であるとね」
「な、何をいう?」
「世の中にはチートバスターを恨む連中もいてね。そういう連中がチートバスター狩りを始めたという話を耳にしたんだ」
「…初耳だな」
「だろうね。チートバスター同士は横の繋がりが希薄だから」
「お前は何者なんだ?何故僕にそんな話をする?イレギュラーとかいっていたが、チートとは違うのか?」
多田乃は黒猫に矢継ぎ早に質問を投げた。黒猫はニッコリ笑って頷いた。
「いいだろう、言える範囲で答えよう。私はさっきもいった通りチートではない。私は君らでいう宇宙人ってヤツに当たる」
「宇宙人…!!?」
「この体は今の君と同様に仮の姿だ。活動しやすいように黒猫の姿をしているがね」
「……」
「そうそう、私のことは「アラン・スミシー」と呼んでくれ」
「アラン・スミシー…?」
「かつてハリウッド映画で使われていた映画監督の偽名だ。この名前が出たらその映画の監督は匿名という意味だ」
「だったら名無しでいいだろ」
「やだよ、センスがない」
アラン・スミシーと名乗った黒猫は頭を掻きながら苦笑した。




