第18章 急襲揚陸艦アメリカ
海老原の指定した座標位置に、艦船らしき姿がレーダーに映し出された。
これが、彼の言っていた艦船だろうか。
当然、いま乗っているF-35はステルスなので、向こうのレーダーに探知されていないはずだ。だからこそ、こちら側からレーダー波を反射するリフレクター板を出したり、ウェポンベイを開けたりするなどのアクションを起こさなければ、相手には見えないままだ。
桐生は、そうする前に、通常の船舶無線周波帯に合わせ、こちらから呼びかけることにした。探知と同時にロックされ、対空ミサイルを発射されてはかなわない。
「こちら日本の航空自衛隊機F-35、ユウスケ・キリュウ。要人を一人複座に載せている。その保護と、機体の燃料補給をお願いしたい」
そう一気に英語でまくしたててから、
「あと、艦長へのダイレクトメッセージがある。『Apocalypse Now』だ」
合い言葉が、映画『地獄の黙示録』とは。ギャグなのか、本気なのか、イマイチ計りかねるが、少なくともいまの状況にはピッタリかもしれない。
海老原が言うには、この言葉は自分が所属する部隊を越え、自身に大きな危険が迫っているとのサインということらしい。海老原なら、航空自衛隊。その艦長なら、アメリカ海兵隊ということだろうか。
程なくして、滑らかな英語で返ってきた。
《こちら、急襲揚陸艦アメリカ。艦長のハリエット・ジョンソンだ。着陸を許可する》
どれだけあのオッサンは、この艦長に信頼されていのか。少しだけ彼を見直すことにした。そして、せめてこの信頼を壊さないようにしないと、また会ったときにどやされるか、おそらくは殴られるにちがいない。
暗闇の中で、ぼんやりと滑走路灯を点けた船が見えてきた。こちらの存在も分かるように航空識別灯を点灯した。夜間、空母へ垂直で着陸するのも初めてだ。しかし、ほとんどコンピューターが補正してくれるだろう。
以前に、同様の垂直離着陸機「ホーカー・シドレー ハリアー」に乗ったが、苦手の機体の一つだった。離着陸だけで、約三十もあるボタンを駆使するのは、一世紀前のテレビゲームよりも難しい。しかも残機は一機のみ。失敗は即ゲームオーバーだ。脱出する時間もない。たしかあの機体で、過去に戦闘ではなく、たかが着陸ごときで、数十人の命が失われたと聞いている。
ゆっくりとホバリングさせた機体が、艦橋の横を抜けるとき、向かって敬礼した。夜間なのでよく見えないが、一応礼儀を見せた。下を見れば、誘導灯を持ったマーシャラーが、着陸位置を示してきた。
桐生は、滑らかに機体を操作して、ヘリが居並ぶその隙間へと滑り込ませた。
「第19章 未知の部隊」へ続きます。