プロローグ
ほぼ最後まで書き上がっている長編小説になります。推敲しつつ投稿していきます。楽しんで読んでいただけるとうれしいです。
かつて師であり親代わりでもある、karfaは言った。
「この世界は、複数ある別の世界によって支配されている」
そして、いずれその世界からの干渉に気づき、独立を果たすのだとも。
桐生游輔は、なにもかも分からなかった。まず、
「別の世界が存在するなんてどうして言えるんだい?」
彼は、この世界で行われた“宇宙マイクロ波背景放射”の観測結果を話し始めた。
「2009年、アメリカNASAが打ち上げたプランク衛星は、観測の届くかぎり宇宙は平面であると証明した」
「それが、複数世界があるのと何が関係する?」
「宇宙は閉じていないということだ」
「意味が分からないよ」
「もしも閉じているのなら、宇宙空間には歪みが生じる。円形や楕円ならね。しかし、平面が続くということは世界は閉じていない。そして、私たちはすでに、その観測結果以上のことを知っている」
「なにを?」
「この宇宙、そして更にその外、つまり空間は実際、無限に続くということ」
無限に空間が続くということは、あらゆる可能性が想定できるということだ。その無限に続く空間の先には、我々が住むような宇宙が存在するかもしれないし、さらに言えばまったく同じ世界も存在する可能性も否定できない。文字通り「無限」になんでもアリだ。
そして、karfaは、その世界からやってきたと言った。
でも彼は、どうやって、観測どころか、我々の思考の及ばないような距離の先にいる世界から、こちら側の世界へジャンプしてきたのか。
「次元の壁だ」
それを越えてきた、と青い瞳に、少し赤みがかった短髪、そして透き通るような白い肌のkarfaは、静かに語った。見た目は西洋人のそれだが、年齢を推し量ることができない顔貌だった。それはどこか、精巧な作り物のようで、アンドロイドのようにも思えた。かつて彼は、年齢は四十代だと言ったが、それを聞いた桐生は信じられなかった。
「世界は11次元の壁で折り畳まれている。距離なんて関係ないんだよ。そして、互いに存在する世界は、知的生命体、つまり人間の成熟度、科学技術が発展しているかどうかで序列が決まる」
「序列?」
「この地球は、宇宙空間が11次元の壁で折り畳まれ、そこを行き来できる技術を持っていない。それすら認識できていない。しかし、我々はそれができるし知ってる。つまりそれはアドバンテージであり、支配できるということだ」
「侵略されるということかい?」
「ちがう。もっとひどいことだ」
そう言って彼は顔をしかめて言った。
「実験に使う」
「実験?」
「知的生命体が生じる星のメカニズムを知ること」
そしてkarfaは付け加えた。「僕にはそれが耐えられないんだよ」と。
すぐに「第1章 逃避行」へ続きます。