第6話 青年は断罪する。
再びギルドに戻った俺たち。
全員で屋内の一画にあるテーブルを借りている。
場は暗い沈黙に包まれていた。
まるでお通夜である。
勝負がついた後。
遥はワンワン泣き出した。
アリアは無言で抱きついてきた。
つい先ほどまで俺の胸に顔を埋めて、
グリグリとおでこを押しつけていた。
緊張の糸が切れてしまったのだろう。
正直、勝負なんかよりこの二人の反応の方がキツかった。
現在は落ち着いたようだが、それでもこの雰囲気だ。
とにかく早く終わらせたい。
雫さんと話し合いの決着をつけなければ。
これだから嫌だったのだ。
勝っても負けても泥沼だ。
「本当にすまなかった!」
結局、彼女には強制的に話を聞かせるしかなかった。
これが勝負前だったら聞く耳も持たなかっただろう。
周りの雰囲気も手伝って、ようやく場の異常さに気づいたようだ。
「雫さん、顔を上げて下さい」
周りから見ている人間はどう思うだろうか。
もし仮に、自分がこの立場だったら。
喧嘩両成敗で、笑いあって和解?
怪我もない上、相手も謝ってるんだから許す?
それとも、これ以上関わり合いにならない事を確約して見逃す?
……甘い。
甘すぎる。
俺の答えは決まっている。
『許さない』だ。
それはそうだろう。
幻影と気づかない内に、
眉一つ動かさずに腕を斬り飛ばされたのだ。
そんな甘い話があるはずがない。
この女は罪人であり殺人者だ。
それはもう起こってしまった事。
経緯はどうあれ、言い逃れはできない。
「……許してくれるのか?」
本当に、どこまでも自分に甘い人だ。
謝罪の態度すらなっていない。
「頭を下げられてもしょうがないからですよ。どこに許す理由が?」
さすがに冷たい口調になってしまう。
「だ、だが君は腕も落としてないし、怪我もないじゃないか」
「……雫さん、腕を斬り飛ばしたって確信した時、平然としてましたよね。手応えを実感した上で。勝負の最中にも言いましたけど、俺が本当に斬られても死んでも、『しょうがない』で済ますつもりだったでしょう? その時のアリアと遥の様子は見てましたか? それでどうして許されると思うんですか?」
「う……じゃあどうすれば許してもらえるんだ。土下座でもすればいいのか?」
「あのですね。そんなラインはとっくに越えちゃってるんですよ。大体、なんで自分に損もなく終われる前提なんですか? そこは自分でも考えてみてください。俺は遥にも言いましたよ。『どっちが負けても大変な事になる』と」
謝って取り返しの付かない事もある。
これでお咎め無しはあり得ないだろう。
「自分で……。お金を渡す、とか」
「……。確かにそれも解決手段の一つでしょう。ですが俺は求めません。答えは決まってます。命までは取りません。ですが、腕を一本落としてもらう、もしくは宮廷とギルドに訴えます。幸いにも証言者には事欠かない。恐らくそこの沙汰も同じだとは思いますが」
単に、自分の仕打ちが自分に返ってくるだけの話。
王宮に訴えればまず俺が勝つ。
仮に王宮の家臣どもが『戦争に必要だから』という理由で
罰を勝手に免除した場合、俺が動く。
こんな輩を無傷で野放しにはできない。
力を持たない民衆を斬っても、
この人は都合良く処理するだろう。
「そ、そんな。腕を斬られたら戦えなくなってしまう……」
こんな事をしでかすくらいなら戦えない方がマシだ。
「それは俺も同じですよ。貴女はそれを自分の手でしたんです。まさか英雄特権で免除、とか考えてませんよね? むしろ、英雄だからこそ責任を取らないと。力ある者の責務です。貴女には相手を強引にねじ伏せる力があるんです」
英雄だから人格者だとは限らない。
間違った力は刈り取らねば、同じ事を繰り返す。
「……」
「そもそも、本当に腕を斬られていたら死刑になっても許せません。貴女は通りすがりの強盗に腕を落とされて、相手が謝っただけで許せますか? 許せませんよね。なにせ、いきなりやってきて過失がないのに危害を加えられたんですから」
「私は強盗、か……」
「違います、モノの例えです。貴女は殺人者ですよ。話も聞かず、淡々と腕を斬っておいて全く動じなかったのがその証拠です。そこは自覚してください。……とはいえ、これは俺の意見です。後はこの二人にも聞いてみて下さい」
俺は、未だに暗い雰囲気のアリアと遥に水を向けた。
「私は絶対に許しません」
アリアはそうだろう。
初対面の人物だ、許す理由がない。
彼女はずっと雫さんを睨みつけていた。
「私は……罰は元凶の私ももちろん受けるから、一回だけチャンスを与えてあげて欲しい……」
遥はちゃんと自覚している。
己の非を認めつつ、機会を欲している。
過去の事からも分かる。
この子は間違いは犯すが、ちゃんと反省ができる子だ。
「雫さん、一つ言っておきます。貴女を下した後、俺は命を取っても腕を切り落としても良かったんです。貴女が仕掛けた真剣勝負はそういうモノです。分かっていますか?」
「……万に一つも負けるとは思ってなかった」
……もうこの場で斬っておくか?
負けたときのことを一切考えていない。
自分が奪われる想定もしていない。
さすが強者、自分勝手だ。
「そうですか。ところで……遥は今、自分の身を挺して貴女を庇った。そんな彼女に何か言うことがあるのでは?」
「!! 遥!! 本当にすまない! そして、庇ってくれてありがとう……」
「遥」
「なに? ハルくん」
「遥がそこまで言うなら、後は遥に任せる。とはいえ、許すわけじゃないよ。そうだね、期間は……半年。相談しあってもいいからそれまでに、俺の腕一本分に値する償いをすること。生半可な事じゃ俺の気持ちは動かない。期間中に達成出来なかったら、容赦なく腕を貰う。言い訳も聞かずに絶対奪う。次はないからね」
全然容赦なくなんかない。
他人の雫さんだけだったら、この場で結論を出している。
口調の温度も遥と雫さん相手では違う。
俺も本当、身内に甘い。
「本当!? ありがとう、ハルくん……大好き。雫先輩もお礼を言ってください!」
「あっ、ありがとう!」
「という事で、この場はこれで手打ちね。はーーーッ……。ああもう、喋り疲れた。こんなのもう二度とやりたくない」
深く息を吐いて、思わず呟いた。
人格矯正が伴わないと許す気もないけど、
さすがに遥は分かっているだろう。
真面目な話をし過ぎて本当に疲れた。
俺、こういう争い事には性格的に向いてないのに。
アリア達と楽しい一日を過ごすはずだったのに、台無しだよ……。
とはいえ、今はアリアを元気づける事が急務だ。
この子の笑顔が見られるなら謝りたおしてもいい。
そして、一刻も早く日常に戻ろう。
◯
今回のリザルト
テイムモンスター一覧
・エンペラースライム
・エンペラーゴブリン
・エンペラーファントム
・エンペラーローカスト
・エンペラー冬虫夏草
(省略)
・遥
・アリア
・雫(不快なのでリリース検討中)
一区切り
という訳でもないですけど
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普通のハイファンタジー、ちょっと初期の層が厚すぎやしませんかね!?




