第20話 青年のお供vs水将軍レベッカ
魔王様が書状の話を通してくれているのかもしれない。
歩みを進めるごとに、宿にも普通に泊まれるようになってきた。
問題はただ一つ。
魔界の主食は……トウモロコシなのだ。
俺は頭を下げ、厨房を借りてご飯を炊いていた。
さすがにアリアも申し訳ないと思ったらしく。
『私はトウモロコシでも大丈夫ですから』
そんなセリフを言ったのだった。
まるで世界が終わりそうな表情で。
さすがに大げさだと思った。
が、彼女に悲しい顔をさせるわけにはいかない。
むしろそのセリフと表情もアリだと思った俺は終わっている。
俺は本当に弱い。最弱だ。
せっかくなので工夫して『トウモロコシご飯』を作った。
下味は秘伝だ。
新たな食材の出会いに歓喜し、アリアは俺に抱きついてきた。
どうやら今の俺は無敵らしい。最強だ。
腹八分ほどに腹ごしらえをして、次の関所に向かうのだった。
「どうやら火と風を破ったようですね。ふふふ、私は水将軍のレベッカ。他の二人のようにはいきませんよ」
着くなりいきなり話しかけてきた。
この人らってお喋りだ。
「あの、些細な疑問があるんですけど?」
「はい、なんですか?」
「関所って普通、交通を制限するところですよね。ここ、見るからに闘技場ですし、スルーしようと思えば出来るんですけど。何か理由が?」
「……私を身体能力のみの魔族と侮ってはいけませんよ! なんと、天族と魔族のハーフなのです! 遠距離の放出系魔法も使えますからね!!」
あ、誤魔化した。
しかも誤魔化し下手か。
その上、この人も自分の能力をベラベラと。
というか人だけじゃなくて天魔のハーフもいるのか。
愛だね。
「よし、じゃあ作戦を立てよう。遥とガイで接近戦。伊吹とアリアで遠距離攻撃。たぶん雷も有効だと思うよ。超純水とか使ってきても高電圧ならダメージ通るんじゃないかな」
そこでレベッカさんが口を挟んできた。
「ちょっと待って下さい! なんで多対一の作戦を練ってるんですか! 一対一で来て下さいよ!!」
「でも、俺は参加しないわけですし、わりと良心的じゃありません?」
「そう……なんですかね? あ、でもあなた良い男ですね。戦いが終わったら私のモノにして差し上げますよ?」
お、今回はちょっと惜しかったな。
「ハルくん、敵すらも口車に乗せかけて……」
さらに遥が続けて口を開こうとすると、アリアが遮った。
「晴近様」
「なんだい?」
「あの女、私個人で殺ってもいいですか?」
「なんか不穏な言葉が聞こえてきた気がするけど、また何で?」
「晴近様を狙ってる気配なので……」
おおっ、嫉妬してくれてるのか。
いつもなら止める所だ。
けど、そういう理由なら吝かでない。
「伊吹と同じ条件を呑んだらいいよ」
「伊吹さんと?」
「うん、もしもの時は俺のオーダーに従うってヤツ。もし、アリアに万が一の事があったら……俺は【エンペラー百鬼夜行】を展開してしまうかもしれない」
【エンペラー百鬼夜行】。
普通のテイマーは【モンスターパレード】と呼んでいる。
テイムしたモンスターの総攻撃。
それの皇式バージョンだ。
それでも、危険度から参加させられないモンスターも多い。
「あの、アリアさん。これ絶対ハルくんの言う通りにしておいた方がいいよ。多分だけど、ガイ先輩の時のことがまだ優しく思えちゃうから」
「ええええええ!!」
遥には【エンペラー百鬼夜行】の内容は教えてないんだけど。
語感か長年の経験か。
危険度を感じ取ったのかもしれない。
アリアとの付き合いも長くなっている。
遥が冗談で言ってないことが分かるのだろう。
「じゃあ取りあえずの作戦を伝えておくね。アリアは魔法メインだから遠距離を取ること。絶対に近接に持ち込まないように。そこから大規模魔法でも撃ってれば勝てる……かな」
「なんでいま言葉を濁したんです? 晴近様、私、最強ですし平気ですよっ」
「まあまあ。俺のオーダーも保険だとでも思って。単純にアリアが心配なんだ、頼むよ……」
「は、晴近様ぁああ」
「なんで作戦中にイチャつけるの?」
そう言った遥の瞳は濁っていた。
「そろそろよろしいですか? いい加減、始めたいのですが」
レベッカさんはしびれを切らしていた。
「すいません、お待たせしてしまって。こちらはこのアリアが出ますので。それと、試合中にこの子にオーダーを出してもいいですか?」
「あら、綺麗な方ですね。オーダー……命令ですか、別にいいですけど。……しかし見たところ、神威武装はお持ちでなさそうですけど。大丈夫なんですか?」
「心配なさらなくても持ってますよ。私の大事な方からもらった神威武装が」
アリアは誇らしげに答えた。
「なるほど、特殊型ですか……。時に、貴女は遠距離タイプみたいですね。私もですので、少し離れたところから勝負開始といきましょうか」
え、そういうのでいいんだ。
魔王軍の戦いって全体的にヌルくない?
もっとバーサーカー的な想像をしてたのに。
「私としてもありがたいです。……開始の合図は?」
「こちらが上空に向けて水球の魔術を放ちます。それが破裂した時に開始ということで」
開始の合図だけはバリエーション豊富だ。
「わかりました」
そしてレベッカさんが水球を上空に放ち。
それが破裂する。
二人とも長々とした詠唱は要らないタイプのようだ。
魔法名だけで戦闘の応酬をやり始めた。
「まずは小手調べっ! 【スターゲイザー!】」
アリアの追尾する魔力弾が放たれるが……。
「甘いです! 【アクアカーテン!】」
レベッカさんの水の防壁に防がれた。
……これはちょっとヤバいかも。
本気を出せば勝てはするだろうけど。
ちなみに二人とも空に浮いているわけではない。
地上だが、双方ともそんなに移動もしていない。
「なら……【メテオリックシューター!】」
今度は上空からの小さな星落としか。
「上から!? 【逆流大瀑布!】」
まるで逆流する滝のような水だ。
アリアの星は上手いこと逸らされた。
しかし、魔術師同士の戦いって会話の応酬があっていいな。
「くっ……【オーロラグリッター!】」
アリアの一番得意な魔術か。
でもコレ、単発で撃っちゃうとな。
相手を追い詰めてのフィニッシュ技に相応しいんだけど。
「そんなモーションの大きい技が当たりますかっ! 【マリンサーフ!】」
レベッカさんは水の上を滑るようにして避けた。
二人とも、技いっぱい持ってるね。
「チョコマカと……【ソーラレイ!】」
アリアはとうとう範囲魔法を使った。
しかし。
「っ! 炎熱魔法ですか! 水に勝てるとでも!? 【フリーズミスト!】からの【エリアスコール!】」
気温を下げつつ消火で鎮圧か。
思ったより優れた使い手だ。
それより。
このままだと、アリアは【ステラノヴァ】を使っちゃうな。
それはちょっと。
もうオーダーを入れよう。
「アリアッ! いったん距離をとって!」
「晴近様ッ!? はい!!」
躊躇うことなく言うことを聞いてくれた。
良い子だ。
「レベッカさん!」
レベッカさんにも声をかける。
これは彼女のためだ。
「勝負中に一体なんですか!?」
「これからアリアの高威力魔法をお見せします! 全力で防御魔法を展開してくださいね!! 最上級魔法ではないので、それを打ち破れなかったら負けを認めて下さい!」
「そんなのは私が決めます! 口だけじゃなくて実力で言ってくださいな!」
よし、オーケーと取っておこう。
「アリア、オーダーだ!! 目標、目視できるレベッカさんの上空!! そこに向け【エンペラー直射日光】だ!!」
アリアにオーダーを出す。
「これは【ソーラレイ】!? さすがにそのネーミングはあんまりじゃないですかッッ!!??」
アリアから先ほどとは比べものにならないくらいの炎熱がほとばしる!
上空から降り注ぐ超高温の範囲魔法。
これは直接レベッカさんに当てると死ぬかもしれない。
「これはっ!? 【フリーズミスト!】【フリーズミスト!】【アクアカーテン!】【逆流大瀑布!】【逆流大瀑布!】ア、アアァアアア!!」
最後の叫びは自身の魔力を振り絞ったのだろう。
今までの魔法をほぼ全部、フル魔力で使っているようだった。
本人は……魔力切れで地面に倒れている。
致命傷はなさそうだ、良かった。
これは勝敗宣言するまでもない。
レベッカさんが動けるようになるまで少し待つか。
「では俺たちの勝ちで。さすがに文句はありませんよね?」
「はい、完全に私の負けです。素晴らしい魔法でした」
なにやらスポーツマンシップらしきセリフを言い出した。
「貴女も素晴らしい魔法でしたよ。では死んで下さいね?」
「ちょっとちょっとアリア。どうしちゃったの?」
「離してください晴近様ッ! その女ころせないッ!!」
まったくもう。
アリアってば俺のためとはいえ、
たまに沸点が低いから困ってしまうよ。
◯
今回のリザルト
テイムモンスター一覧
・エンペラースライム
・エンペラーゴブリン
・エンペラーファントム
・エンペラーヘルハウンド
・エンペラーフェニックス
・エンペラーキマイラ
・エンペラーガーゴイル
・エンペラーローカスト
・エンペラー冬虫夏草
(省略)
・遥
・アリア
・伊吹
・凱
レベッカの魔法(一部)
【アクアカーテン】
【逆流大瀑布】
【マリンサーフ】
【フリーズミスト】
【エリアスコール】
相手のために沸点が低い→完全にブーメラン発言である。




