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第14話 青年は静かに怒る

毎度お読みいただきありがとうございます。

「陛下?」


「だってだって! お姉ちゃんからはるちゃんを奪おうだなんて! ──ハッ!!」


 陛下は正気に戻った。

 ご覧の通りだ。

 平素は「のじゃ」口調で威厳いげんあふれる王。

 その正体はただのダダ甘お姉ちゃんなのだった。


「コホン、戦争は冗談じゃ。書状には界王が晴近と親友だとか書かれておってな。ゆくゆくは天界に招いて仲良く二人のコンサートをと……ぐぎぎ」


「陛下、まだ少し素がもれてますよ」


「まあ、和平については異論ない。晴近についてはよくよく会談で話し合わねばならんようじゃがな……」


 会談って普通、和平に関する条約締結の話なんかじゃないだろうか。


「とにかく、すぐに天界に行くことはないですよ。あそこにはお米がないですからね。身の回りにお米に狂った娘がいるんで、食糧事情が解決しない限りは瑞穂みずほ国にいます」


「いや、解決しても亡命しちゃダメじゃよ? お主はもっと自分がヤバい存在じゃと自覚するべきじゃ」


「そんな大げさな」


「そう思っておるのは晴近だけなのじゃ……。以前のこと、忘れておるわけではあるまい?」


「以前のこと?」


「忘れておるのか……。と言っても一つでは無いが。例えばほら、バッタ」


「バッタ……?」


「あの悪徳商人の時じゃよ!! ほら、厚顔無恥こうがんむちにも我に暴利をふっかけようとしてきた!」


「ああ! いきなりバッタって仰るから何の事かと。【エンペラーローカスト】ですね。あれ、単体ではそこいらの子どもにも負けますよ」


 現に【エンペラーローカスト】は戦闘用ではない。


「単体ならな。お主の召喚するバッタは群体ぐんたいじゃから、もはや蝗害(こうがい)じゃよ……」


 蝗害(こうがい)

 それは、幾度も各国家を苦しめてきた災害である。

 わかりやすくいうと……。

 空を埋め尽くすほどのバッタが飛来する。

 それはことごとく人の貯蔵する食糧を喰らい尽くすのである。


 俺の【エンペラーローカスト】は任意にそれを引き起こせる。


 食べ物を尊んでいる俺としては極力使いたくない。

 まさに非人道的な手段だ。


「いやいや、現に使ってはないじゃないですか」


「お主……。脅された商人の顔色、真っ青を通り越して土気色になっておったぞ……」


「でもそれ自業自得ですし」


「これじゃからすめらぎの人間は野放しにできぬのじゃ……。吉備津彦きびつひこ仕込みの剣術だけでも手が付けられぬというに……」


「あ、それと陛下」


「な、なんじゃ!?」


「そう驚かなくても……。ただ、許可が欲しいと思っただけですよ」


「許可じゃと?」


「今後、雫さんのような輩が出てきたら容赦なく斬っていいですか? もちろん十二座席ゾディアックにも無茶をしないように通達して欲しいんですけど……。万が一、以前のように問答無用で来られて加減するのもバカバカしいので」


 あの時は武器を弾いて無力化しようとした俺が愚かだった。

 モンスターの攻撃で俺が勝っても再戦、なんて事前に言われていたとはいえ。


「……それはモンスターありか? それとも剣術のみか?」


「状況次第ですかね。といいますか陛下、神威武装持ちに加減しろと……? 遥にもモンスター無しの戦闘を強要されそうになりましたけど、俺、それで腕を斬られそうになったんですよ?」


「そうじゃった。晴近があまりにも規格外じゃからついな。許せ。あまり理不尽に絡まれるなら殺しても構わん」


『それに晴ちゃんが殺されでもしたらお姉ちゃん、発狂するし』

 と、陛下は小さく独りごちていた。


「とはいえ、よほどの事でもなければ殺生もしたくないですし。臨機応変にいきますね」


「それでよい。時に、晴近の仲間に治癒魔法の使い手は?」


「一人いますよ。さすがに四肢欠損までは治せませんけど」


「それならリスクも減るじゃろ。さて、こんなところかの?」


「はい、書状も無事に受け取っていただけましたし安心しました。これでおいとましますね」


「うむ、たまには顔を見せに来るのじゃよ」


 ◯


 謁見えっけんはつつがなく終わった。

 アリアも黙っていてくれたし、首尾としては上々だろう。

 だが、そう思っていたのもつかの間。


 どうやらまたトラブルのようだ。

 王城の入り口に筋骨隆々の大男が仁王立ちをしていた。

 もちろん知らない人である。

 彼は俺に向かって話しかけてきた。


「お前さんが雫と戦ったとかいう晴近か?」


「違います。俺、急ぎますので」


「そ、そうか。そいつはすまねぇ」


 何事も無かったかのように俺は横を素通りした。

 が、そう甘くもなかったようだ。

 彼は後ろから走って追いかけてきた。


「さっき門番に聞いたらやっぱりお前さんが晴近じゃねえかよ!! なんで嘘つくんだよ!!」


「明らかに面倒だったので。じゃあ、俺急ぎますので」


「あ、あぁ。……って、だから待てよ!」


「なんですか? ウチにはお腹を空かせた妹が待ってるのに……」


「なに!? お前さん、こんなところで油売ってる場合じゃねえだろ!!」


 貴方から絡んできたんですけどね。

 それと、ものすごく素直だ。


「すいません、冗談です。そうも信じられるとさすがに良心が痛みます」


「なんだ、腹を空かせた娘はいなかったのか……良かった」


 実は底抜けの善人なのかもしれない。


「それで、俺に何かご用件ですか?」


「そう! 俺の名前はがい! 雫と互角に戦ったと噂を聞いてな! 十二座席ゾディアック序列第二位の俺と腕試しをしてもらいてぇんだ!!」


「嫌です。それでは」


「方法はシンプルだ。お互いの剣を──だから待てって!!」


「そういうのは雫さんでりてますので。その勝負を受けても俺の時間が取られるだけで、単なる無駄ですし」


「無駄!? 男ならこう……最強の証明をしたいとは思わないのか!?」


「思いません。それでは」


「ちょっと冷たすぎじゃない!?」


 他の女性陣も一緒にいるのだが、彼とは関わりたくないらしい。


「遥、十二座席ゾディアック序列第二位とか言ってるけどアレ誰?」


 同じ組織なら多少は知ってるだろう。


「あの暑苦しいのはガイ先輩。以前、『男はみんなおっぱいが好き』って私に吹き込んだ人。あと見た目通り最強って言葉にこだわる人」


 こいつが元凶だったのか。

 真に受ける遥も遥だが。


「まだ縁、切ってなかったんだね」


「近寄ってはないんだけど、同じ組織だし……」


 ああ、それはそうか。


「大体、俺テイマーなんで。剣でしたらそこの遥とでも戦ってください」


「同じ組織のやつと戦っても意味ないだろ!? そこまで拒否するなら仕方がない……。『シングルアトラクション』」


 と、同時にガイの持つ剣が輝いた。

 そして、アリアの身体がヤツに引き寄せられ。

 その腕の中に収まった。


「遥たちは仮にも十二座席ゾディアックだからな。こいつを返して欲しければ俺との勝負──」


 言い終わらない内に俺は動いていた。

 雫さんの時のように武器を狙うなんてことはしない。

 まずはヤツの肩を浅くで斬り、剣を持っている腕を刺し。

 最後に、足の甲を剣で地面にい付けた。

 もちろんアリアにはかすり傷一つ負わせない。


「ガアアアァァァアアア!?」


「陛下に十二座席ゾディアック殺しの許可をもらっておいて良かったよ。それじゃあね、バイバイ。『さあ狂い果てろ、エンペラー──』」


 その時、遥が慌てて俺に飛びついてきた。


「待ってハルくん! それ以上やったら死んじゃうから! ほら、アリアちゃんも傷ついてないし!! お願いだからやめて!!」


 …………。


 その一言で俺は止めをさすのをやめた。

 アリアはすでに解放され、こちらに戻ってきていた。

 俺は地面に縫い止めた【不動剣クリカラ】を回収しつつ言う。


「………………次、冗談でも俺のアリアを人質にとるようなマネをしたら殺すから」


「アガァァッ!! イテェェェエェ!!」


 聞こえてないか。

 痛みのあまり、のたうちまわるガイ。


「あ、あの晴近様。さすがに見てて痛々しいので治癒魔法をかけてもいいですか……?」


「アリアがいいならいいよ」


「では──【ヒーリングムーン】」


 途端、月光のような優しい光とともにガイの傷が塞がりはじめる。

 なかなか便利な魔法だ。


「あ……痛みがやわらいできた……。そうか、俺の【クラウソラス】との相乗効果か」


「じゃあ俺たちは帰るから。もう一人で動けるよね」


 それだけ言ってきびすを返そうとすると。


「ま、待ってくれ! ほんの軽い気持ちだったが、どうやら逆鱗げきりんに触れちまったようだ。その事は謝る! この通りだ!」


 ガイは地面に頭をこすりつけていた。


「もういいから」


 最初のやり取りからするに、別に悪いヤツではないだろう。

 ただ、冗談にしろ手を出す相手が最悪だった。


「いや! お前さんのデタラメな剣術……惚れちまった! 師匠と呼ばせてくれ!!」


「やだよ」


「そこをなんとか!」


「晴近様、それよりも早く帰ってお米炊きましょう?」


 アリアは先ほど捕まったことなど気にしてないようだった。


「米? 嬢ちゃん、米が好きなのか?」


 なぜか米の話題に食いつくガイ。


「それはもう! 三食お米で良いくらいです!!」


 いや、まあウチは大体お米なんだけどね。


「それなら……詫びと弟子入り料を兼ねて、定期的に【天空米てんくうまい】を上納する。これでどうだろう?」


 ……【天空米】だって?

 それは一等地で作られた【ツヤヒカリ】を、とある方法で天日干しした特別なお米。


 陛下ですら毎日は食せないものだ。

 なぜ、ガイがそんなものを?


「晴近様、【天空米】ってなんですか?」


 アリアの純真な瞳が訴えかける。


「そうだね……アリアの好きな【ツヤヒカリ】の超高級品かな。値段相応の味かは知らないけど、一般市民じゃ手が出ないよ」


「!!!!!!!」


 あ、これダメなパターンだ。


「ところで、なんでガイが【天空米】なんてレアなものを?」


「実家が米農家でな。様々な品種を試行錯誤しながら作ってる。【天空米】もそのブランドの一つだ」


「晴近様!! ガイさんを仲間にしましょうよ!! 米農家様ですよ!!??」


 相変わらず米農家には甘いな。


「うーん、でもなあ」


「【天空米】以外にも【タケニシキ】、【北極星ほっきょくせい】、色々な品種を分けられるが……」


「晴近様ぁ…………」


 ダメだ、アリアが涙目だ。

 アリアがちた以上、俺の負けだ。


「分かったよ……。ただし、丁寧には扱わないからね。すでにテイムしてあるから、場合によっては肉壁として敵の矢面に立たせもする。それでいいなら……まあ、たまには剣の手ほどきはするよ。とは言っても俺ってテイマーだから剣術ができても、そんな威張れるものじゃないんだけど……」


「!! それでいい!! よろしく頼む!! 師匠!!」


「……ハルくんの剣術が『威張れるものじゃない』んだったら十二座席ゾディアックの立つ瀬がないんですけど……」


「あの、ワタクシ目の前で見ていたハズなのに、どう動いたか全然わからなかったのですけど……」


 遥がボソリと呟き、伊吹は呆然としていたのだった。


 ◯


 今回のリザルト


 テイムモンスター一覧


 ・エンペラースライム


 ・エンペラーゴブリン


 ・エンペラーファントム


 ・エンペラーヘルハウンド


 ・エンペラーフェニックス


 ・ガーゴイル(魔改造中)


 ・エンペラーローカスト


 ・エンペラー冬虫夏草とうちゅうかそう


(省略)


 ・遥


 ・アリア


 ・伊吹


 ・がい(←new!!)

今回召喚しようとしたのはガチのヤツです。

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