第13話 青年は和平の使者になる。
「ワタクシ、今回はお役に立てませんでしたわ」
「まあまあ、まだ【ラブリュス】の能力も詳細は把握できてないからね。遥、ガーゴイルが載ってたらしき馬車の所属は分かりそう?」
ガーゴイルを下し、現在は現場周辺を検証中。
霧はモンスターの仕業だったので、とっくに晴れている。
遥の持つ【マナディテクト】で残留魔力を探ってもらっているのだった。
「うん……恐らく魔族だね」
「南の街道だし、魔界関係かな。意図して置かれたんだったら少し面倒臭そうだね。取りあえずギルドに報告して帰宅、国書は明日にしよう。そうだ、今日はアリアの魔法が活躍したし、晩ご飯のリクエストでも受けようか?」
「本当ですか!? それでしたら、卵と銀シャリのバリエーションを是非!!」
朝、TKGを絶賛していたアリアはそんなリクエストをするのだった。
卵とご飯の組み合わせか。
「よし、それじゃあ今日はオムライスを振る舞おう。人によってはカレーライス以上に好きな人もいるよ」
「!!!!!!」
驚きすぎである。
◯
依頼達成の報告をし、俺たちは帰宅した。
その晩、約束通りオムライスを作ったらアリアの興奮が凄かった。
アリア内ランキングでかなり上位に食い込んだようだ。
翌朝、朝食後に改めて王城へ向かうことにした。
ちなみに遥はここのところ毎日食べに来ている。
これからは伊吹もそれに加わることになりそうだ。
「この中で王城が始めてってアリアだけか。とはいえ、アリアは実家がお城だから珍しくもないよね」
「いえ、自分の家ではないですし新鮮ですよ? なんと言っても天界とは違ってお米があるでしょうし」
お米が絶対基準のアリアだ。
どうあがいても天界に勝ち目がない。
「私たちは来慣れてるんだけどね」
「とはいえ、十二座席が勢揃いする事なんで滅多にありませんわ……」
遥と伊吹も余裕なようだ。
こういう所に縁のある人間ばかりなので、これは楽だ。
「そういえば晴近様。晴近様はこのお城、初めてじゃないんですか?」
「ああ……この中ならハルくんが一番慣れてるよ」
アリアの質問に遥が答えた。
まあ、確かにそうなんだけど。
「そうなんですの? 界王と縁があるだけじゃなく、王城も? やはり、何者なんですの、晴近さん」
「ご存知の通り、十二座席でも貴族でもない普通の人だよ」
「ワタクシも分かってきました。晴近さんのソレは信用できませんわ……」
「あ、もう入室していいみたいだよ。とりあえず書状を渡さないとだね。そうだ、ちょっと様子見をしよう、危うそうだったらアリアは喋らない方がいいかも」
俺たちは謁見の間へと進んだ。
「おお! ようきたな晴近! まったく、たまには顔を見せよと言うておるのに。妾も寂しゅうて仕方がないわ」
やたらとフランクに語りかけてくるこの女性。
東雲国王陛下といって、この国の頂点だ。
妙齢の女性で、年は雫さんと同じくらいだったか。
黒目に黒髪。
しかし雫さんとは真逆で柔和な雰囲気を持っている。
「いえ陛下。庶民が気軽に遊びにきてもダメでしょう」
「相変わらず何を言うておるのじゃ……。顔パスできる庶民なぞおるわけなかろう」
「あ、あの、陛下。不躾ながら一つよろしいでしょうか?」
伊吹が質問をした。
お嬢言葉ではないので逆に新鮮だ。
普通はこういう場面で質問などしないが、我慢できなかったらしい。
「ん? 伊吹か。そう恐縮せずともよい。どうしたのじゃ?」
「はい。晴近さんと随分親しいご様子ですが、どのようなご関係で……?」
「なんじゃ晴近。遥以外には説明しておらんのか?」
「ええ、まぁ」
「お主は……。よかろう、代わりに妾が答えよう。晴近はな、我が王家の親戚のようなものじゃ」
「なるほど……。え、ええぇぇ」
伊吹は驚きのあまり叫びそうになったが、慌てて口を塞いだ。
「とは言いましても、もう遠い昔の話じゃないですか……」
「いや、英雄の子孫が何をいうておるのじゃ」
「え、英雄!?」
今回は抑えきれなかったらしい。
思わずといった感じで声が出ていた。
「そうじゃよ。吉備津彦という名を聞いたことがないかえ? この国のお伽噺の元になるくらい有名人なんじゃが」
「あ、そのお伽噺、耳にしたことがございます。といいますか、憧れてました……」
「その吉備津彦が晴近のご先祖で、我が王家から分家した先じゃ」
「はっ、晴近さんって王族!?」
「違うよ。ご先祖様が遠い昔に分家しただけで、今では一般庶民」
「半分王族みたいなものじゃよ。『王家の血筋が途絶える時は皇の一族から人を迎えるべし』という言葉も伝わっておる。十二座席はその事を知らん人間も多いが、それ以外だと有名な話じゃ。現に、ここに来るまで顔パスで全て通り抜けられたじゃろ?」
「は、はい。不思議には思っておりましたが」
「陛下、分家はともかく本日は要件がございます。よろしいですか?」
ズルズル脱線しそうなので無理矢理修正を試みる。
本来ならば不敬もいいところだ。
「うむ、要件とな?」
「実は界王様から書状を預かっておりまして。陛下、天界からの使者が来たと今まで耳になさったことは?」
「界王じゃと!? 晴近……今度は何をしたのじゃ。ん、天界からの使者? そのような者が来たとは聞いた事がないの」
「やはり。陛下、天界や魔界からの案件って十二座席に一任しておりませんか?」
「その通りじゃ。防衛の専門機関じゃからの。他に適任もおるまいて」
「それがですね、外交だと話が違うんですよ。率直に言いますと、防衛の機関が和平の邪魔をしています」
「ん……? すまぬ晴近、話が見えん」
「はい、預かった書状というのが和平交渉のものでして。天界から何度も届けようとしたらしいですが、十二座席に邪魔されて一度も陛下の元へ届いてないらしいですよ」
「……それはまことか?」
「間違いないです。書状の件は界王様から直接お聞きしましたし、十二座席についても最近、トラブルがあったばかりで」
「トラブル……? 遥、それは事実か? 皇の世話役である、そちなら状況を把握しておろう」
「はい、間違いございません。私のせいでもありますが、我が組織の序列第一位が晴近様に冤罪を被せました。その上、決闘を申し込みました。保険をかけられていたので大事には至りませんでしたが、損傷は腕の切断。下手をすると失血死に至るところでした」
こういう畏まった場では、俺の事を『晴近様』と呼ぶ遥だ。
遥の役職は十二座席の中でも異例。
そして陛下が遥に事の顛末を尋ねたのは当然。
その役割は俺の傍に侍ること、だからだ。
「序列第一位……雫か。血の気の多いところはあったが、よもや晴近に……。潰すか」
陛下の雰囲気が変わった。
平素は変わった言葉遣いの気の良いお姉さんなのだが、やはり一国の王。
その本質は王者だ。
「いえ、陛下。その件は今は俺が吟味しておりますので、少しお任せいただけませんか? 雫さんが目標達成できなければ俺が彼女の腕を落とします」
「そうか……。少しモヤモヤするが、晴近がそう申すなら」
「とはいえ、十二議席については改善案を具申したく存じます」
「改善案とな?」
「はい、彼らはいわゆる特権に守られています。今回の件は相手がある意味、俺で良かったですが、これが市井の人間だったら言い訳もできずに殺されていたわけです。その上、治安ギルドなんかが介入しようにも治外法権で干渉できません。今回の和平が成れば天魔相手に割くリソースにも余裕ができます。是非、十二議席の組織内容を見直してください」
「ううむ、そうじゃなあ。国防の要だとはいえ、確かに特権を与えすぎてはおるか」
「……陛下。これ呑まないなら、俺、この国を見限って天界に行きますからね」
「な、なんじゃと!!??」
「幸いにも次期界王候補なので」
「はっ!? 界王候補!? 何を言うておるのじゃ!?」
「ちょっとしたコネがありまして。現在は保留中なんですけどね」
「ならん、ならんぞ!! 晴近が他勢力のトップなど、ヤバすぎるのじゃ!!」
「それでしたらどうします?」
「組織案、すぐに見直すのじゃ……」
「ありがとうございます。あ、これ預かってきた和平書状です」
俺は預かった書状を側近の方に渡した。
その際、後ろの方から小さな声で、
「晴近さん、陛下を脅してますわ……」
「ハルくんだからね……」
なんていう言葉が聞こえてきた。
書状を受け取り目を通す陛下。
そして。
「……天界とは戦争じゃ」
そう一言、呟いたのだった。
◯
今回のリザルト
テイムモンスター一覧
・エンペラースライム
・エンペラーゴブリン
・エンペラーファントム
・エンペラーヘルハウンド
・エンペラーフェニックス
・ガーゴイル
・エンペラーローカスト
・エンペラー冬虫夏草
(省略)
・遥
・アリア
・伊吹
【ラブリュス】
固有能力
雷光ノ一撃
雷霆万鈞
バッドステータス
なし
note
雷斧の神威武装。
そのポテンシャルは聖剣魔剣に勝るとも劣らない。
広範囲に展開できる殲滅武器。
彼女はまだ未熟なので、性能全てを引き出せていない。
迷宮は本来
侵入者を迷わせるためではなく、
中の怪物を閉じ込めておく意味もある。