第12話 青年とお供vs霧のモンスター。
前回までのあらすじ
なんか幼馴染みが、なりふり構わない感じになっていた。
「晴近さんって、こういう依頼をしょっちゅう請けてるんですの?」
天界の時と同じく、俺たちは荷台に乗って進んでいた。
「しょっちゅうと言うか、俺が【ベルメル】の街にいて緊急を要する場合のみだね。もちろん請け負える範囲で。そもそも今回みたいなのは治安ギルド案件だし」
テイムした際に頼まれたので、敬語はもうやめている。
「治安……ワタクシは初めてですわ。まあ、新参なので経験不足なだけかも知れませんけども」
「伊吹ちゃん、私たち十二座席は天魔からの防衛がメインだから、こういうクエストには駆り出されないんだよ。管轄外ってやつ」
俺の代わりに遥が先輩として答えてくれた。
「天族は最近まったく攻めてきませんし、我々には余裕があるはずですわ。招集も全然かかりません。モンスターの駆除も協力し合えば良いですのに……」
「伊吹、それについては打開策があってね」
「打開策?」
「実は俺、界王様からの和平書状を預かってて。陛下に話が通ればその分リソースに余裕が出来るから、検討してもらえるかも」
「界王!? 晴近さんって何者ですの……?」
「俺というか、そこのアリアが界王様の娘なんで。あ、アリアもテイムしてるし敵意は全くないから、イジめないでね」
「えええェェェ!! 初耳ですわッ! 普通のご飯大好き美少女かと……」
確かに、一見するとそうとしか見えない気がする。
「? そうですね、私、銀シャリ大好きですよ。もし天界に置き去りにでもされてたら発狂してた自信があります」
アリア、故郷に残って発狂はどうなんだろう。
「といいますか、アリアさんに羽が無いのはどういう事なんですの……?」
もっともな疑問だ。
伊吹もテイムしたし、話してもいいか。
「これ一応まだ内緒で。それに関しては、三年前の襲撃事件を覚えてる? 神威武装授与の時の。その際に一悶着あってね。羽を斬られて、そのまま消失しちゃって。死にそうな所を俺の武装で補完した感じ」
「……衝撃の事実が多すぎて言葉もありませんわ……」
「そうだ、現場に着く前に各ポジションを決めておこうか」
「ポジションですの?」
「うん、まだ即席パーティだし、連携は出来なくともお互いが邪魔にならないように」
「ワタクシ、パーティ行動は慣れてませんしお任せしますわ」
「ありがとう。それじゃあ──聖剣持ちの遥が前衛、俺が司令塔で遊撃も兼ねる。中衛は雷使いの伊吹にお任せして、アリアは後方で砲台役。取りあえずこんな所かな。作戦は歩きながらで」
「ずいぶんと手慣れていらっしゃるんですね」
「なにせ神の子だからね」
「神の子??」
「伊吹ちゃん、そこにツッコんでも意味ないよ……。ハルくん適当だし……」
「私、なんとなく分かりますよ」
「そうなのッ!?」
諦めた感じの遥にアリアが答え、驚かせていた。
◯
クライヴさんに伝え聞いた場所にかなり近づいてきた。
すでに辺りには霧が立ちこめており、見通しが悪い。
俺たちは先ほどから徒歩に切り替えていた。
荷物は持ってきてなく、荷台は途中に置いている。
はぐれないよう細心の注意を払っているので、歩みは酷く遅かった。
「……方角が分からなくなってきたな。遥、頼める?」
「うん」
先頭を警戒する遥に指示を出す。
「? 遥さん、方角が分かるんですか?」
そうか、アリアは遥の事を知らないんだった。
「俺が説明するよ。遥は伊達に聖剣持ちじゃないからね。それに相応しい能力が備わってるんだ」
「能力ですか?」
「そう。汎用性が高いから、パーティにいると重宝するんだよ。実際、かなり助けられてる。今はそれの応用で、この霧の大元に繋がる魔力を探ってもらってるんだ」
「そんなことができたんですね! いつもヘッポコ──じゃなくて、女の子らしい所ばかり見てたもので」
「ヘ、ヘッポコ……」
遥は衝撃を受けていた。
普段とのギャップもあるし、仕方が無いとは思う。
「まあまあ、遥ってこれでも強いんだよ。ポテンシャルは雫さんに勝ってるし、そうだね……アリアが魔力と魔法の弾数を絞れば遥が勝つかも」
「ええええ!?」
メチャクチャ驚くアリア。
「そもそも、比較対象がハルくんっていうのがおかしいんだよ……」
「晴近様、一体どれだけ強いんですか……」
「俺は剣術以外はそんなでもないよ。アリアみたいな広範囲の魔法もないし。まあテイマーだからね、モンスターが強いだけ」
「アリアちゃん、ハルくんに騙されたらいけないよ。こう言いつつ、舐めてかかると痛い目に遭わされるから」
「遥さん、さすが実感がこもってますね……」
「え、晴近さんってそんなに強いんですの?」
伊吹まで会話に加わってきた。
「伊吹ちゃん聞いてない? ハルくん、雫さんを真っ向勝負で破ったんだよ?」
「え、あのバカ姉、人格はともかく戦闘力は国内トップクラスなのですけど……。ギルドでって伺いましたし、てっきり場を味方に付けたのかと」
「残念ながら一対一なんだよね。あと多分、ハルくんモンスターは攻撃に使ってなかったし、相当に加減してたと思う……」
「!?」
「いや、相手を見誤ってた俺は未熟だって。加減って言えば聞こえはいいけど、舐めてたようなものだし。あんなに躊躇なく来るならそれなりの対策をしたんだけど。結果、保険を使わされたわけだから」
「そうだね、そういえば二回目に雫さんに斬りかかった時、段違いに速かったね……」
「初撃は体が流されないようにして、カウンターを狙ってたんだよ。武器を弾き飛ばそうと思ってね。まさか、容赦なく魔剣の固有能力を使ってくるとは」
「あのバカ姉、固有能力まで使ったんですの!?」
伊吹、知らなかったのか。
「うん、なんか残像みたいなやつ。連続使用は出来ないみたいだったけど、お陰で腕を斬り飛ばされちゃって」
「【ミラージュシフト】ですわね。え、腕を斬り飛ばされて??」
「まあ、なんだかんだで無事だったんだよ。ちなみに遥の頼みで猶予はあげてるけど、半年以内に俺を納得させられなかったら片腕を貰う予定。今のところはギルティー」
「そのまま斬ってしまえば良かったですのに……」
身内の情けは存在しないらしい。
無理もないけど。
というか、それを聞いて罪滅ぼしに来たわけじゃないんだ。
「っと、そろそろかな。みんな警戒してね」
モンスターの気配が近い。
ここまで来ると俺でも察知できる。
「え、モンスターの気配が分かるんですの?」
「テイマーだから、距離が近づけばある程度分かるんだよ。離れてると遥みたいな能力に頼らざるを得ないけど」
「テイマーって凄いんですのね……」
「危機管理が出来ないと──遥ッ! 危ない!」
先頭で索敵を行っていた遥を思い切り自分の方へ引き寄せた。
遥のふわふわの茶髪が視界を横切る。
これは……情報の通り、上空からの襲撃か。
相手の攻撃は空振り、地面に激突するような鈍い音が響く。
「ハルくん──そんな抱き寄せて……! ああ、私いま守られてる!」
陶酔したように言葉を呟く。
俺の胸に収まった遥はそのまま正面から抱きしめてきた。
「いや遥、敵襲だから。次きたら死ぬよ?」
「うぅ」
名残惜しそうに離れたのだった。
「よし、それじゃあ作戦通りいこう。アリアを中心に俺たちで空からの襲撃を防ぐ。アリアは魔法をいつでも放てる用意を。指示は俺が出すから」
それからしばらく、俺たちは守りに徹した。
上空からの攻撃を武器で弾くたび、最初のような鈍い音がする。
時折モンスターの方からは「ゴボゴボ」という声が聞こえた。
この手応えはまるで石のような……。
ん? 空からの襲撃にこの鳴き声、それに石。
そうか、ガーゴイルか!
「そのまま聞いてほしい。これ、ガーゴイルだね。皆は引き続き防御に徹してて。アリア、準備は出来てる?」
「もちろんです。ガーゴイル……石でしたら【オーロラグリッター】でしょうか?」
「構えてるだけでいいよ。次に攻撃を弾いたら合図を出すから」
「はい、晴近様にお任せします」
アリアから信頼の籠もった声が聞こえる。
「……………………アリア! 今ッ! 上空に向けて出力二十%! 【エンペラーパトリオット】だ!!」
「パトッ? ああぁッ! また勝手に【スターゲイザー】が発動してるぅ!?」
アリアから輝く散弾が放たれる。
本来は敵を追尾する魔法だ。
今回は応用で、迎撃用のオーダーに切り替えた。
出力は二割にまで落としてある。
テイマーが指示した状態だと火力が増してしまう。
全力だとモンスターが粉々だ。
そしてガーゴイルは墜落した。
……よし、砕けてない。
「このガーゴイルの核はっと。……お、翼の根元、背中の真ん中辺りか」
俺は背中に付いている宝珠を【不動剣クリカラ】でコツコツと叩いた。
テイム成功だ。
こういう系統のモンスターはコツが要る。
「……晴近様、もう魔法に関してはとやかく言いませんけど、まさかガーゴイルをテイムしたんですか?」
【エンペラーパトリオット】について何か言われるかと思った。
アリアは許してくれるらしい。
「そうだよ?」
「普通、非生物系ってテイムできないハズなんですけど……晴近様ですしね」
「なにせ神の子だからね。おっと、後で直すにしても先に保護しておこう。【送還】っと」
「え、あの。【送還】って今どこに送ったんですか??」
「んー…………。内緒」
「怖いですよッ!?」
◯
今回のリザルト
テイムモンスター一覧
・エンペラースライム
・エンペラーゴブリン
・エンペラーファントム
・エンペラーヘルハウンド
・エンペラーフェニックス
・ガーゴイル(←new!!)
・エンペラーローカスト
・エンペラー冬虫夏草
(省略)
・遥
・アリア
・伊吹
敵の気配が分かる=普通に剣士としての能力。
それでもこの人はテイマーだと言い張る。




