第11話 青年は緊急クエストを請ける。
これで本日の更新終わりにします。
「晴近さん、申し訳ござませんでしたわ!!」
朝、玄関の前に出ると知らない女の子が土下座をしていた。
◯
「雫さんの妹さん?」
聞けば、ギルドの騒動を聞きつけてとの事だった。
王宮関係者の身分証を持っていたので身元は確かのようだ。
とはいえ、身元が確かでも雫さんの例がある。
お相手が雫さんの妹というのは皮肉な話だった。
暫定だが、今のところ危険はないと判断。
俺は取りあえず招き入れてお茶を淹れていた。
「はい、あのバカ姉の償いを少しでもと思いまして。あ、ワタクシ伊吹と申しますわ」
伊吹さんは遥よりも小柄な女性だ。
ウェーブを描いた肩口くらいまでの金髪。
これで雫さんの妹?
遺伝子は仕事をしているのだろうか。
そして雫さんの妹だし、恐らく俺より少し年下。
姉とは違い、キツい印象は受けない。
その背中には大きな斧を背負っていた。
「いつから表で待ってたんですか?」
「昨夜からお待ちしてましたわ」
伊吹さんは優雅に言うが、一晩土下座してたのか。
常軌を逸した忍耐力だ。
正気の沙汰とは思えない。
というか、ご近所さんの目が気になる。
「それはまた。ご家族といえど雫さんご本人じゃないですし、連帯責任なんて問いませんよ」
「違うのです、ワタクシと家族の気が収まらないので」
「うーん。償い自体、今は幼馴染みの遥が一緒に動いてますからね」
「遥さんって、十二座席序列第六位のですか?」
「あれ、お知り合いですか?」
「ええ、バカ姉が可愛がってましたし。なによりワタクシも十二座席ですわ」
「おお、それはそれは。メンバー変動があったんですね」
「ワタクシは新参者ですからね。序列も第九位ですし」
「良い神威武装に恵まれたんですね。失礼ですが、その背中の斧ですか?」
「はい。【ラブリュス】と申しまして、いちおう聖剣の括りになりますわ」
その時、入り口からノックをする音が聞こえた。
恐らく遥だろう。
そのまま入るよう促した。
「ハルくんおはよう。今日の朝ご飯は──あれ、伊吹ちゃん?」
「遥さん。ご無沙汰してますわ」
「その口調、相変わらずのエセお嬢っぷりだね」
確か遥には以前、毒舌と言われた気がするが。
本人も随分な言いようだった。
仲でも悪いのだろうか。
「エセお嬢って言わないで下さいまし! これはクセですわ!!」
「なんで伊吹ちゃんがここにいるの?」
「我が家のバカ姉の責任を少しでも取るためですわ」
「責任? そういうの、ハルくんは迷惑がるんじゃないかな」
「それを決めるのは晴近さんですわ! 遥さんは邪魔ならさいで下さいな」
「ハルくんどうするの? あ、そうだ。私、自分を罰する方法を思い付いたんだよ! 朝食の後にでも言おうと思ってたんだけど」
「そうだね、提案次第かな。ん? 遥を罰する方法?」
「しょうがないから今言うね! ハルくん、私の腕なんか貰っても嬉しくないよね?」
「そりゃまあ。幼馴染みの腕を貰って喜ぶほど猟奇的な趣味はないね。雫さんの腕を貰って嬉しいわけでもないし」
「でしょでしょ? なので! ハルくんには腕じゃなくて私の貞操をあげようかと! もちろん初めてだからね! 私は罰せられてハルくんの得にもなる。まさに一石二鳥だよ!」
「……遥。既成事実を作って略奪愛をするか愛人枠に収まるつもりでしょ?」
「ナ、ナンノコトカナー?」
遥は下手くそな口笛を吹いていた。
「ワタクシがエセお嬢なら遥さんはビッチですわ……」
『ピンチはチャンス』
女の子は男より強い。
たくましすぎである。
聖剣持ちで美人だから、遥って引く手あまたなのに。
伊吹さんはビッチというが、途轍もなく一途なのかもしれない。
「そういうのはアリアの同意が要るんだって」
「あれ、そういえばアリアさんは?」
「例によってまだ寝てる。もう起きる頃だと思うよ」
と、ちょうど俺の部屋の戸が開いた。
「晴近様~、おはようございます──どちら様ですか?」
目をこすりながらアリアが出てきた。
すでに彼女は俺の部屋で目覚めることになんの違和感も抱いていない。
「初めまして、伊吹と申します」
「あ、どうもご丁寧に。晴近様の最強兵器、アリアです」
アリアと伊吹さんは頭を下げ合っていた。
この二人の相性は悪くなさそうだ。
「最強兵器?」
伊吹さんは俺に聞いてきた。
「そこは話すと長くなりますので、またその内にでも。これから朝食なんで、よければ伊吹さんも一緒にいかがですか? 簡単なもので恐縮ですけど、遠慮なくどうぞ」
「よろしいんですの? ご迷惑でなければお言葉に甘えますわ」
今日は手の込んだ仕込みはしていない。
手早く作ることにした。
「やはり銀シャリは可能性に満ちあふれていますね! 目玉焼きもベーコンも罪作りです。ほどよく焼けたベーコンの油をからめた目玉焼き。しかも焼き方は半熟のサニーサイドアップ。黒胡椒とのコラボレーションが食欲を刺激します。卵って実は万能だったんですね。最初にTKGを味わったときは衝撃が走ったものです! まさか、銀シャリと卵にあんな出会いがあるなんて。TKGを発明した人は天界の偉人列伝に加えたいくらいです。今日のお汁は白味噌が優しく、品の良い口当たりでした。いえ、他のお味噌も全て好きですよ。そうだ、シャキシャキのサラダも──」
天界に行く前後くらいからアリアは食レポに余念が無い。
今日は食前ではなく、食後のほうじ茶を飲みながら語っている。
作り手としては喜んでもらえて嬉しい限りだ。
最近はアリアも食事の準備を手伝うようになってきている。
この熱量だとその内、俺を追い越すかもしれない。
「……アリアちゃん、食事のたびに解説してるね。批評家かな?」
遥は若干引いていた。
「好きなものだから語りたいのが人情なんじゃない? 迷惑をかけてるわけでもないし、微笑ましいよね。遥はこんな空気の中、自分を罰する方法を提案しようとしてたの?」
「うん、全然平気だよ? そうだ、さっきの代替案を思いついたんだけど聞いてくれる?」
ろくな提案じゃない気がする。
「貞操うんぬんじゃないよね」
「もちろんだよ。なんと! その内容もズバリ、遥さんのおっぱい揉み放題プラン! 今なら膝枕オプション付き! これならアリアさんも妥協すること請け合い!」
「遥、狂ったの?」
「酷くない!?」
遥もアリアの批評だとか全然言えた立場じゃない。
というか揉み放題プランって。
いま加入するとお得とでも言わんばかりだ。
ほどよく狂っている。
お客さんがいるってこと、分かっているのだろうか。
先ほど伊吹さんが口にした遥ビッチ説が再浮上したのだった。
「それって常時?」
「うん、常時。男の子って皆そういうの好きって聞いたし、魅力的じゃない?」
「確かに嫌いな野郎は滅多にいないとは思うけど。ところで、その話を吹き込んだのは誰?」
「十二座席の先輩。雫先輩じゃないよ」
「悪いことは言わないから、その先輩とは縁を切った方がいいよ」
「ハルくん、私の事を心配して……」
「それもあるけどね。けどまあ、それについては身近に手頃な大きさのがあるし」
俺はアリアの顔を見つつ言った。
別に胸は見ていない。
「へぇッ!? 晴近様!? ま、まさか寝てる最中に私の胸を……!」
アリアは変な鳴き声をあげた。
「触ってないよ。そういうの、本人の許可なしではダメでしょ」
「良かったです。女の子にも気分というものがありますので。それに、恥じらいは大事だと思います」
とはいえ、この子って隙が多いんだけど。
「さりげに遥をディスったね。そういえばアリア、実家だと寝る時に抱き枕使ってた?」
「はい。なんで分かったんですか?」
「いや、だって。寝てるときの距離感が段々と近くなってきてるし、何となくそうかなと」
なにより、最初は自分の枕を抱きしめてたし。
「え”」
「気づいてなかったの? 最初は布団に入るだけ。次は俺の腕にしがみついてた。最近は俺の腕を枕代わりにしてるよ。朝、たまに腕が痺れてるんだよね」
「それはすいません。……私、そんなことしてました!?」
「フラフラと潜り込んでくるわりに、眠りが深いよね。別に謝ることでもないよ」
「……私、周回遅れになってないよね?」
アグレッシブな遥が驚愕していた。
なんともカオスな状況だ。
「すごい。これぞ大人の会話ですわ」
伊吹さん、これ大人というよりは単なる下ネタですよ。
◯
朝の片付けを終え、そろそろレオレオさんから預かっている国書を届けようかと思っていると、遥が話しかけてきた。
ちなみに和平書状については急がないらしい。
手元にあっても落ち着かないし、早いところ届けたくはある。
「ハルくん、そういえば言い忘れてた」
「もしかして、罰がどうこうより重要なことじゃない?」
「私にとっては罰の方が重要なの。ハルくんが留守中にギルドマスターが来てて、『エンペラーが帰ってきたら教えてくれ。緊急クエストだ』だって」
なるほど、クライヴさんが。
間違いなく重要だし、そっちを先に言うべきだ。
「じゃあギルドに行ってみるかな。伊吹さんはどうします?」
「ワタクシもお供しますわ。償いに関してなのですけど、しばらくは晴近さんに絶対服従をしようと思いまして」
「絶対服従……? 俺にテイムされるってことですか?」
「テイム? 晴近さんは剣士なのでは?」
「確かに剣士でも間違いはないです。でもですね、実は俺のご先祖様がテイマー剣士でして、その流れで本職はテイマーなんですよ」
「テイマー剣士って。なんですか、その職業……。絶対服従ですし、もしもテイムできるならそれでもいいですけど。人間になんて聞いた事がありませんわ」
「あ、構わないんですね。それでしたらコレどうぞ」
俺はきび団子を差し出した。
お茶も用意してある。
常にテイムできる環境を作り出すのは一流テイマーの必須条件だ。
「?? これ、いただいて良いんですの? あ、美味しい」
「どうぞ、お茶です。これでテイム完了ですよ」
「ングゥ!?」
アリアの時と同じ状況を想定していた俺は、団子とほぼ同時にお茶のスタンバイをしていたのだった。
◯
伊吹さんをテイムした俺は、三人を伴ってギルドへ入った。
テイムした際、さん付けと敬語はやめてくれと言われた。
次からはやめようと思う
皇家の始祖も三匹のモンスターを引き連れて鬼退治をしたらしいし、三は縁起の良い数だ。
ただし、今回の依頼は俺宛てなので、口を出さないよう彼女らには控えてもらっている。
「……来たか、エンペラー」
「すいません、遅くなりまして。それと、先日はご迷惑をおかけしました」
「いや、災難だったな。俺も庇ってやりたかったんだが……」
「十二座席に関しては治外法権ですからね……。アレはダメな特権です。今度、陛下に会ったら改善案を具申しておきます」
「すまねぇな。お前が願えば特権自体が潰れかねんな。それよりだ、遥からクエストの事は聞いたか?」
「はい。とはいっても、緊急ってことだけですけど」
「内容は言ってねぇのか……。ならこの場で正式に緊急クエストを発令しよう。南の街道沿いに正体不明のモンスターが現れている。それを排除して欲しい。方法は何でもいい」
「テイムしてもいいと?」
「ああ、テイムしても倒してもいい。とにかく退けてくれ。交易が止まってて商人どもが困っている」
「そのモンスターの特徴は?」
「現場では霧が発生。対象は空を飛びながら爪らしきもので切りつけてくる。種族は不明だ」
「なるほど……。わかりました、請け負います」
「いつも厄介事を押しつけてすまねぇ。今回は商人ギルドと合同の依頼だ。依頼料は弾ませてもらおう」
国書はこれが終わってから届けるか。
さっそく俺たちは現場に向かうのだった。
◯
今回のリザルト
テイムモンスター一覧
・エンペラースライム
・エンペラーゴブリン
・エンペラーファントム
・エンペラーヘルハウンド
・エンペラーフェニックス
・エンペラーローカスト
・エンペラー冬虫夏草
(省略)
・遥
・アリア
・伊吹(←new!!)
一挙投稿かつ、ちょうど11話というキリ番ですので、
ブクマに↓の☆評価等お待ちしております~。
もうね、ハイファンタジーの壁の分厚さったらないですよ!




