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第10話 青年は和平の書状を預かる。

かつて

これほど食の素晴らしさを説いた

なろう作品があっただろうか……。


異論は受け付けます。

 あれから場は一度解散し、俺はアリアに城内の案内をしてもらった。


 今は夕食前。

 食堂に集まり、準備が出来る前の雑談に興じている。

 レオレオさんの奥さんであるノアさんも一緒だ。


「貴方が晴近くんね。初めまして、アリアの母のノアです。娘がいつもお世話になっています」


「晴近です。こちらこそよろしくお願いします」


 アリアのお母さんはオットリした美人だった。

 顔立ちなんかは親子でよく似ている。

 俺はノアさんと、ほのぼのと挨拶をした。


「お父様、そういえば今日のメニューはなんですか? 瑞穂みずほ国とはまた違った品種の銀シャリをお出しするんでしょうけど、気になりまして。晴近様がいつもの【ツヤヒカリ】以外にも美味しい品種があるって仰ってたので、私、楽しみです!」


 アリアはレオレオさんに質問していた。

 ウキウキして聞いてるようだけど、米?

 というかアリアって米料理を全て銀シャリって呼んでる気がする。

 俺の教え方が悪かったのかも知れない。

 瑞穂国とは俺が住んでいる人族の国である。


「アリアちゃん、何言ってんの……? ウチ、米はないよ。常にパンだったでしょ? アリアちゃんも焼きたてのパンを、いつも美味しい美味しいって食べてたじゃない」


「…………晴近様、今すぐ帰りましょう」


 アリアが例の渋い顔になった。

 テンションは嘘のようにガタ落ちだ。

 同時に、目から光が消えた。

 相当ショックだったようだ。


「アリアちゃん!?」


 レオレオさんは娘の突然の奇行に驚いているようだ。


「止めないでください!! こんな、お米がない国になんかいられません!!」


「一体どうしちゃったの!?」


「お父様……『パンがなければご飯を食べればいいじゃない』」


 アリアは唐突にすめらぎ家の家訓を言った。

 完全に我が家に染まっているようだった。

 確かに家の主食は米だけど。

 余所よそ余所よそである。


「だから何言ってんの!? パンがあるからパンを出そうとしてるんでしょ!? ……あ、ハルチーのご飯を毎日食べてるからかー……」


「お父様も晴近様のご飯をご存知なんですか?」


「そりゃもちろん。旅の途中で何度もご馳走になったわけだし。思い出すとまた食べたくなるね。雑炊、炒飯……ああ、カレーライスにカツ丼なんかも美味しかったなあ」


「晴近様!!?? 私、今のメニュー……一つもお聞きしたことないんですけど!? お父様ばっかりズルいッッ!!」


 しかもこっちに飛び火したようだ。

 いつになく興奮している。

 わざとじゃなく、いずれ作る予定だったんですよ。


「アリア、また作ってあげるから。今晩はご馳走になりなよ。いつも、『農家や漁師、生産の方に感謝。食材を運んだ人、作った人にも感謝。食べ物は一つも粗末にしちゃいけない』って言ってるでしょ?」


「う……そうですけど……。いま私の中での『生産の象徴』は米農家の方なんです。もし晴近様が界王の座を継いだら、絶対にお米を国代表の作物にします」


 頭では理解できても納得は別らしい。

 そして、すでに米農家を贔屓ひいきするつもりマンマンだ。


「アリア、確かにお米は尊い。でもね、アリアがいつも銀シャリが美味しいって食べられるのも、他の農家のお陰でもあるんだよ。例えば、アリアの好きな納豆は大豆農家だし、ご飯のお供は全部そう。さっきレオレオさんが言ったメニューも色んな方の苦労が詰まってるんだ」


 意外なことに、アリアは納豆も好きだ。

 普通は好き嫌いが分かれるものである。

 最初はクセを消すように大根おろしを合わせて提供した。

 それから一時期、納豆にドはまりするアリアだった。


「……ごめんなさい、私が間違ってました……」


 アリアは俺の隣の席に座っている。

 席から立ち、身を寄せてションボリと謝って来た。


「いいんだよ。それなら明日、厨房を貸してくれるなら何か作るよ。お米はお土産用と道中用でたくさん持ってきてるし、調味料やスパイスなんかも一通り揃ってる」


 そんなアリアの頭を撫でつつ言う。


「本当ですか!? じゃあ! 朝はオニギリで、お昼はさっきのメニューをお願いします!!」


「うんうん」


 オニギリは簡単なようだけど、アレも立派な料理だ。

 作る人によって雲泥の差が生まれる。


「危うく本気で帰るところでした。私も瑞穂みずほ国民の端くれですからね、ソウルフードのお米には妥協できないんです」


 このお姫様。

 いつの間にやら我が国に寝返っていたらしい。

 初めて知った。


「いや、アリアちゃんは筋金入りの天使族でしょ……。王族の娘がなに言ってんの……」


 レオレオさんは呆れていた。


「うちの娘、こんなに食い意地が張ってたかしら……?」


 心底不思議そうにノアさんが呟いた。


 ◯


 翌日、約束通り厨房をお借りする事になった。

 本職のシェフの方を差し置いて申し訳ないと思った。

 しかし、コック長のピエトロさんは快く貸してくれたのであった。


 この国では瑞穂料理は珍しい。

 一般的には敵性地帯だからだろうか。


 だがむしろ、『勉強のため』と積極的に交流してきた。

 プロの探究心はすごい。

 頭の下がる思いである。


「お待たせ、それじゃあお昼ご飯ね」


「はい。なんだかさっきから、凄く良い香りが漂ってきてるんですけど……お昼のメニューは一体」


「レオレオさんの言ってたメニューって事で、カツ丼だね」


 どんぶりというのはB級グルメと見る向きもある。

 他のものを合わせて出しても王宮にはそぐわないかもしれない。


 実際、テーブルの上に置くとなんとも言えない感じだった。

 が、蓋を取るとアリアは感嘆の声をあげた。


「わあっ! 銀シャリの上に半熟のトロットロ卵でとじたキツネ色のカツ……。飴色のタマネギがまた素晴らしいです。香ばしい匂いは……このタレの仕業ですね! 彩りとして添えてある三つ葉も最高です! 横に付いているお吸い物が上品さをかもし出しています。もう湯気まで美味しそうです。ささやかに同居するお漬物からはびさびさえ感じます。えっ、七味しちみをかける事もある!?」


 なぜか食レポっぽいコメントを長々と言っていた。

 この子、最近は食のことになると人が変わる。

 テンションが上がりすぎている。


 ただし、それはお米関係に限る。

 パンの時は発動しない。

 ただただ黙々と食べているだけである。


「まあまあ。食レポもいいけど、冷めない内に召し上がれ」


「は、はい。……いただきます!!」


 そう言って手を合わせた後、お箸を取った。

 彼女は最初こそお箸を使えなかった。

 だがすぐに順応してしまった。

 昨日なんかはパンや肉がメインの料理だったのに、お箸を使おうとしていたくらいだ。


 なぜかマイお箸を家から持ってきていた。


「これは……! お父様!」


 器用にカツとご飯を食べ、彼女は口を開いた。


「ん? なんだい?」


「天界の伝統料理、このカツ丼を追加しましょう!」


「いや、加えるのは構わないけど。伝統じゃない上、お米は国民が手に入れにくいんだよ」


 レオレオさんは娘の奇行に慣れてきたらしい。

 さすがは一国の王。


「伝統は作るものです。お米がない? ないなら手に入れればいいじゃないですか。作るなり交易するなり、手段はいくらでもあります。大体、お米がないって。この国の国民って普段なにを食べて満足してるんですか……?」


 またも自国をディスり始めた。


「だからパンだよ。今のアリアちゃんに権力を渡しちゃうと、とんでもないことになりそうだね」


「アリア」


 さすがにレオレオさんにご迷惑はかけられない。

 ここは交渉といこう。


「はい、晴近様」


「丼というのはね、これだけじゃないよ」


「!?」


「かしこまった場にはあまり出されないけど、丼は宇宙だよ。これ一つで完結できると言ってもいい。大人しくしてたら家に帰って他も作ってあげる。天丼、牛丼、親子丼。場所によっては海鮮丼なんてのもある。アリアは大人しくできる?」


「私ッ、大人しくしますね!!」


「ハルチー、完全に餌付けしてるね……」


 アリアは食後に玄米茶を希望していた。

 さすがに俺も緑茶までは持ち込んでいない。

 紅茶しかないと分かるやいなや、またも渋い顔になったのであった。


 ◯


 昼以降も俺たちは城に滞在していた。

 本当は、早めの昼食を済ませ次第出立しようと思っていた。

 しかしレオレオさん達に押し切られ、もう一泊することになったのだ。


 そういう事で、夕食も俺が作った。

 皆の分を作りながら、

『そういえば俺、何しにここに来たんだっけ』

 という疑問が浮かんだが、考えないことにした。


 夕食はカレーライスだ。

 それを食べたアリアの反応がまた大変だった。

 この日を『カレー記念日』に定めて国民の休日にすると騒いでいた。



 そして翌日の朝。

 俺はレオレオさんに大量のお土産をもらっていた。

 和平書状を預かって別れの挨拶をしているところだ。


「レオレオさん、お土産までありがとうございます。また娘さんを連れてきますね。【ドラゴンフルート】の演奏もさらに高めておきます」


「楽しみに待ってるよ。さっきあげたフリーパスがあれば好きな時に天界に入れるから、いつでもおいで。アリアちゃんも、ハルチーの役に立つよう頑張るんだよ」


「当然です、お父様。そのための天界最強です」


「ん……? アリアちゃん勘違いしていそうだから言うけど。多分ハルチー、武力は別に求めてないと思う。まあ、その辺は僕が口を出すことじゃないか。二人なら上手いことやるでしょ」


「? 武力を求めてない?」


「アリア、名残惜しいけどそろそろ出発しよう」


「あ、はい」


 そうして俺たちは行きと同じく、荷台に乗って帰途についた。

 帰りは最初から【エンペラーフェニックス】を召喚した。


 衛兵たちは腰を抜かしていた。

 国王夫妻も度肝どぎもを抜かれていた。


 抜けるような天界の蒼穹そうきゅうに、【エンペラーフェニックス】の「いつまで~ いつまで~」という悲しげな【ホーリーコール】が響き渡っていた。


 ◯


 今回のリザルト


 テイムモンスター一覧


 ・エンペラースライム


 ・エンペラーゴブリン


 ・エンペラーファントム


 ・エンペラーヘルハウンド


 ・エンペラーフェニックス


 ・エンペラーローカスト


 ・エンペラー冬虫夏草とうちゅうかそう


(省略)


 ・遥


 ・アリア



【ツヤヒカリ】


 瑞穂国の代表的なお米の品種。

 それはもう、ふっくらと炊き上がる。

 強い粘りと美しいツヤがあり、うまみもまた強い。

 これ単品でも美味しく食べられる。


 この品種にはドラマが多く、様々なエピソードがある。

 皆が美味しくご飯を食べられるのも、

 全ては品種改良や工夫を凝らしてきた先人せんじんのお陰。


 炊きたてのご飯を食す時は、

 生産の方だけではなく品種改良の立役者にご先祖様、

 万物に感謝していただこう。


 お米は用途により品種が使い分けられている。

 お寿司などには【タケニシキ】などが使われる事が多い。

 カレーや炒飯にはもっとサラリとした品種が合うという説もある。

ちなみにSUN値(正気度)がヤバくなる系の

モンスター名は伏せてます。

バレバレですけども。


これもご覧の方のため。

ここの作者の6/5は優しさで出来ています。

優しすぎて優しさが母数を超え

溢れてしまうほどです。


異論は受け付けます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ローカストってどんなやつかと思えば… せめてエンペラーつけてからおぞましくしろよ‼︎笑
[一言] その気になれば飯と音楽は国境を超える平和の象徴!!(確信 ただし下手をすればその国流にされてしまうから要注意ですね!(ォィ
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