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第9話 青年は界王に謁見する。

前回のあらすじ

【エンペラーフェニックス】の異様さに

モンスターはビビって襲ってこなかった。

ツッコミ役は不在である。

 俺たちは謁見の間に足を踏み入れた。

 奥の玉座では界王様が悠然と座っている。

 周りには衛兵。

 俺の行動次第で彼らは容赦なく襲ってくるだろう。


 しかし、俺が口を開く前に界王様が先んじて喋り始めた。


「君がアリアちゃんの言っていた『晴近様』かい……。悪いけれどね、そこらの馬の骨にアリアちゃんはやれない。娘の結婚相手は僕がもう決めてるんだ。彼は素晴らしい青年だ。最初は嫌がるかも知れないけど、アリアちゃんもいずれ分かってくれるだろう。そういう事で、申し訳ないけど君は僕がこれから半殺しに……?」


 俺と界王様は目を見合わせた。


「あれ? 『レオレオ』さん?」


「んんん? 『ハルチー』? なんでここに?」


「それ俺のセリフなんですけど。レオレオさんって、まさか界王様だったんですか?」


「あ、うん。そういうハルチーこそ、『晴近様』?」


「えっ、あの、一体どういう状況ですか??」


 アリアが一番戸惑っていた。


「ああ、あの方は俺がテイマーの修行中に出会ったレオレオさん。さすらいの【吟遊天使】だよ。俺が心から尊敬する人の一人」


「れ、れおれお? お父様って『レオナルド』ですよ? お母様ですら『レオさま』って呼んでるのに……。それに、【吟遊天使】???」


「アリアちゃんには言ってなかったからなあ……。【吟遊天使】は僕が旅をする時の仮の姿だよ。ハルチーとは旅の途中で出会って意気投合してね。今では無二の親友さ。僕のギターとハルチーの【ドラゴンフルート】でセッションした熱い一夜は、今でも旅人達の伝説になってる」


「旅ッ!!??」


「たまに、この血生臭い環境に嫌気がさしてね。といっても、すぐに家臣に連れ戻されるんだけど」


「え? え?」


 アリアは混乱の極みだった。


「しかし参ったな、レオレオさんが界王様なら殴れないや」


 俺は意見をひるがえした。

 心から尊敬する人を殴れるわけがない。


「ハルチーが『晴近様』だったとは。似てる名前だなとは思ってたんだよね。危うく無二の親友を手にかけるところだった……。でも、僕からすれば渡りに船かな。さっき言ってたアリアちゃんの結婚相手ってハルチーの事だし。あ、勝手に話を進めててゴメンね、ハルチー。もしよかったらなんだけど、ウチのアリアちゃんいらない? そのまま次期界王になってもいいし、なんなら持っていってもいいよ」


「あ、いいんですか? 界王の座については後で考えるとして、そういう事なら遠慮なくいただきますね」


「ちょっと待ってください!! 『娘さんを下さい!』っていうイベントすらなく私、嫁に出されるんですか!? なんなんですかこの状況!!」


「アリアちゃん……。僕はね、ハルチーを探し出して義息子にして、酒を酌み交わすのが夢だったんだ……」


「それなら後で久しぶりにセッションでもします? 楽器をさかなにって感じで。音楽は世界の共通語ですからね。種族の境界すら越える素晴らしいものです。俺、【ドラゴンフルート】持ってきてますよ」


「本当かい!? これは……久々に燃えてきたなあ。ああ、家臣の皆は彼のこと、国賓として扱ってね。将来の界王候補だし。人族だからって無礼なマネをしたら誰であろうと即刻クビにするから」


 辺りにいる家臣の人達は息を呑んだ。


「わ、私を置き去りにしないでください!!!!」


 そしてアリアの叫びが室内に響き渡った。


 ◯


 それから俺たちは王のプライベートな休憩室に移動した。

 謁見の間は堅苦しいから場所を移して話そうということだ。

 今は客としてもてなしてくれている。

 こっちのお茶はどうやら紅茶らしい。


「なんで私よりお父様との方が仲良さそうなんですか……」


 アリアはあれからイジけていた。


「まあまあアリア、レオレオさんのは友情だよ。例えるなら【エンペラーフェニックス】の時と一緒。尺度が違うからね。アリアのは愛情。女性って意味でアリアをないがしろになんてしたことないでしょ?」


「晴近様ッ……!!」


 アリアは背後から抱きついてきて、俺の背中にグリグリと額を押しつけていた。


 これ、クセというかマーキングに近いのかもしれない。


「うんうん、仲良きことは美しきかなだね」


 遥とは違い、レオレオさんは祝福してくれていた。


「そういえば、お父様と晴近様ってどういう経緯で仲良くなったんですか?」


 顔を上げてアリアは聞いた。

 ちなみに身体はくっつけたままだ。


「ああ……。僕、常々言ってるでしょ? 『戦争反対、早く平和な世界にしたい』って。天使族って過激派も多いから、さっきも言った通り、たまに嫌気がさしてね。出奔して音楽で愛を伝えてるんだよ。その先で信念を同じくするハルチーと出会ったというわけさ」


「信念?」


「あれ? 俺の信念、アリアには言ってなかったっけ?」


 そういえば、伝えてなかった気もする。


「聞いてませんけど……。何なんでしょう?」


 俺とレオレオさんは顔を合わせ、頷き合った。


「「ラヴ&ピース!」」


「もうッ! ハモらないでください!! お父様も、私以上に晴近様と仲良くしちゃダメッ!!」


「そういえば、昔アリアは自分の種族のことを『神族』って言ってましたけど、レオレオさんは『天使族』って呼ぶんですね」


 親子なのになんで違うのだろう。

 何気なく質問してみる。


「ああ、アリアちゃんは祖父母や一部の過激派に色々と吹き込まれててね……。そこは僕の不徳が致すところなんだけど、今の若い世代は『天使族』って呼ぶように徹底してるよ。『神に選ばれた種族』なんて、他種族との不和の原因に他ならないからね」


「なるほど……。さっきアリアはご年配の人の発言をさえぎってたけど、それが原因ってこと?」


「あうっ!? そっ、それはっ」


 元の席に戻ったアリア。

 なぜか冷や汗を流している。


「ハルチー、それは違うよ。年配は『古代天界語』を使う者が多いんだ。アリアちゃんも祖父母の影響で一時期それに染まっててね。ある時、『古代天使語なんて可愛くないッ! 私、もう古代天使語はやめるんやよ!!』って言い始めてさ。たぶん、ハルチーに古代天使語を聞かせたくなかったんだよ思うよ」


「うっ……。だって、晴近様に幻滅されたくないですし……」


「アリア、俺むしろ古代天使語を喋るアリアも可愛いと思う」


 というか、ローカル言葉くらいで幻滅なんかしない。


「晴近様~」


 アリアはふにゃふにゃに溶けていた。

 再び背中にまとわりついてきた。


「アリアちゃん、ハルチーの前ではそんなに甘えるんだね。迷惑をかけてはいないかい?」


「いえ、逆に嬉しいくらいです。そういえばレオレオさん、界王の立場で天魔大戦を終結させようとしてるんですか?」


「そうなんだけどね。天使族の過激派はほぼ片が付いたんだけど、人族と魔族への和平交渉が中々上手くいかないんだよ。人族は昔の歴史から警戒心が強いし、魔族は『来たるべきハルマゲドンに備えて譲れない』って言い張ってね……」


 レオレオさんは溜め息を吐きながら言った。


「ハルマゲドン?」


「うん、あちらの伝承でそういうのがあるみたい。『天魔大戦の末、終末の獣が姿を現す。滅びたくなくば力で抗うがいい』だってさ。その時のために戦力を磨いておきたいんだって。そういうのは自分の種族だけでやって欲しいもんだよ」


「いずれは魔界にも行こうとは思ってましたが、そんな事情が……。あれ、人族って事は東雲しののめ国王陛下も関係あります?」


「あるねえ。大体、国認定の防衛組織を作って警戒してるくらいだから、こちらが使者を立てても門前払いされちゃって。せめて、和平書状くらいは受け取ってほしいもんさ……」


 あー……。

 国認定の防衛組織って、すごく身に覚えがある。

 何を隠そう、雫さんや遥がその一員だからだ。

 その組織の名前は十二座席ゾディアック

 名前の通り、聖剣魔剣クラスのオーナー十二人で構成されている。


 雫さんが序列第一位、遥が第六位だったハズ。

 まあ、あんな戦闘狂が序列第一位だったら和平交渉なんか聞かないか。


「レオレオさんも苦労してますね……。そうだ、よければ俺が和平書状を届けてきましょうか? 国王陛下への謁見でしたらできますし」


「本当かい!? さすがはハルチーだね、ただ者じゃない。じゃあ、後で正式な国和平書状をしたためておくよ。今日は天界流のおもてなしをするし、是非この王城に泊まっていってよ」


「お言葉に甘えますね」


「うん、ご遠慮なく。ちょうどいま夕食の用意をさせてるから、後で一緒に食卓を囲もう。それが終わったら久々にセッションしようか」


「レオレオさん、俺の【ドラゴンフルート】はまだ修行の最中ですけど、前よりは格段に使えるようになりましたよ……!」


「ふふ、僕のギターもそうさ。僕の演奏についてこれる者は(ごく)一部だ。これは腕がなるなあ……」


 俺とレオレオさんは不敵に微笑み合った。


 アリアは満足したらしく、俺の背中に指文字を書いて遊んでいた。


 ◯


 今回のリザルト


 テイムモンスター一覧


 ・エンペラースライム


 ・エンペラーゴブリン


 ・エンペラーファントム


 ・エンペラーヘルハウンド


 ・エンペラーフェニックス


 ・エンペラーローカスト


 ・エンペラー冬虫夏草とうちゅうかそう


(省略)


 ・遥


 ・アリア



【ドラゴンフルート】


 晴近の持つ横笛。

 古くは【龍笛りゅうてき】という名前だった。

 すめらぎ家のご先祖様の一人が、モンスターから譲り受けたもの。


 奥が深く、熟達すれば森羅万象あらゆる音を再現できるという。


 笛自体はテイマー御用達ごようたしの楽器。


 その昔、伝説のテイマーの一人も笛を所持していた。

 彼が使っていたのは縦笛だったが、そのテイム術は凄まじい。

 ひとたびその笛を吹けば、街中のネズミや子供を一気にテイムできるほどだったと言われている。


 晴近はその域までは達していない。

笛をくれたモンスターが

もし「朱雀門の鬼」だったら

その銘は「葉二はふたつ」ですね。


源博雅みなもとのひろまささんは別にテイマーじゃないですけど。


ネズミと子どもと連れ去ったのは有名なハーメルn

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ。 そもそも天魔大戦起こさなきゃ出ないとも取れる伝承じゃないですか終末の獣。 それなのにそのために軍部増強して戦争吹っ掛ける原因を作るなんて……ううむ。 現実世界となんとなく重なり…
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