りおな
高校入学して、最初の音楽の授業で、先生は歌の上手な生徒とギターの上手な生徒を推薦し、皆の前で演奏するという授業を行った。ギターで響が、歌でりおなが推薦され、皆の前で演奏することに!響は中学時代、相棒の麗と一緒に狂霊と恐れられた不良で、りおなは歌は上手であったが、目立たない生徒であった。
この授業で、お互いの才能に知り、次第に惹かれ合うようになっていった二人。
バイト帰りにふと、響と出会ったりおなは・・・
空が徐々に、紫色に染まりはじめる。
この空の色を見ると、辛いこと、悲しいこと、嫌なこととか何もかも、何処かへ飛んで行ってしまう気になる。私が癒される大好きな時間。
「今日も疲れた~。」
「でも、時給1000円、朝5時まで働いて日当10,000円夜食付き。頑張らないと。」
喉渇いたから、目の前のコンビニ寄って帰ろうかな。
でも、怖そうなバイク停まってるけど大丈夫かな?
「あれ、りおなじゃねぇ?」
「何やってんだよ。こんな朝方によ?」
「響くん?響くんこそ、こんな朝早くに何してるの?」
「俺?麗とバイクで今まで流してたんだよ。麗は便所行きてぇって、コンビニの中。」
「りおなは?」
「私は、そこのパン工場でアルバイト。家お母さんしか居ないし、高校生になったら、お小遣い貰えなくなったから。携帯代位稼がないとと思って。」
「そっか?大変だなぁ。朝までかぁ?」
「パン工場って、大変だろう?」
「お前、あんなに歌上手いんだから、そっちの道で何かないのかよ?」
「うん。歌は好きだけど、お金にはならないよ。」
「そうだよなあ?アイドルにでもならなけりゃ、高1じゃ音楽で金稼げないわな?」
「この間の音楽の授業のセッション楽しかったなぁ?授業が全部あんな感じだったら楽しいのになぁ?」
「楽しかった。私もまた、響くんの演奏で歌いたいなぁ。」
「・・・」
「りおな明日の日曜、なんか用事あるか?」
「なかったら、ちょっと俺に付き合えよ。」
えっ?
こんな事ってあって良いの?
こっこれはデートの誘い?
学校の女子に大人気の響くんと?
「用事なんてなにもないよ。ずっ、ずっと空いてる。」
「そっか?じゃあ12時に迎えに行くよ。」
「ハっハイ。」
「おー麗!りおな居んぞ。」
「おーりおな!何してる?」
「バイトだってよ。麗、俺りおな送ってくっから、先帰ってろよ。」
「わかった。りおなじゃあな!響ちゃんじゃあ、また明日ね!」
「おーまたなあ。」
「響くん。送ってくれなくても大丈夫だよ。電車で帰るから。」
「良いよ。バイクで送ってやるよ。俺のメット被って、まだ、朝方はバイクだとちょっと寒いから、俺のジャケット着とけ!ちゃんとステップに足乗せて、俺の腹に手を回すんだぞ!危ねえかんな?」
「うん。」
なっ、なんて、幸せなの?
こんな夢のような事って!
私も響くんに憧れてたんだよ!
でも、女子皆に人気だし、中学の時から喧嘩強くて、私の中学まで知らない人居ない位の有名人で!
でも、本当に優しくて!
神様、夢なら覚めないで!
朝靄の紫の世界、彼の背中の温もりを感じながら、バイクの振動とオイルの焼けた匂い、全てが夢のような出来事だった。
「りおな!ここで大丈夫か?」
「響くん。あっあの、ありがとう。」
「おう!じゃあ、12時にここに迎えにくっから、ちゃんと寝とけよ。」
「じゃあな!」
「うん。おやすみなさい!ありがとう!」
彼は片手を上げ振り返らずに、白煙を出しながら、見えなくなってしまった。甘いオイルの焼けた匂いだけ残して。
ぜっ全然寝れなかった。
顔が浮腫んでる!
目が充血してる!
もうこんな時間!
何着て行こう!
ヤバい、遅れちゃう!
バイクの音が聞こえてきた!
ヤバい!ヤバい!ヤバい!
「りおな、お前寝てないだろう?」
「えっ?なっ、なんで?」
「へっ変な顔してる?」
「ううん。何となくな。」
「何か食ってから行くか?」
「うん。何処行くの?」
「まあ、着いたら分かるよ。」
初めて男子とファーストフード店に入った!
なんて幸せなんだろう?
幸せ過ぎる!
軽く食事を済ませて、バイクに乗って響くんが行きたいというところへ!
「りおな!着いたよ。ここ!」
「Bar Purple Haze?」
「バー?」
「バーパープルヘイズって言うんだよ!」
「俺んち!」
「きょっ、響くん家?」
ドアを開けると、木製のカウンターその後ろには、凄い数のお酒が飾られて、奥にはグランドピアノにドラムセット、ギターアンプのような物が置かれ、演奏出来るようなステージがあった。
今まで入った事の無いような空間であった。
「おー親父、歌姫連れて来たよ!」
「何?歌姫だと?」
「りおな!俺の親父!」
「はっはじめまして!」
「りおなちゃんて言うのかい?響が歌姫って言うくらいだから歌は上手なのかな?」
「おーマスター、響ちゃんが歌姫って言うくらいだから、楽しみだね?」
「誠さんもいたんだ?りおな!この人誠さん、プロのジャズベーシスト!この人のベースはやべーぞ!」
「はっはじめまして!」
「親父、りおなに店で歌わせてやってくんない?」
「えっ?えっ!なっ、何?何?」
「まあ、お前が連れて来るくらいだからな。聴いて俺が気に入ったらうちで歌っても良いぞ、だけど、いくら上手でも、Jポップじゃお客さんの前では歌わせられないぞ!」
「うんなもん、わかってるよ!」
「うし!りおな!ちょっくら親父達にお前の歌声聴かせてやんぞ!」
「えっ?えっ?」
「大丈夫だよ、俺がギター弾いてやっから、とりあえず4曲な!」
「店でやる曲だから、ブルージーなのが良いな!りおな、ジャニスとかいける?」
「うん、大好きなミュージシャンだから、大丈夫だけど。」
「俺がギター弾いてやっから、大丈夫だよ!カラオケのつもりでおもいっきり歌ってみな!」
「うん。やってみる!」
響くんのギターのメロディーが優しく流れてきた。なんだろう?この安心感!
このギターの音色に合わせて歌うだけで、何でこんなに心地良いのだろう?
ずっと、歌っていたい気になる。
歌で、どんな気持ちでも表現出来るような!
幸せしかない!
無我夢中で四曲歌い終わった。
私は、我にかえった!
どうだったんだろう?上手く歌えたのだろうか?
すると、拍手が!
「今日から、歌ってくれるか?、ステージは水 金 日曜、各ツーステージ。ワンステージ四曲で六千円でどうだ?」
「ツーステージだから、一日一万二千円、雑用もしてもらうけどな?」
「えっ?そんなに貰って良いのですか?」
「あっ、ありがとうございます。宜しくお願いします。」
「マスター、安いんじゃない?」
「高校生でこの歌声って凄いね!俺の知ってるジャズシンガーでも中々居ないよね!」
「流石、響ちゃんが連れてくるだけはあるね!」
「どうだい?オジサンと一緒に全国回るか?」
「お前はうるさい!高校生に何言ってんだ?時給は頑張り次第で、上げて行くから!」
「いえ!歌を歌わせて貰えて、こんなにお給料貰えるなんて夢みたいです。本当にありがとうございます。」
「家で働くと言うことは、家の娘みたいなもんだから、俺は今からりおなって呼ぶからな!俺のことはパパと呼ぶように!」
涙が自然と流れてきた。心が凄い暖かくなるのを感じた。
「パパありがとう!響くん、本当にありがとう!」
「りおな、今日からだぞ!ステージは18時からと20時からだから、後、三時間しかないからな。演奏する曲煮詰めるぞ!」
「親父、りおなの服も変えないと駄目だろう?フリフリ過ぎるもんな?」
「ももかに頼んで、持ってきてもらうか?」
「ももかちゃんて、同じクラスのももかちゃん?」
「そうそう!ガキの頃からの幼なじみで、裁縫に関してはプロ並みだかんな!」
「もしもし、ももか?俺、響だけど、今夜のステージで、りおなが歌うんだけど、何か合いそうな衣装作って持ってきてくんない?」
「そうなんだ?りおなちゃん歌うんだ?わかった!任しておいて!超可愛いくて超かっこいいの持っていってあげる!」
「おー任したかんな!頼んだよ!待ってるから!」
「わかった!まったねー!」
今朝から、ずっと夢の中にいるような感じがする。地味で目立たなかった私が、憧れだった響くんの側に居られて、一緒に音楽が出来て、皆にも本当に良くして貰えて、本当にこんなに幸せで良いの?
・・・
バイクの爆音が聞こえてくる。
「バブーバブー」と、店の前で停まった?
「パパ~おっはよ~!待った~?」
「響ちゃん、持ってきたよ!りおなちゃん、凄いじゃんデビューじゃん?」
「ももかちゃん、ありがとう!ごめんね!」
「あっ、いいの!いいの!いつもの事だから!それにパパから、私もバイト代貰ってるから!私の場合、何でも屋だけどね!内緒だけど響ちゃんより時給高いんだよ!」
「おっちゃんチィース!おーりおなスゲーじゃん?」
「あっ、麗くん!麗くんのバイクの音だったの?」
「そんな事より、見て見て!私の格好!超セクシーじゃない?りおなちゃんの衣装とオソロの格好にしてきた!」
「タイトな超ロングワンピース!勿論、ノースリーブで大人な魅力満点!足の付け根位までスリット入れちゃった!胸元もパックリね!」
「ブルージーな曲やると思ったから、生地はデニムで、革とトルコ石のブレスレットとネックレスでチョイヒッピー風!」
「絶対りおなちゃん、可愛いよ!」
「メイクもしてあげるから、早く着替えて!」
「ももかサンキュー!ももかもめちゃくちゃイケテるよ!」
「響ちゃん、ありがとう!良く言われる!」
「麗もそういう気の聞いた事言えっつーんだよ!ねぇパパ?」
「ももか、いつも悪いな!今日もキマってるよ!」
「麗はアホだから、多目に見てやんな!」
「おっちゃんヒデー!いつも俺だけアホ扱いだもんな!」
「ハハハ!そんな事より、麗も演奏する曲、響と打ち合わせしておけよ!りおなに合わせるから、いつもと大分感じが違うぞ!」
「大丈夫!大丈夫!どうにかなるから!」
「本当にお前は!」
「見て!見て~!りおなちゃん超可愛い~!」
「でも、ちょっとセクシー過ぎない?ちょっと恥ずかしい!」
「大丈夫!大丈夫!一緒に写メ撮ろう!イェーイ!キャー可愛い過ぎ~!」
「パパどう?ファンが殺到しちゃうかもね~?」
「流石ももか!間違いないな!売り上げ上がったら、パパとももかとりおなで、焼き肉でも、食いにいくか?」
「イェーイ焼き肉~!」
「おっちゃん、俺も焼き肉~!」
「わかったよ!りおな、お客さん来はじめたら、ももかと一緒に受付やってくれ!そのあと、ドリンク出しも手伝って、お客さんにドリンク出し終わったらステージの方に行ってな!」
「ももかは受付終わったら、いつものようにオーダー聞いてドリンク出し、演奏始まったら、悪いけど、ビデオ回してくれるか?店のホームページで流したいんだよな!勿論、編集からなにまで宜しく!」
「麗もオーダー聞いてドリンク出しな!今日はりおなのデビューだかんな!気合い入れてハープ吹けよ!」
「響は俺とカウンターでドリンクメイク、作り終わったらステージな!後はやりたいようにやれ!」
「誠、照明手伝ってくれるか?酒奢るからよ!」
「オーケー!」
「じゃあ、お客さん入れ始めんぞ!」
「楽しんで行くぞ~!」
「おー!!」
おとぎ話の世界に誤って迷い混んでしまったような感覚が続いている!
とっても不思議で、とっても暖かく、ずっと笑顔で居られる空間。
ドキドキしてきた!
「私がチケット販売して案内するから、良く見ておいて!りおなちゃんは、いらっしゃいませ!と笑顔だけは忘れないでね!」
「ハっハイ!」
「緊張し過ぎ~!大丈夫だよ~!」
「いらっしゃいませ!」
お客さんが入り始めて来た。
店内は薄暗く、各テーブルにキャンドルが灯されていて、カウンターはスポットライトが上から照らされ、お酒が並べてある棚もライトアップされていて、とてもきらびやかで、大人な空間であった。
ステージもスポットライトが照らされており、テレビの中でしか見たことのない世界であった。
お客さんが、ほぼ入り終わり店内は満席。
オーダーされたドリンクが次々と作られ、お客さんのテーブルへ運ばれて行く。
ドリンクが出し終わった頃に、私は響くん麗くんと共にステージに上がった。
ステージ中央のマイクスタンドの所に立った!
お客さんは40~50人は居るのだろうか?
皆、お酒を飲みながら楽しそうにしている。
私の右手には、アコースティックギターを抱え、椅子に座った響くんが!
左手のマイクスタンドがある所には、ハーモニカを持った麗くんが!
スポットライトが私達を照らし、光で包まれ、目の前が何も見えなくなった瞬間、響くんの足がカウントを取り始め、優しく暖かい、それでいてどことなくアンニュイなギターの音が響き出した!
そこに、ハーモニカの激しく、切ない音色が絡み出した!
全身に鳥肌がたつ、ギターとハーモニカだけで、何でこんなに心が打たれれる音が出せるのだろう?
最高の演奏!
私も思い切り、心から歌ってみる!
どれくらい時間が経ったのか?
お客さんはどういう反応しているのか?
ちゃんと歌えているのか?
全くわからない。
ただ、私の感情を全て歌詞に乗せて、精一杯出してみた。
四曲の演奏が終わり、私は放心状態。
お客さんの反応は?
店内は静まり、静寂に包まれた!
私の歌は駄目だったの?と思った次の瞬間。
割れんばかりの拍手喝采が、降ってきた!
お客さんは立ち上がり、拍手に口笛と大興奮している。
その光景をみたら、涙が溢れ出した!
「歌姫 りおな~!」
と響くんがマイクで紹介してくれると、客席から、「りおな~」と何度もコールされた。
ぐしゃぐしゃの汚い顔で、何度もお客さんにお辞儀をして、一部のステージを降りた。
「りおな最高だったぞ!」
「初ステージはどうだったよ?」
「パパありがとう!皆私を仲間に入れてくれて本当にありがとう!」
涙が溢れて止まらない。
「りおなちゃん最高!SNSに動画流すから、あっという間にりおなちゃんスターになっちゃうかもね!」
「パパ~ちゃんと契約書作っておいた方が良いんじゃん?」
「こんな所で働いてくれなくなっちゃうよ!」
「それは困るな~!」
「りおな最高!やっばりお前は最高だよ!」
「二部はもうちょい、客層若くなっから、激し目の曲で行くから、泣いてばっか居ないで気合い入れておけよ!」
「響くん、ありがとう!本当に!」
響くん、大好き!貴方の為ならどんなことだって頑張れる!
本当にありがとう!
私にとって、夢のような生活が始まった高1の春の事でした。