~大学を中退した者~
新しい年号に変わるまで若い世代の者から選ばれるという国からの発言があった次の日、周りにいる連中は大騒ぎしていた。俺が国の上に立つ男だと叫んでいる奴がいた。そんな奴を横目に俺はふと鼻で笑った。本当にあれを信じる者がいるのだと。どうせあと1週間もすれば全て嘘でしたと言うに違いない。この1年で偉くなれるチャンスがあるというのであれば今まで頑張ってきた者は報われないではないか。まあ、もしそれが真実であったとしても自分には関係がない。せっかく良い大学に入っても人間関係が嫌になって今現在ずっと引きこもっている。大学に入ってからというもの様々なサークル活動、仲良くなったグループでの旅行、そんなキャンパスライフを楽しみにしていたが現実は甘くなかった。1年間ずっと片思いをしていた子に告白をし振られて、そこからは噂が広まり学校での生活が息苦しくなっていた。確かにその子は周りからとても人気があり明るく誰にでも優しい人で自分みたいな根暗な存在とは真逆であった。それでも告白をしたことに後悔してないし自分で自分を褒めてやりたい。でも学校にいる間は誰もが自分の悪口を言っているように思えてしまう。3か月大学を休みそこからは実家へと戻り大学を中退するという結果になった。親からはものすごく怒られたがそれに逆ギレするのは流石に自分でもおかしいという自覚だけはある。そんな日々を1年バイトもせずに家でゴロゴロとしていて昨日のテレビの放送を親と見ていた。
「これをきっかけに悟もがんばってみたら?」
「どうせこんなの嘘に決まってるよ、ただの話題づくりだよ」
母さんは心配しているが俺自身は全然気にしていないし気にしたくもない。昔から一つのことを最後までやり通すなんて出来た試しがない。大学にしてもそうだが、かなりの飽き性ということもあり、やる気が持続しない。それにもしこれが真実だとしても俺なんかがみんなの支持を得るなんてことは想像出来ない。今の日本が成り立っているのは少なくともそれに見合った人たちだからだ。政府の目的が何なのか分からないけど間違っていることだけは俺にだって分かる。一から作り直すなんて出来るわけがない。これからの若い世代が足を引っ張るに違いない。
「ホントお偉いさん達は何を考えているんだろうか?こんなことされたらたまったもんやないよ」
「母さんは悪くない考えだと思うけどなー、だって若い子たちが頑張る姿っていうのはとてもみんなの励みになると思うの。オリンピックの選手とかも若い子ばかりでしょ。だったら日本の政治も若い子ばかりというのもいいんじゃないかしら」
「母さんは能天気だからそんなことが言えるんだよ。変化なんて起こさなくてもいいものだってあるんだ。逆に言えばもう年寄りが生きにくい生活を作ることになるかもしれない。今の若い奴らは年寄りを邪魔者扱いする奴の方が多いんだ。そんな奴が国の偉い奴になってしまったら大変なことになるだろ」
「そうならないように悟が頑張れ」
母さんは昔から俺のことを過大評価しすぎている。母さんが言ってることを真に受けるなんてことはしない。大体、自分のことなんて自分が一番分かってるんだから。