人の世に生きる斉天大聖たちの日常。
ああ、また、今日もか。
朝目を覚ますと同時に思った事。感じたその感覚。
目覚ましのアラームが空気を揺らす。
止めてくれ。普段なら何ともないこの音さえ、今は辛いんだ。
必死で手を伸ばすが、あと少しが届かない。
ああ、脳の芯がこれでもかと揺らされる。
誰か、代わりに止めてくれ。
頭に打ち込まれる、大気圧という名の杭に我を失いそうになる。
いや、いっそこのまま意識を手放せたならば、それはどれほど幸せだろうか。
そんな些細な願いすら叶わない。蜘蛛の糸を垂らしてくれる存在は、いない。
嘗て人々が神と崇めた、自然の力。
しかし幾つもの悲劇を生み出したソレらと比べると、恐ろしい程に地味なソレ。
それでも、人の身ではどうにもする事ができない。
そんな厄介で忌々しい現象が生み出す痛みを耐えつつ、なんとか音波兵器を停止する。
ーーうん。いくらかマシにはなった。これなら、意識を手放す事も出来るかもしれない。
その筈、だった。
ああ、階下から響くこの声。呼ばれている。
起きろ、遅刻する。
何を言っているんだろうか。そもそも上体を起こす事さえ叶わないというのに。
わかった、わかったから。今すぐ声を小さくしてくれ。
そんなものでも、今の自分には禍々しい呪いの剣となんら変わらないのだ。
布団を頭まで被り、その攻撃から身を守りたいところだが、たったそれだけの動作でも今は難しい。
煩い煩い! だいたいコレの為にどれだけの人が自殺まで追い込まれたと思っているのだ!
ーーはぁ。やっと諦めたようだ。
ああ、誰だ。この万力のネジを締めるのは。
止めてくれ。
これ以上は無理だ。
あらゆる感覚が、ただ一種類のその電気信号によって塗り潰される。
せめて薬が効いてくれれば……。
そこで限界だった。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛iiiiiiiiiiiiiiiiii……。
ーーああ、もう、お昼か。通りで楽になってきたはずだ。
……どうやら、またベッドから落ちていたようだ。
今日は、耐えられた。耐えられてしまった。
次はいつ来るのか。
怖い。
偏頭痛は、痛くなってから薬を飲んでもダメなんです。
※痛みの程度には差があります。ここまでにならない人もいますが、辛いことに変わりはありません。