羅生門
「テスト始めるぞー、じゃあ始め!」
野太い声が教室に響き渡る。
一斉にプリントがめくられカリカリとシャー芯の削れる音が聞こえる。
そんな中私は一人ペンを止めてしまっていた。
「何この問題?下人の考えって何?わからない」
勉強はしたはずなのだが一向に答えが出てくる気配はない。
「とりあえずもう一回読み直すか」
カリカリカリ...
タイトル
『羅生問』
:羅生門の間:
ガサガサ
「えっと確か下人が服をはがすっけ。あっいた」
目の前で下人が服をはがしている最中だ。
「ねえ、下人さん」
声をかけるが、下人はびっくりして逃げてしまった。
「あっちょっと、それよりお婆さん大丈夫?」
服を取られ床に横たわった老婆に声をかける。
「下人に…服…取られた…」
最後の力を振り絞ったようにかすれた声でそう返ってきた。
「じゃあ代わりにこれを着てください」
制服の上着を老婆に渡し、私は下人を追いかけようとしたとき、
「これを持ってお行き…」
と1つのポケットをもらった。
「ありがとう」
と言って、急いで下人をの後を追いかけたのだがとうとう見失ってしまった。
:山月記の間:
「あの~下人さんを見ませんでしたか?」
とすれ違った人に尋ねてみるが。
「そんな人は知らないな。それより李徴を知らないか?もう1年も見かけないんだ」
と返されたしまった。
「そうですか。ありがとうございます。」
軽く礼をしてその場を立ち去ろうとしたが
「この辺りは人食い虎がいるから危険だよ。ちょうど向こうに用事があるから一緒に行くかい?」
と優しそうな声で聴いてきたが、
「すいません、追いかけないといけない人がいるので」
と断った。
今やるべきことは下人を追いかけると自分に言い聞かせその場を後にした。
:握手の間:
「そこの修道士さん、下人見ませんでしたか?」
ベンチに座っているおじいさんに声をかけてみる。
「すまないが、知らないねぇ。それより少年を見かけなかったか?」
こっちの人もだれか探しているみたいだ。
「そうですか下人見ませんでしたか…少年は見ていませんよ。」
少し残念そうに返すと
「力になれなくてすまなかったね、その人見つかるといいね。」
と微笑みながら右手の親指をピンと立てた。
「それにしても、あの子はどこに行ったのだろうか。ずっとこの上野公園で待っているのに…」
そうおじいさんはつぶやいたが、私も親指をピンと立てその場を去った。
「なんだ、下人の行方は誰も知らないのか」
そんなことを思っていると、陰からこちらを覗いて様子をうかがっている人がいる。
「あっ!見つけた。待って下人」
また逃げた下人を追いかけた。
:数学の間:
「あれ?下人は?」
また下人を見失ってしまった。
「ちょっとそこのお前、良い髪してるな~」
背後から声が聞こえとっさに振り替えった。
「お前は、次の時間の二次関数?なんでここにいるの」
そんな質問に答えるそぶりも見せず、
「お前の髪を抜いて二次関数のグラフを作るんだ。さあおとなしくしろ!」
そういうといきなり襲い掛かってきた。
「キァー」
と悲鳴を上げ床に倒れてしまった
「よぉしこれで髪を抜くことができるぞ」
マジックハンドがすぐ近くまで迫った時ふと腰のほうに目が行く。
「これはシャーペン?」
二次関数を押しのけ腰のシャーペンを引き抜き構えた
「ペンソード!」
そうするとペンはどんどん大きくなって剣になった。
「小癪な、いいから髪よこせよ!」
二次関数は襲うことをやめなかったが、マジックハンドをよけて剣を二次関数に突き刺した。
「うあぁー」
そのまま二次関数は倒れた。
「やっと終わった」
様子をうかがうようにまた下人がこっちを見ている。
「あっ下人!待ってってば」
剣を腰にしまって下人をおいかけた。
:化学の間:
「また下人見失っちゃったよ。それよりここは化学室?」
あたりを見回していると声が聞こえてきた。
「あぁお腹がすいて…死にそう…あなたのお弁当くれない?」
白衣を着ている少女がいた。
「あなたもしかしてmol?また別の教科が出てきた。なんであんたなんかに上げないといけないの?ぜったいにあげない」
ときつく返答した。
「それなら力ずくでも奪ってやる!くらえ、O+H₂」
そういうとボールは水になって床に散らばった。
「ちょっと!危ないじゃない。」
と床に散らばった水を避けながら少女に近づく。
「よく避けたわね。でも次はちゃんと当てるわよ」
そういうと少女は手から次々とボールを出し投げてきた。
「また何か入ってないかな」
淡い期待を胸に腰のポケットを探る。
「これなら防げるかも」
ポケットから2枚の分度器を取り出し前に突き出した。
「分度器シールド!」
2枚の分度器は大きくなりボールをはね返した。
少女に水が降り注ぐ。
「きゃー、冷たい!」
そのまま少女は倒れた。
「また、別の時間の教科が出てきた。ほんとに何なの?」
また下人がこっちの様子をうかがっている。
「次こそは…」
とゆっくりと忍び足で近づき、角を曲がる。
しかしそこに下人の姿はなく少し先の道に下人がいた。
「逃げ足が速いな~。待てー」
:日本史の間:
「また見失っちゃった…っていうか寒い」
あたりを見回すとそこは学校の屋上になっていた。
「ちょっとそこのお前さん」
気さくに話しかけてくる声に、
「誰?」
と振り返る。
「ふふふ、わしは4時間目テストの前方後円墳じゃ」
そういうと頭についている前方後円墳を回し始めた。
「前がマルか、後ろがマルか。お前さんにわかるかな」
いきなりの問題に少し戸惑いながらも返答する。
「えっと…前方、後円墳だから、後ろがマル…よね」
どうやら正解のようで、回している前方後円墳を止めた。
「お前さん、正解じゃ。ただこの問題に答えられたくらいでここを通すことを許されるわけじゃないんじゃ」
そのとたん、右手にはめられた埴輪でパンチしてきたのである。
いきなりパンチをしてきたことに少しびっくりしたが、間一髪のところで交わしたのだった。
そのまま床に倒れると、すかさず次のパンチが飛んできた。
それを避けながら床を転がり、前方後円墳と距離をとる。
「こんな時、どうすればいいんだろう…そうだ!またポケットになにか入っているかもしれない!」
焦りながらポケットに手を伸ばす。
「あった!って、ん?“最後の切り札”?」
手に取ったそれは最後の切り札と書いたラベルのある飲み物だった。
「飲めばいいのかな?」
飲み物のふたを勢い良く開けて中を一気に飲み干す。
「なんか力が湧いてくる!」
全身から力が満ちていくのが分かった。
「じゃあ、このまま!変身!」
そう叫ぶと、体からあふれ出たエネルギーが具現化し、新たな服を形成した。
「これならいける!」
と自信満々に構えるが、
「お前さんそれで終わりかい?」
と前方後円墳は襲い掛かってきた。
「さっきの私とは違うんだから」
必死に応戦するが、あと少しのところで、前方後円墳に及ばなかった。
「そんなもんかい、お前さんは。」
と少し余裕をもって返された。
「それなら、こっちだって」
と構える角度を変えた。
「赤本ハンマー!」
巨大なハンマーが現れ、そのハンマーで前方後円墳にとびかかった。
「そんなハンマー止めてやるよ」
前方後円墳は一度攻撃を止めたが、すぐに方向を変え、逆方向から攻撃した。
「うあー」
前方後円墳は悲鳴を轟かし、その場に倒れた。
そんな様子を陰から覗く人影があった。
『あっ、下人だ。次こそは絶対に捕まえる』
と思い、下人めがけてとびかかった。
「うわあ」
拍子抜けした声を上げる下人に質問する。
「あなた、どういうつもりで老婆の服を盗んだの?」
聞きたかった質問に答えが返ってくる。
「お金がなくて、飢え死にしたくなかったから盗んだ」
その答えを聞きハッとする。
『なんであんたなんかに上げないといけないの?ぜったいにあげない』
そんなことが頭によぎる。
「俺は自分勝手だったんだ」
寂しそうに答えた下人に
「そうよね。自分勝手は良くない…よね。これあげる」
ポケットからお弁当を取り出し下人に渡した。
「わかった!」
“死人の髪を抜いてかつらを作ろうとしていた老婆の話を聞き、飢え死にをしないために盗人になるという悪も許されると考え始めた自己中心的な下人の考え。”
カリカリとペンを走らせた。
数日後
「よしこの前のテスト返すぞ」
やっと返ってくるテストに自信と持ち自分の番を待つ。
「高城~」
ようやく呼ばれ自信に満ちあふれる。
「はい!」
と大きく声を上げ教卓に近づく。
「高城、この回答どうした?」
先生が指さす先に目線を移動させる。
「えっ」
回答を見たとき驚いた。
“死人の髪を抜いて、二次関数にグラフを作ろうとしていた老婆の話を聞き、飢え死にをしないために弁当を盗むという前方後円墳も答えられたくらいで許されると思っている下人の自分勝手な考え”
「間違えたー!」
そのまま私は床に膝をつけた。