スタイリッシュ=ホワイトニング=サービス~白く美しく、キレイにします~
「株式会社エスダブリューエス、代表取締役社長、染野史郎。
……スタイリッシュ、ホワイトニング、サービス……」
私はまだ迷っている。この名刺、本当に信じて良いものかと。
いつ誰に貰ったか覚えていないのは、日常茶飯事。
いわゆる有名税の一種だし、そんなこと気にしても仕方がない。
横書き名刺の右隅に、何となく鼻につくイタリック。
それでも今の私は、そこからひとつも、目を離せなかった。
――あなたの黒歴史を、白く美しく、綺麗にします――
――――
――
辺りにほとんど何もない、湾岸の新埋め立て地にひとりでぽつんと立つ。
その眩しい純白の建物に私は寂しさと、頼もしさも感じていた。
「いらっしゃいませ。ご予約の……ミツタ様、ですね」
ほかにお客さんは見当たらないが。
でも彼は電話で打ち合わせた通り、偽名で受付をしてくれた。
「お待ちしておりました。ワタクシが社長のソメノでございます」
その逞しい胸板には確かに、その名前のネームプレートがある。
「は、はい、よろしくお願いします。あ、あと……ランチメニューも」
昼食休憩中に抜け出してきたので、このサービスはとてもありがたい。
「かしこまりました。それでは個室にご案内致しますので、どうぞこちらへ」
通された部屋にはラベンダーのアロマ。
素麺とのマッチングは、それほど悪くはなさそうかな。
「お待たせしました、高級素麺、慈母乃糸でございます。
ワタクシも同席、失礼します」
染野さんはさっそく資料をテーブルに置いたけど、
この絹ののどごし、しばらくは止められない。
「お召し上がりのままで結構です。
ご依頼の件、実は完了しております。ご安心ください」
「ボフッ! ケホッ、ケホッ……」
驚いて、むせてしまった……ごめんなさい!
「あっ、すみません。落ち着いてどうぞ……こちらです」
『 Don't be in touch to me. ――もう私には構わないで―― 』
「……いかがでしょうか?」
彼が開いたファイルの英文と和訳が眩しくて、何度も見直した。
「ドント、ビーインタッチ、トゥーミー……カッコイイです」
強い女性の決意か決別か……とても凛とした響き。
あの原稿の読み間違い、これで克服できるかも……うん。
――
――――
「ドンベエタツミ、か――手延素麺の時は無理やりフランス語にしたっけ――。
両方とも、大丈夫そうだ」
ランチにはまた、遅効性の薬を入れておきました。
私の事だけは綺麗さっぱり真っ白に、忘れてくれるのが、ベストですから。
完?