第8話 新たな試練
色々な小説を読み文章力を身に付けたい今日この頃。
本当の生徒会選挙まで残り1週間を切った。北村は定期テストで点数を上げ評価は上々。おそらく落選する事はないだろう。
安藤先輩は俺にも嫌がらせの類を仕掛けるだろうと考えていたが問題は起きていない。
今日は俺以外のメンバーは部活動に参加しており生徒会室で一人、ぼーっとしている。帰宅部なんで。私。
夕日に照らされ朱に染まった生徒会室。窓の外から聞こえるボールを打つ音やかけ声、陸上部のスタートを告げる笛など多種多様な音が入ってくる。
なんとも心地良い音を耳にしながら椅子にだらんと座り両腕を地面に向かって下ろしている。
最近神経を使うことが多かったし疲労困憊なのだろう。とはいえ他にやることもないし裏方活動を始める事にした。
相原は頻繁に教室に忘れ物をする。携帯や教科書、体操服も放置して帰ることがある。
そうならないよう、机の中に入れっぱなしの私物を相原の鞄の中にしまうようにしている。
あと一歩行きすぎると変態と思われかねない行為だが相原が相原が忘れ物をするのだから仕方がない。
相原は部活動に参加しており陸上の練習中だ。美少女が可憐に走る姿を一目見てみたいものだが、俺は相原が走る姿を一度も見たことがない。
相原が走っている姿を見ていると変態だと思われるのではないかと怯えてしまい、未だに一度も見たことがないのだ。
女子は部活に行く前に教室で着替えをするため、教室に鞄や服などの荷物を置きっぱなしにしていく。
そのため、相原の鞄も教室に置きっぱなしなのでその鞄の中に忘れ物をしまう。
ん?おかしい。相原の鞄が見当たらない。なんで鞄がないんだ?ついでに言うと制服も見当たらない。いつもなら鞄も制服も置いてあるのに。
部室にでも持って行ったのか?部室に持っていく理由が見当たらないが。
「やぁ。吉見くん。奇遇だね」
そう言って教室に入ってきたのは安藤先輩だ。安藤先輩は腕を組み不敵な笑みを浮かべている。
「どうしたんですか」
「君こそ放課後の教室に一人で何を?」
「忘れ物を取りに来ただけです」
「そうか。それにしてもこのクラスは不用心な人が多いなぁ。教室に鞄を置いていくなんて」
「まあ確かにそうですね」
(……安藤先輩が何故わざわざ俺たちのクラスに?)
わざわざ俺たちのクラスまで足を運ぶ理由が見当たらない。だが、不敵な笑みの裏には必ず何か理由があると訝らずにはいられない。
「鞄がなくなったら困る人も多いだろうねぇ。制服も無くなったら大変だよねぇ」
「ーーっまさか!?」
「北村くんの時はやってくれたな吉見。せいぜい頑張るんだね」
「おい待て!!」
俺の制止に聞く耳を持たず安藤先輩は教室のドアを強く閉め、ドンッと大きな音を響かせながら教室を後にした。
今の様子だと安藤先輩が相原の鞄と制服をどこかに隠したってことで間違いない。
鞄と制服がない状態で相原を教室に返すわけにはいかない。一刻もはやく相原の鞄を見つけなくては。
とはいえ手当たり次第に探したとして相原が部活を終えるまでに見つけることができるだろうか。
部活終了時間まで残り15分程度。その中でこの広い校舎から鞄を見つけることは不可能に近いだろう。
そう思っていた矢先、教室の入り口の引き戸に1枚の紙が貼り付いていることに気づいた。
その紙には大きな青い丸が描かれており、真ん中には緑の丸がある。その緑の丸を囲うように赤い丸がある。
こんな紙最初からあったか?いや、安藤先輩が作ったのか。俺に鞄を探させるために。掌で転がして楽しもうってか。望むところだ。
そう意気込んだものの、このヒントは簡単すぎる。これはおそらく中庭にある池を上から見たものだろう。中庭の池には真ん中に木が生えている。恐らくこの木に鞄なのか次のヒントなのかわからないが置いてあるのだろう。
急いで中庭に向かうことにして走り出した。教室を出るとき、焦りから猛スピードで走っていたためドアの向こうにいた金井と衝突し転んでしまった。
「す、すまん金井」
「こ、ここ、こここ、こちらこそすいません!それよりどうしたんですか?そんなに慌てて」
「いや、ちょっと急用でな。ぶつかってすまん。また今度な!」
こけて地面に座り込んだ金井を起こし急いで中庭に向かった。
中庭に到着し池の中の木を確認すると白い紙が貼り付けられているのを見つけた。
しかし、池の中の木に貼り付けられた紙を取るためには池の中に入らなければならない。ビショビショになるじゃねぇか。迷ってる時間もない。行くか。
ビショビショになりながらやっとの思いで木に貼り付けられた紙を手に入れ内容を確認。
その紙には表のようなものが書いてあり格マスに数字が書いてある。
これは恐らく下駄箱の数字だ。下駄箱の順番は出席番号順になっている。俺たちのクラスは35人。各マスに振り当てられた番号や俺の出席番号の位置を考えてもこれは下駄箱の配置を表していることが分かる。その上に赤い丸が書かれている。
次は下駄箱か。時間はギリギリである。部活動が終了するチャイムはつい先ほど鳴った。早くしなければ部活から帰って来た生徒に俺が相原の鞄を待っているところを目撃される可能性もある。
普段運動をしない俺にとっては中庭までのダッシュですでに体力切れ。それでも、相原のためをおもうと重くなった足も自然と動いてくれた。
息を切らし汗だくになりながら昇降口に到着し下駄箱の上を除くとそこには相原の鞄が置いてあった。
よし、あとはこれを持って教室に戻るだけだ。
「……吉見?」
っっっ!?この声は。
……相原だ。間違いないだろう。恐る恐る声の方向に顔を向けるとそこにはやはり相原が立っていた。
「えっ。それ私の鞄だよね?」
質問されたが言葉が出ない。過去に体験した事のない動揺から足は震え声は出ず頭が真っ白になっている。
動揺した俺に追い討ちをかけるように相原の鞄からはわざとらしくはみ出した制服が顔を見せている。
「いや、これは……」
やっとの思いで絞り出した声にも力はない。唇が痙攣を始めまともに話すことが出来ない。
「どうしたのー?」
相原の後ろから続々と部活終わりの生徒がやってきて相原に声をかける。もちろんクラスメイトにも俺が鞄を持っている姿を目撃された。
「え、それ相原さんの鞄じゃん。なんで吉見が持ってるの?」
別の生徒からそう質問をされても俺は答えることが出来なかった。何も考えることが出来なくなった俺は鞄を置いてその場から逃げてしまった。
◆◆◆
次の日、学校を休もうとも思ったが勇気を出して登校した。
いつも通り朝から裏方活動に勤しみながらも自分に言い聞かせるように、「きっと大丈夫」と口に出す。
裏方活動終了後、いつもと同じように一旦トイレにこもる。そして時間を見計らってトイレを後にし教室に向かった。
教室の前に到着するがドアを開けるのが怖い。教室のドアを開けようとする手は震えていた。
勇気を振り絞り教室のドアを開けるとクラスの視線は一斉に俺の方に向けられた。
「吉見、あんた相原さんのかばんを盗もうとしたんだってね」
「最低だな」
「よく学校に来られたもんだ」
「帰れよはやく」
「この変態が」
罵倒の嵐。俺に対する批判はクラスどころか学年全体、学校全体にまで膨れ上がっていた。
学校で一番の美少女の鞄を盗もうとしたと勘違いされているのだから仕方ないことなのかもしれない。
噂が回る早さに恐怖を覚えた。
俺に向けられた鋭い視線。過去経験をしたことがない敵だらけの状況。何とかいつも通りを装って1限目の授業を受けたがその後、2限目の授業には参加せず誰にも言わず学校を後にした。
少し長くなりました。ご覧いただきありがとうございます。