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第37話 選択

今回もよろしくお願いします!!

今年はこれでもかというくらい雨が降りますね……。

 台本は無いと告げられヤケクソになり舞台に飛び出した。


 練習したセリフをただ練習通りに言うだけなら別段緊張することは無い。

 しかし、俺は今後の展開をアドリブで創造しなければならない。


 観客は静まり返り体育館は静寂に包まれる。

 焦りと緊張から激しくなる自分の息使いがやけに大きく聞こえた。


 照明に照らされた俺から見えるのは、花の絨毯の上に倒れている相原と高瀬演じる二人の白雪姫。


 白雪姫が二人という状況は理解し難い。この先の話の進め方が全く見えて来ない。


 台本上で俺が発言する最初のセリフは今の状況でも違和感は無い。

 間が空きすぎると観客に違和感を感じさせてしまうため、台本通りに最初のセリフを放った。


『なんと美しい女性だ』

『王子、ここに倒れている二人の白雪姫は魔女の毒リンゴを口にして死んでしまいました。私たちがもっとしっかりしていればこんな事にはならなかっただろうに……』


 台本通りのセリフに対し、小人役の生徒も台本通りにセリフを返してくる。


 ここからは台本通りでは辻褄が合わなくなるため、アドリブで対応するしかない。


『まさか、これほど若い美女二人が一気に死んでしまうなんて……』


 よし、アドリブの一言目は何とか当たり障りないセリフ言うことが出来た。


『王子、ここに倒れている二人の姫のうち、どちらかは王子がキスをすることで目を覚まします。しかし、両方を救うことは出来ません』


 小人役の突拍子も無い発言に思わず目を見開く。


 なんて事を言ってくれたんだ。どちらか片方にキスをすれば、どちらかは蘇りどちらかは死ぬ?

 要するに、俺は相原にキスをするのか、高瀬にキスをするのかを決めなければならないということになる。


 高瀬が言っていた、ちゃんと選んでねってのはこれのことだったのか……。

 要するに高瀬はこうなる事を知っていという事になる。


 クラスメイト全員で俺を騙していたのか?


 いや、騙したというよりは本番で俺を突然過酷な状況に立たせることでより面白い劇になると考えたのだろう。


 俺が好きなのは相原だ。それは高瀬にも伝えてあるし、今日告白するということも全て伝えてある。


 それでも、高瀬は俺のことが好きだと言ってくれている。


 俺が相原にキスをすればまた高瀬が悲しむことになる。それなら、俺のことを好きな可能性は低い相原にキスをするよりも、高瀬にキスをした方がいいんじゃないか?


 いや、でも……。


 頭の中で様々な考えが飛び交い、結局答えを整理することは出来なかった。

 もう考えるのはやめよう。俺は頭の中を無にする事にした。


 自分が本当にこの状況に立たされた時、俺はどうするのか……。


『どちらか一人を選ぶなんて出来るはずがないだろ!どちらの姫にも自分を大切に想ってくれている人がいるはずだ。俺の独断でどちらかを死なせるなんて出来るわけがない』

『それでも助かるのはどちらか一人。早く選んで下さい王子。このままだと二人とも死んでしまいます』

『どちらか一人なんて嫌だ!生憎私は諦めが人一倍悪いんでね。俺は両方の姫を蘇らせる!』


 俺がアドリブを言えば他の生徒もそれに対してアドリブで返答をしなければならない。

 即ち、俺が好き勝手にこの劇の結末を決めて良いと言うことだ。


 仮に他の生徒のアドリブが上手くいかなかったとしても、それは俺のせいじゃない。自分で好き勝手な話を作らせてもらう。


 俺は右手の人差し指と中指を唇に当てる。その後、左手の人差し指と中指をゆっくり唇に当てる。


 それから、右手の指で相原の唇に、左手の指で高瀬の唇に触れた。


 俺の指が唇に触れた二人の白雪姫は同時に目を覚まして起き上がる。


『ーー姫が二人とも目を覚ましたぞ!』


 小人の一声を皮切りに、観客からは割れんばかりの歓声が起きた。


 高瀬は俺の方を見て、してやられたと手で顔を覆っていた。

 俺はちゃんと選んだぞ。両方を救うって選択をな。


 高瀬とは対照的に、相原は俺の方を見て赤面していた。これは林間学校の時の仕返し。

 俺だって相原に同じ事をされ、恥ずかしくてたまらなかったんだからな。


 その後、ハッピーエンドに似つかわしい軽快な音楽と共に、舞台の幕が閉じ演劇は終わりを迎えた。

ご覧いただきありがとうございました。

次話投稿は明日の予定です!

次回は相原目線となります。

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