第19話 林間学校5
今回もお願いします!!
午後8時。太陽は沈み辺りは暗闇に包まれた。空を見上げると満天の星空が姿を現している。
都会に住む私達では中々見られない光景に感動している。
それでも気分が上がらないのは今から行う毎年恒例の肝試しのせいだろう。
そう。私、相原愛乃はお化けが苦手。
小学生のとき、両親に連れられて入った遊園地のお化け屋敷で凄まじい恐怖を感じた。
それ以来、私はお化け屋敷がトラウマになった。
肝試しと言っても、本物のお化けが出る訳ではなく、お化けに成り切った先生達が生徒を驚かす。
相手が先生だと分かっていても怖いものは怖い。
季節は夏。夜でも暑さを感じるはずが今日は肌寒い。
両手で体を抱きしめ寒さと恐怖を和らげる。
「そんなに心配しなさんな。私が付いているではないか」
「そうね。美伊那が一緒なら少しは怖さも紛れそうだわ」
肝試しを始める直前、パラパラと雨が降り出した。この程度の小雨なら肝試しを中断することはない。
肌寒さに加えて雨まで降り始め肝試しが余計に嫌になった。
肝試しは2人1組、又は人1組で規定のコースを回り奥にある祠に置かれたお札を持ち帰るといった内容になっている。
私と美伊那、金井さんは生徒会なので3人で回ることになった。
吉見と北村君の男子チームは私たちより先に出発する予定……だったのだけれど吉見の姿が見当たらない。
もう次が出発の順番だと言うのに。
「北村君、吉見は?」
「体調不良らしい。朝からマスクしてたしな」
たしかに吉見は朝からマスクをしていた。体調が悪いのに1人で皿洗いをすると言ってくれたのね……。
「よし!行くよあいちゃん!きんちゃん!」
「わ、私、きんちゃんって呼ばれたの初めてです」
美伊那は私を怖がらせないためか、普段より元気に振舞っている。
金井さんもいるし大丈夫。そう言い聞かせながら1メートル先も見えない暗闇の中、懐中電灯一本を持ち歩みを進める。
いつになったらお化け役の先生が出てくるのだろうか。身構えながら歩いていると私達は目的の祠に到着した。
「……お化け、全然出ないね」
「……そうね」
お化けが出てこない肝試し。私たちは呆気に取られていた。
祠に置いてあったお札を手に先へと進む。
お化けは出ないが、どちらにせよ暗闇を進むのは怖い。
すると突然、私たちの右手前の茂みから物音がする。
「な、なに!?」
「なんなんですか!?」
「大丈夫だよ2人とも!きっとお化け役の先生だから!」
次第に物音が大きくなる。そして大きな影が茂みから飛び出してきた。
「「きゃーー!!」」
私と金井さんは思わず大きな声を上げる。
私はパニックに陥り、一目散に走り出した。
「あ、あいちゃん待って!!ただの鹿だから!!」
美伊那が何か話しているような気がしたけど、気にも止めず走り続けた。
怖さのあまり、無我夢中で逃げた。
「はぁ、はぁ、はぁ。ここどこかしら」
真っ暗闇の中を走り回ったため、自分がどこにいるのか、どうやって帰れば良いのか分からなくなった。
懐中電灯は美伊那が持っていたため所持していない。
唯一の救いは携帯のライト。
携帯で美伊那に連絡しようと考えたけど、そんな私を嘲笑うように圏外。
雨は私たちが肝試しに出発した時よりも強くなっている。早く宿に戻りたい。
かと言って、歩き回れば余計に遠くに行ってしまう可能性もある。
私は木の下に隠れて助けを待つことにした。
途方に暮れたまま10分ほど経過したが助けは来ない。普段の10分はとても短く感じる。それなのに今の10分は体感1時間。
このままずっと待つ事なんか出来ないと歩き出した。
記憶を頼りに歩き回ったけど、一向に元の道に戻る気配はない。
このまま動かずに朝を待つ方が良いのかしら。
私がこうして暗闇で迷っているのは、子供の頃から知っている吉見のことを鞄泥棒であると疑ってしまった罰なのかもしれない。
吉見はあの時、安藤先輩に隠された私の鞄と制服を必死になって探してくれていた。
その吉見を疑うなんて本当最低。
ファミレスでご飯をご馳走し、謝罪もしたつもりだったけれど、今になってまた吉見に対する申し訳なさが大きくなった。
吉見に対する申し訳なさと、暗闇の中、自分がどこにいるのかもわからない、無事に帰れるのかもわからない心細さから自然と涙が流れてきた。
こんな時、吉見なら私を助けにきてくれるかもしれない。
そう思った自分が余計に醜いと感じた。自分は吉見を信じてあげられなかったのに、こんな時だけ都合の良い方向に考えて。
それに、吉見は体調不良で休んでいるようだった。真っ暗闇で雨が降りしきる森の奥まで来るわけがない。
気を強く持とうとするが涙は止まらない。止まらない涙を流したまま歩きだしたその時、前に出した足が地面につかない。
「え?」
前を見るとそこは小高い丘になっていた。
高さは5メートル程あるだろうか。死にはしなくとも怪我をするのは免れないだろう。
自分が前に倒れていく感覚がスローに感じた。本当に馬鹿。私ったら、ずっと木の下で待っていればよかったのに。
もうきっと宿には戻れない。
大怪我を覚悟した。
その時だった。私の手を誰かが掴む。その手はとても大きくて、頼もしく感じた。
私は何事かと後ろを振り返る。
「やっと見つけた。ちょっと重くないか」
私の手を握っていた大きな手は、他の誰でもない、吉見の手だった。
ご覧いただきありがとうございます!
自分で書いていて吉見は本当いい奴だなぁと感じます。




