第1話 裏方のお仕事
久々に連載を始めようと思います。
気長にお付き合いくださぁい
今日も清々しい朝だ。朝早くに家を出発し、誰よりも先に教室にたどり着く。これが俺、吉見祐の日課である。
教室に辿り着くと早々に掃除を始める。そうは言っても教室全体を掃除するのではない。とある席の周囲のみを掃除するのだ。
それは俺の隣の席で学校1の美人、相原愛乃が座る席。
実は俺と相原は幼馴染で家が近所という事もあり、一緒に登下校することもある仲だ。
しかし、別段仲が良いわけでもなく相原からすれば仕方なく俺と登校しているといった印象を受ける。
何故その相原の席を掃除しているのか。理由はたったひとつ。俺が相原に恋をしているからだ。
物心ついた時からいつの間にか相原のことが好きになっていた。学校1の美人に惚れてしまうのは仕方のない事。
しかし、俺が相原を好きになってしまったという事実は仕方がないという言葉では片付けられない。
恋をすれば当然好きな相手と話したい、手を繋ぎたい、抱きつきたい、キスをしたい、色々したい、色々したい。そういった考えを持つことは普通だろう。
だが、相原に告白をしたとしてもちろん失敗するだろう。あ、涙が。
そうなってしまえば二度と相原と会話を出来なくなる。それでも俺はこの気持ちを抑え切ることが出来ない。相原にこの気持ちを嫌と言うほど伝えたい。
そんな悩みを抱え鬱々と生きてきた俺は遂に、告白をしないが欲求は満たされる、そんな解決策に辿り着いた。
それが、相原愛乃の裏方に徹すること。相原が生きやすいようにサポートする。そしてその行為を俺がしていると気づかれてはならない。そう鉄則を設け日々の裏方ライフに精進している。
最悪、相原が他の男と結ばれることになっても仕方のないことだと思っている。そりゃ相原だって俺みたいな地味で冴えない奴とお付き合いするよりも、イケメンで長身な俳優みたいな奴とお付き合いする方が良いだろう。
だから仮にそうなっても俺は相原を祝福すると心に決めている。
朝の掃除もひと段落し一旦トイレにこもる。ある程度生徒が登校した後でしれっと登校するようにしている。
俺が登校するのは授業が始まる10分前。相原は20分前には登校をしてくるのでこれくらいのタイミングがちょうど良い。
「おはよう」
「おはよ。今日も相変わらず冴えない顔してるわね」
「まあこれが俺の顔だからな。今日も、というか毎日この顔だよ」
相原の第一声は罵倒。もはや朝の恒例行事と化している。本気の口調で言われないからただの挨拶みたいなもんだと理解している。
「あーらお二人さん。今日も痴話喧嘩ですか?」
会話に入ってきたのは相原の親友、高瀬美井那。
高瀬は学校一美人な相原と唯一親しく会話を出来る人間だ。というのも、相原は人見知りでコミュニケーションが苦手なのである。
「ち、違うわよ!こんな冴えないやつと私が痴話喧嘩してるわけないでしょ!」
はい。その通りです。反論なんてめっそうもない。
同じ空気を吸わせてもらっているだけで天にも昇る気分です。
「そーだぞ高瀬。俺みたいな貧弱で脆弱な奴と相原が結婚するわけないだろ」
「そ、そーよ。こんな奴と私が結婚なんてするわけないでしょ」
毎朝こうして会話できるのは高瀬のおかげだ。とは言え俺のライフは会話をできる嬉しさと罵倒される悲しさで増減を繰り返すだけ。プラマイゼロなんだけど。
授業が始まると俺は早速裏方の仕事を始める。その仕事とは、家庭教師みたいなもんだ。
相原は実は勉強が苦手である。そのため、本来であればテストは赤点必死なのだが、それは俺の手によって塞がれている。
自慢ではないが勉強は割と出来る。学年順位も3番以内に入るほどに。
そんな俺は授業中の問題の答えや解説を事細かにノートに書いている。そしてそのノートをあえて相原が見えるような位置に置いて授業を受けているのだ。
相原はプライドが高く、自分から教えを乞うことは無い。相原はバレていないと思いながら俺の解説と回答を見ているが、もちろん俺は気づいている。気づいているもなにもそれ、俺の作戦なんですよと鼻高らかにノートを見せている。
もちろん、ただ解答を見せるだけでは相原のためにならないのは百も承知だ。だから親切に解説も付けている。
おかげで相原が先生に当てられても、
「はい。そこは式変形を利用して、こうしてあーすることで答えが導き出せます」
「正解だ。いつも細かい解説まで流石だな」
こう言った感じで、先生に褒められるほど完璧な回答が出来る。
それもこれも俺が裏方に徹しているからこそ。それによって相原が成長し、幸せであるのであれば俺は身を粉にしてでも裏方に徹しよう。
と、意気込んでいたのも束の間、俺はやる気が空回りして風邪を引いてしまい、1週間学校を休んでしまった。
◆◆◆
休み明けの初日、俺はいつも通り朝早くに家を出て机の周囲を掃除しに行った。
掃除が終わりいつも通りトイレに向かい、時間を見計らって教室へと向かった。教室に到着するといつも通り相原の姿が。
「おはよう」
相原にそう声をかけ、いつものように
「冴えない顔してるわね」
って感じで罵られるのかと身を構えていた。
「吉見……。私、生徒会長になっちゃった」
「……は?」
お先真っ暗すぎん?
作者も学生時代は生徒会役員でした。