エピローグ
今回が最終回です。
厳島神社で神社巡りの本とテンマの行く末を見届けた私達は、約半年に渡る神社巡りも終了となった。
私達に力を貸してくれた厳島神社の御祭神である市杵島姫命・田心姫命・湍津姫命は、私に対価や他の物を求める事なく万事終えた後に姿を消していたため、宗像三女神が私に対して思った理由以外の真意は永遠に解らないだろう。
そして、広島から東京に無事戻って来た私や友人達は、お互いが元の生活に戻り始めるのであった。
月日は流れ、2019年5月某日―――――――――――――
「よぉ」
「肇!…早かったね!」
内房線の君津駅で待ち合わせしていた私は、肇を見つけた直後に右手で軽く手を振った。
「時間に余裕持って来た方が、いざって時に慌てずに済むだろ?それに…」
私の前まで小走りで寄って来た肇は、足元に視線を落とす。
「俺は兎も角、お前みたいなヒールのある靴を履く女は、なるべく急ぎたくはないだろ?」
「…それもそっか」
彼の台詞を聞いた私は、その場で納得する。
会話をひと段落した私達はその後、目的地へと足を進める事となる。
今日は、健次郎と裕美の結婚式という事で、私達はお互い新郎側及び新婦側の友人として招待をされているのだ。二人の職場関係上、東京で挙式を行う事も考えていたらしいが、当人らの話し合いによって千葉県にしたらしい。
「直子の葬式後に、私達は再逢したじゃん?…去年のあの時期から、少しずつ交際を開始していたみたいね」
「あいつらはあいつらで、俺らに気を使っていたのか…。別に、お互いの事名前呼びしていたって、恋愛関係を教えてくれれば別に構わなかったのにな…」
式場へ向かいながら、私達は健次郎と裕美の馴れ初めについて語っていた。
要は私が友人達に神社巡りをお願いしたのをきっかけに、あの二人の距離も縮まったらしい。最も、私達4人は学生時代から仲が良かったので、その頃からどちらかが相手を想っていた可能性もあるのだろう。
まぁ、広島の一件で二人に何かあるのは薄々勘付いていたけどね…
会話する一方で、私はそんな事を考えていた。
というのも、裕美がテンマに拉致されて広島へ向かった際、健次郎が裕美の事を名前で呼んでいた場面があったのをうっすら覚えていたためである。
「…っと。本当にすぐ着いたな…」
「確かに、”君津駅より徒歩1分“と公式ホームページに書かれているだけあるね」
私と肇の間で一瞬沈黙が走ったが、式場が本当に近い場所だったという事から、すぐに到着してしまうのであった。
「まずは、行きましょう!」
「…だな」
そうお互いに述べた後、私達は式場へと足を踏み入れていく。
今回、私達がお呼ばれした式は、所謂”ホテルウェディング“で、ホテルの敷地内に教会や神前結婚式向けの神殿が存在するという式場だ。私や肇は館山までそう遠くはないため宿泊はしないが、新郎新婦の両親や家族はおそらく、ホテルに泊まるのだろう。
「綺麗なチャペルだよね…」
私は、教会内の席で待つ中、周囲の綺麗さに見惚れていた。
挙式を挙げる教会はブラウンと白をあしらったチャペルで、天井も高く、白い床でできているバージンロードはとても長く感じられる。
「…俺も、お前とこんな場所で式できたらな…」
「肇…?」
すると、隣で肇が口を動かしていた事に私は気が付く。
ただし、小声で呟いていた事に加えて周囲は他の招待客がざわついていた事もあって、はっきりと聞きれなかったのである。
「…っ…」
聞き返された事で、彼の頬が少し赤く染まっていた。
しかし、すぐに何かを思い出したような表情になる。
「…そういえば、お前。披露宴にて、友人代表でお祝いのスピーチするんだろ?内容は、バッチリ暗記したのか?」
「ちょ…!もちろん覚えてきたけど…もう!」
肇の台詞を聞いた私も、彼と同じように動揺した表情へと変貌する。
今はスピーチするって事で緊張しているんだから、改めて言わないでよー!!
私は、心の中で叫びたい気分だった。
それは当然、ざわついているとはいえ、このような厳かな教会で大声を張り上げる訳にはいかないからだ。
その一喜一憂を隣で見ていた肇は、満足そうな笑みを一瞬だけ浮かべる。
「…まぁ、せいぜい頑張れ。ちゃんとやり切ったら、俺もちゃんと言うから」
「ちゃんと…?」
穏やかな笑みを浮かべながら口にした肇の台詞に対し、私は首を傾げる。
え…
しかし、一瞬だけ考えた後に彼が何を言おうとしているのかに何となく察しがついたため、頬が真っ赤に染まり始める。
その後、挙式が執り行われる訳だが―――――――――――私は、披露宴のスピーチをする事による緊張と共に、肇が口にした話についてが脳内を完全に占めていた時間を過ごす事になるのであった。
挙式が無事終わり、フラワーシャワーを終えてから披露宴会場へ向かう事となる。
移動するにはまず、一度チャペルを出てレッドカーペット等の装飾が施されたガーデンを通り抜ける事となる。
式の最中は新郎新婦共に緊張しているようだったが、挙式が終わりレッドカーペットの上を歩いていく彼らの表情は、とても幸せそうに見えた。
本当に、お似合いのカップルだな…!
健次郎と裕美の表情を見た時、私は友人として本当に彼らが幸せになってほしいと切に思った。
そして同時に、二人を結び付けたもう一人の功労者―――――――――――九鬼直子の顔が、この時の私には浮かんでいた。
因みに、私が花窟神社で受けた呪いにも似た“穢れ”の件だが、厳島神社の宗像三女神からの教えを経て、厄払いを主とする寺社にてお祓いを受ける事で少しずつ弱める事ができるという事が判明した。
まだ完全に体内の穢れが消滅した訳ではないが、ここ半年で次第に体の調子が落ち着いてきたという所だ。
「今日の新郎新婦は令和元年に式を挙げたから、Instagramで投稿するハッシュタグは“#令和婚”って奴かねー?」
披露宴会場へ向かう途中、招待客の一人が一緒に歩いている別の招待客と話している内容が、私の耳に入ってくる。
そうだ…。結局、平成から令和になってすぐも何も起きなくてよかったな…
彼らの会話を聞いた時、私は不意にそんな考えが脳裏をよぎった。
それは神社巡りを始めるにあたってテンマより説明を受けた際、期限を2019年4月30日までという話があった。それよりも前に終えてテンマと手を切る事はできたが、その期日に何か起きるのではないか―――――――そんな予感を、私はしていたのである。
しかし実際は、日付が変わっても特に何も起こらなかったという具合だ。
「おい、外川!」
「あ…」
その場で立ち止まっていた私は、肇の声を聞いて我に返る。
気が付くと、他の招待客の姿がほとんどなく、私と彼の二人きり状態になっていた。
披露宴開始まで、もう少し時間はあるだろうけど…。流石にこれは、急がなくては…!
周囲の状況に気が付いた私は、頬を赤らめながら肇の元に駆け寄る。
「慌てすぎて、スッ転ぶなよ?でないと、せっかくのドレスが台無しだ」
肇は照れくさそうに微笑みながら、自身の右手を私に差し出す。
それを見た私は一瞬だけ固まるが、すぐに笑みを浮かべる。
「…ドレスも然り、こけたらストッキングが破れて予備に履き替えなきゃいけない可能性もあるしね!」
私は、少し皮肉るような口調で述べながら、差し出した彼の手を取る。
直子の死を忘れた訳ではないけど…。これからは、哀しみを一人で背負い込みすぎずに、大事な男性と一緒にこの瞬間を精一杯生きていきたい…。いや、生きていきます…!!
私は、神社巡りにてお参りの際にもやっていたように、心の中で“誓い”を立て、肇と共に披露宴会場へと移動する事となる。
そんな私や彼の後姿を、式場の上空――――――――宙より、一人の女性の幽霊が見守っていたのであった。
<完>
いかがでしたか。
テンマとの決着がつき、ようやく主人公達は元の生活に戻れたというかんじで、何だかんだのハッピーエンド。
あた、今回エピローグに出てきた式場は、実在する結婚式場をモデルに書かせて戴きました。なので、地元の方だったらピンとくるかもしれませんね。
美沙と肇の関係も、今後進展していくと良いなと考えている皆麻でございます(^^
さて、ここまでご一読いただき、ありがとうございました。
プライベートの云々があって新作投稿がいつになるかは未定ですが、今後とも宜しくお願い致します。
ご意見・ご感想があれば、是非是非宜しくお願い致します<(_ _)>




