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あの後、彼女は宙(そら)を舞った  作者: 皆麻 兎
第五章 イザナミノミコトが眠る地・花窟神社

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第二十二話 真実にたどり着く

<前回までのあらすじ>

長い移動時間を経て、三重にある花窟神社を訪れた美沙達。

お参りする前にテンマより御祭神であるイザナミやカグツチの逸話を聞かされる事になるが、そこで呪いにも似た巨大な”穢れ”を美沙は受けてしまう。

予定通り花窟神社でのお参りを終えた美沙達は、神社近くにある七里御浜を訪れ、そこである確証が得られた事を肇に明かす。

そして、テンマや健次郎達を呼びよせ、ある話を美沙はし出す事となる。



花窟神社でのお参りを終えた私達は、人気の少ない七里御浜(しちりみはま)にてテンマを囲むようにして話をし始める。

「まず始めに、神社巡りで残す場所は…広島県にある、厳島神社のみとなったわ。これは、私にとってもテンマにとっても、良い報せよね?」

「…そうですね、美沙様。わたしとしても、非常に喜ばしい事です」

確認するような私からの問いかけに対し、テンマはいつもの口調で応える。

周囲では、真剣な表情で私の話を聞く友人達(みんな)の姿があった。

「あと、どうして直子が“死ぬことを選択した”のか。そして、テンマ…あんたの目論見もほぼ解ったの。ただ、最後の神社巡りをする前にあんたの真意を訊こうと思って、この場を設けたのよ」

「…ほぅ」

普段だとポーカーフェイスを崩さないテンマだったが、この時ばかりは瞳を数回瞬きし声音が少し上がっていた。

おそらく、彼にしては珍しく動揺していたのであろう。しかし、すぐにいつもの表情に戻った彼は、口を開く。

「普段は、わたしが神社について語っておりましたが…。いいでしょう。では、美沙様。貴女様の話を聞かせて戴きましょう」

「…解ったわ」

テンマに名前を呼ばれた時は心臓が飛び出そうなくらい強く脈打ったが、彼の空気に流される事なく、私は話をし始める。


「初めてテンマと出逢った時…あんたは、直美が電車の線路に飛び込んで死んだ事は知らなかった。だから、彼女の死に直接関わった訳ではない。…でも、今にして思えば…直接手を下していなくても、あんたが直美を死に追いやる原因を作った。それを、今回の花窟神社でお参りして悟ったわ」

今の台詞(ことば)を皮切りに、私は事の真相を話し出す。

自分と同等―――――もしくはそれ以上の霊力を持った幼馴染・九鬼(くき)直子も、今の私と同様に花窟神社へお参りした。そこで彼女は、テンマの解説を元にイザナミノミコトより呪いともいえるくらいの“穢れ”をその身に浴びる事となる。それは夫・イザナギと離縁する話をした際に「一日に1000人殺す」という彼女の台詞から発せられた負の力だろう。

「今…私の中で“死ね”と暗示をかけるような声が複数回響いている…。直子も相当、きつい想いをしていたのでしょう。それでも彼女は、神社巡りを続けた」

叫ぶような声音になりながら、私の話は更に続く。

一方、私の脳裏には伏見稲荷大社で狐神が見せてくれた映像が浮かんでいた。あの時、狐神達が感じていた”負の力“はイザナミより受けた呪いのような穢れだったのだ。彼らが私に忠告をしたくらいだったから、相当深刻な状態だったのだろう。

「…そこでてめぇは九鬼(あいつ)に対し、“その呪いをどうにかする代わりにある事をしてほしい”…と、一つの相談を持ち掛けた。呪いを解く見返りとして、何を求めたのかは知らねぇが…」

「小川様…!?」

すると今度は、(はじめ)が間に入ってくる。

意外な人物による発言によって、テンマは目を見開いて驚いていた。

「けど、その相談を直子ちゃんは承諾しなかった。結果、彼女はイザナミの呪いに操られるかのようにして、自ら死ぬことになったのよ」

「だが…このままだと、また自分と同じ目に遭う人間が後を絶たない…。そう考えた九鬼(あいつ)は、あんたが“封じられていた形代”と神社巡りの本を、手紙と共に外川(とがわ)へ託したという訳だ」

「その証拠に、手紙で直子は“私が手紙(それ)を読む頃には、自分はこの世にはもういない。だから、後を頼む”…と私に告げていたわ」

「!!」

その後、裕美や健次郎も口々に真実を告げる。

続けざまに私が今の台詞(ことば)を述べた頃には、テンマの顔からポーカーフェイスは消えていた。真剣な表情で見上げる私の瞳は、少しだけ潤んでいた。自分の口から真実を告げる中、私は直美が自分に送った手紙の内容を思い出していたからである。


『イザナミの呪いを受けて数日が経過し、テンマの“要求”を拒否した私の身体は次第に弱っていったわ。それでも私は、“彼”を完全復活させたくなかった。悪魔のように狡猾な“彼”は、付喪神などではなかったからね』


(はじめ)が言ったように、あんたが直美に何を要求したのかは知らない。ただ、これだけは言える。…テンマ、あんたは神社巡りを人間(わたしたち)にさせる事で、この本を通じて自らの妖力を蓄えられるよう仕向けていた。そして全て神社巡りを終えた暁には、”本来の姿“へ戻る…いや、戻れる手筈だった。そうよね?」

「伏見稲荷大社で、九鬼がてめぇと一緒に映っていたという映像から察するに…。本の持ち主が変わる度に、“写真と説明文が空白になるページ”も変わっていたという事だろ?ただし、伏見稲荷大社(あそこ)や今回の花窟神社のように、ある一定の神社(ばしょ)は全ての持ち主が共通で巡っていたんだろうけど…」

私や(はじめ)が口にした台詞(ことば)によって、テンマは完全に反論できない状態へと追い込まれてしまう。

裕美や健次郎が発言した事にも驚いただろうが、それだけではない“何か”が彼の脳裏を巡っていた事だろう。テンマはその場で黙り込んでしまい、沈黙が走る。

私達全員は、海岸から聞こえる波の音が耳に響く中、彼が次に何を口にするのかを見守った。


「ふふ…ふふふ…」

沈黙が数秒続いた後、黙ったままのテンマが突然笑みを浮かべて笑い始める。

「てめぇ…何が可笑しい!?」

その声を耳にした健次郎が、眉間にしわを寄せた状態で声を荒げる。

自身の腹に手を当てて声を抑えていたテンマは、俯いていた顔をあげて言葉を発する。

「美沙様、お見事ですよ!!経緯はどうあれ、直子様の死の真相へたどり着けたという訳ですから!!」

「!!」

そう述べたテンマの表情は喜びというより、狂気に満ちた笑みを浮かべていた。

その“本性”を垣間見た私達全員は、全身に鳥肌が立つ。

「おっしゃる通り、イザナミノミコトより受けた呪いを対処する代わりに、わたしは直美様にある相談を持ち掛けました。今思えば、その“相談”を拒否した人間は、彼女が初めてでしたけどね」

「直子ちゃんが、初めて…。という事は、今での本の持ち主は一体…」

テンマの台詞(ことば)を受けて、裕美がその場で動揺していた。

そんな彼女を一瞥した付喪神は、クスッと笑いながら再び話し出す。

「では、直子様にしたように、わたしも貴女にご相談させて戴きます。彼女の手紙にあるように、このままではイザナミノミコトより受けた呪いは、美沙様の身体を蝕んでいくでしょう。何も対処しなければ、結果はご存知の通り。しかし、一時とはいえ、わたしも相棒たる人間(かた)を容易に死なせたい訳ではございません。そこでご相談ですが…」

長々と話すテンマは、この辺りで一度、一呼吸を置く。

私達4人は、彼の一言一句を緊張した面持ちで聞いていた。

「わたしが呪いを解く代わりに…貴女様の死後、その魂をわたしに戴けないでしょうか」

「なっ…!!」

テンマが口にした提案に対し、その場にいる全員が驚く。

 でも、予想していた内容に近い。…やはり、テンマは…

最初でこそ驚いたものの、彼の“本来の目的”がこれで解ったため、少し哀しいと感じる自分もいた。

「…とうとう本性を現しやがったな、第六天魔王さんよ」

「おや、岡部様。わたしの別称を御存知だったようですね…?」

その後、健次郎の発言に対し、テンマが反応する。

「健次郎…それって…?」

聞き慣れぬ名称を耳にした私は、健次郎に向かって問いかける。

「俺も、“その存在”を知ったのは…京都旅行から帰って来た時だった。奴の名前たるテンマは本来、漢字では天国の天。悪魔の魔と書き、より邪悪なもの…すなわち、仏道修行を妨げている魔の事を指すんだ。第六天魔王とは、奴の別の名前って事さ」

「邪悪な存在(もの)…悪魔…!?」

健次郎の台詞(ことば)を聞いた私は、目を丸くして驚く。

当のテンマは、不気味な笑みを放ちながら、私達の話に耳を傾けていた。

「…では、美沙様。呪いを退け、死後にわたしへ魂を捧げるか。それとも、このまま呪いに身体を蝕まれて死を選ぶか…どちらになさるおつもりですか?」

テンマは、落ち着いた口調で問いかける。

その台詞(ことば)を耳にした友人達(みんな)の視線が、一斉に私へと注がれる。

 私…は…

右手を胸に当てたまま、私は考える。

この時、私の心臓の鼓動が強く脈打っていた。その中でやはり脳裏をよぎったのが、直美が遺した手紙だった。

 直子は、テンマが復活を遂げる事で良くない事が起きると悟り、魂を捧げる事を拒んだ。本を自分に託したのは、簡単に本の処分ができなかった…。もしくは、“処分できない状況にさせられていた”からだと、手紙を読む限り感じた…!!

私は、生前の彼女と過ごした日々も同時に思い出しながら、一呼吸を置く。

「一つだけ、確認させて」

「…はい、何でしょうか」

「もしこのまま神社巡りを終えれば、あんたは本来の姿に戻れるという事よね?戻れた後は…何をするつもりなの?」

「ほぅ…」

真剣な眼差しをする私を見下ろしながら、テンマも口を開く。

「ひとまず、例の本からは解放されて、自由の身になる事ですから…。まぁ、具体的な内容(こと)は決めていなくても、本来の天魔として人間を弄ぶ生活を送る事にはなるでしょうね」

「……そう…」

彼の台詞(ことば)を聞いた途端、私はどちらを選ぶべきかが確定した。

唾をゴクリと呑み込んだ後、閉じていた唇を開く。

「私は、あんたに魂を捧げるなんて、断固お断りよ。…かといって、このまま死を選ぶつもりはない。方法はすぐには見つからないだろうけど、あんたの力を借りずに私はこの“穢れ”を退ける…それが答えよ!!」

私は、低い声で言い放つ。

前者でも後者でもない第三の答えを出した事に対し、テンマは驚いていた。また、その決意表明を聞いた友人達(みんな)は、少しだけ安堵したような表情を浮かべていたのである。


「…“今回”に限っては、やはり無理やりでも“あちら”を選ばせるべきでしたかね」

沈黙が続いた後、黙り込んでいたテンマがポツリと呟く。

しかし、小声だったため、その台詞(ことば)を全部聞き取れた人物は誰一人としていないだろう。

「…美沙様。貴女の意思は解りました。本来なら、その選択を尊重してあげたい所なのですが…。今回ばかりは、そうはいかないのですよ」

「えっ…!?」

不気味な笑みでそう告げた後、テンマは一瞬にして私の目の前からいなくなる。

「きゃあっ!!?」

しかしその直後、後ろから悲鳴が聞こえたため、私はすぐに振り返る。

そこには―――――――――――――背後から肩へ腕を回し、締め上げるような形で裕美を拘束したテンマの姿があった。

「てめぇ、何をするつもりだ!?」

その姿を目にした(はじめ)が、声を荒げる。

「…ご安心を、小川様。東海林(しょうじ)様をすぐに殺すような野蛮な真似はしませんよ。ただし、今回だけは”魂を捧げる方“を選択してほしかったのですよねー…」

「裕美…!!」

少し困ったような口調で話すテンマは、私の方を一瞥する。

「ちょっと、離してよ…!!」

一方、彼の腕の中にいる裕美は、その腕を振りほどこうと暴れる。

「…貴女様は、お静かに。今すぐ殺しはしませんが、あまり暴れるようであれば…その両足を斬りつけて歩けなくして差し上げても構わないのですよ?」

「ひっ…!!」

頭上で脅迫めいた台詞(ことば)を聞いた裕美は、すぐに暴れるのを諦めて大人しくなった。

彼女が怯えるのもそのはず――――――――――――この時見せたテンマの表情は、苛立ちも加わって相当な殺気を放っていたからだ。

裕美がおとなしくなったのを見計らい、テンマは彼女を連れたまま宙に浮き始める。

「美沙様。わたしが今回特別に、貴女にだけ”心変わりをする機会(チャンス)“をさしあげましょう」

「“機会(チャンス)”…ですって…!?」

私は、空に浮く付喪神を睨み付けながら声を荒げる。

「わたしは今まで数多の人間と出逢ってきましたが…貴女のような強き魂は初めてお目にかかりました。故に、魂を捧げる方を選択してほしかったです。ですので、貴女がそちらを選んで頂ければ…この娘は生きて返しましょう」

「なっ…!!てめぇ、卑怯だぞ…!!」

「…外野は黙っていてください」

話の途中で健次郎が反応し間に入ってくるが、テンマはたった一言で彼を黙らせてしまう。

「奴の…姿が…!?」

すると、裕美を抱えたテンマの姿が次第に透明になっていく事に(はじめ)が気付く。

「期限は、今日より3日以内。それまでに考えを改めて戴き、“最後の神社巡りの地”までおいでください!!…それでは」

テンマはそう口にしながら、軽く会釈をする素振りをとった。

「裕美!!」

「美沙ちゃん…健次郎君…(はじめ)君…!!」

私は彼女の名前を必死で呼び、美沙も私達の名前を呼ぼうとする。

しかし、裕美を連れたテンマは、その場から一瞬にして姿を消してしまうのであった。


いかがでしたか。

まさか、テンマがこんな強引な手を使うとは…。

ひとまず、彼の名前について補足。これまでテンマの名前をカタカナ表記にしていたのは、今回で肇らが口にしていたように本来の名前がわかってしまい、ネタバレになる恐れがあったための表記変えでした。

要は仏教において修行する者を妨げる邪悪な存在がテンマの本来の姿であり、自称・付喪神と言っていたのは真っ赤な嘘(あるいは何かしらの現実踏まえた比喩)という事です。

さて、この回で第5章は一旦終了となります。

次回はついに最終章。連れ去られた裕美を助けるために、美沙達はどうするのか?

次回をお楽しみに★


ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します。


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