47話 炎の蛇
「くっ!」
錫杖で受けた拳から伝わる衝撃に、エンマは苦悶の声を漏らした。
元々エンマは戦闘というよりは統治に長けている使徒だ。
戦闘特化型の使徒であるラゴーンとはすこぶる相性が悪い。
案の定、彼は劣勢に立たされていた。
だがそれでも防御に徹しさえすれば、凌ぐことぐらいはできる。
エンマはラゴーンの攻撃を器用に捌き続けていた。
しかしこの状況はなかなかに絶望的である。
囚人は暴徒と化し、獄吏たちはその対処で手一杯。
なによりこの戦場には陰湿な暗殺者がいる。
何か策を講じたとしても、その暗殺者のせいでご破算になる可能性が高い。
正直な話、目の前の化け物よりも、闇に紛れているバスピーの方がエンマにとっては厄介な相手だった。
「うおおおおお」
「くっ!」
打開策を模索する間も、ラゴーンの猛撃が止まることはない。
一発食らえば致命傷になりかねない攻撃を紙一重でかわしながら、エンマは悟った。
このままでは負けると。
「仕方ない」
そう判断したエンマは決断する。
彼はラゴーンからなんとか距離をとり、錫杖を両手で握ると、呪文を紡いだ。
「我、地の獄の番人。使命に従い炎を束ねる。法によりて、罪には罰を」
それは地獄の支配者に許された特権。
世界の安定を維持するために与えられた力の形。
今、それをエンマは解放した。
「みんな、少しの間踏ん張ってくれ」
獄吏たちを守るように展開されていた砦の壁たる青白い炎が、エンマの元へと収束していく。
いや、それだけではない。
辺り一帯で燃え盛っていた他の炎も、同じようにエンマの呼びかけに応じて集まっていく。
やがてそれは一つの巨大な炎となり、形を持った。
「ラゴーン、ここからは私も本気で戦おう。わざわざこんな手まで使ったんだ。多少は痛い目にあってもらうよ」
エンマが背負うは炎の蛇。
その身をもって敵を焼き尽くす地獄の炎の結晶が、今姿を現した。
ここから先、小細工はいらない。
下手に策を弄しても、暗殺者の邪魔が入るだけ。
ゆえに純粋な力をもってして、エンマは敵を討つと決めた。
使徒の戦い、やはりそれはこういう結論へと至るしかないのだろう。
原初の時代からそれは絶えず繰り返されてきた儀式。
すなわち殺し合い。
彼らもそれに倣って対峙する。
激突が生じたのは、その一瞬の後だった。
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とろりんちょ @tororincho_mono




