39話 遠い記憶
こんなはずではなかった。
たまたま見つけた異世界への鍵に興味を示し、少し調査するだけのつもりだった。
他の派閥もこういうことはしている。
もともと他派閥の使徒同士で騙し騙されたなんてことはよくあること。
自分が管轄する世界にスパイが忍び込むことなんて日常茶飯事。
弱みを見せたら戦争をしかけられることだってあるのが天界の掟だ。
だから俺もそれに倣ったまで。
最近は自らが管理する世界も安定してきており、だいぶ派閥の王としての箔もついてきた。
この機会に少し他派閥への干渉をしてみるのも派閥の発展につながると思ったのだ。
しかしふたを開けてみればどうだ。
部下に裏切られ、部下を失い、協力してもらった友さえ死なせてしまった。
これほどの無様を晒した使徒がかつていただろうか。
「もうどうでもいいか・・・」
心に抱くのは後悔だけ。
どうしてこうなってしまったのか、どうしてこんなに苦しいのか。
そんなこと考えなくてもわかる。
俺が無能だからだ。
普段は偉そうな態度を作って必死に取り繕っているだけで、本来俺は王の器などではない。
身の程を弁えず無茶をすれば、当然悲惨な事態を招く。
そんなことさえ忘れて調子に乗った結果、大切な者たちを死なせてしまった。
そして今度はその失敗を認めたくなくて、復讐者という名の皮をかぶったのだ。
そうやって嘘で固めて、己を騙して、何もかも見て見ぬふりをして、なんとかここまで歩んできた。
だがそんな偽りの虚勢など、容易く崩れる。
結局何もかも無駄になったのだ。
これも報いなのだろう。
だからもうどうでもいい。
すべてを諦め、これまでの自分を否定する。
それはとてもつらいことだけど、もうどうすることもできなかった。
「ああ・・・」
そう言えば、昔似たようなことがあったような。
あれはいつだっただろうか。
どこの世界のことだっただろうか。
よく思い出せない。
でも一つだけはっきりと思い出すことのできるものがある。
それは白く輝く髪。
絶望の中でなお、何かを探し求める紅の瞳。
ああ、なぜ今それを思い出すのかと思えば当然か。
だってあの時も、あの使徒と共にいたのだから。
――――――
黄昏の時間。
静寂だけがあたりを支配した世界で、俺は絶望していた。
王になり、世界を救うため多くの使徒を率いるようになってから初めて経験するそれは、ひどく俺の胸を苦しめる。
世界は今、滅びの危機に瀕していた。
そしてこれまでとは異なり、もはやその滅びを止められそうにない。
人々の命は無残に散っていく。
部下の使徒は傷つきもう動けない。
俺にできたことと言えば、滅びゆく世界をただ眺めていることだけだった。
使徒が介入したとしても、世界が滅びてしまうことは少なからずある。
今まで働いてきたどの派閥でもそういう経験はしてきた。
だがいざ王となり、その滅びの責任をすべて背負わなければならなくなった時、俺はその重みに耐えることができなかった。
自分はもっと優秀な使徒だと思っていた。
これまで世界を救うことに失敗してきた王たちを、陰であざ笑っていた。
俺ならもっとうまくやれる、俺ならもっと多く救える。
おこがましくもそんなことさえ思っていた。
だがそんな傲慢が一瞬で消し飛ぶほどの重圧が、今この身にのしかかっている。
膝を折り、動けずにいる情けない姿が、紛れもない自分のものだった。
そうしてようやく理解する。
己も所詮は、無力な王の一人なのだと。
でもたとえ自分がなれなかったとしても、本当の王というものは確かに存在する。
「君がトトかい?」
すべてを諦め、虚空を眺めていた俺に話しかけてくる奴がいた。
もう部下の使徒たちは全て撤収させたはずなのに、いったい誰だというのか。
そう思って振り返った俺の視界が捉えたのは、息をのむほど美しい光景だ。
夕陽に照らされ輝く白髪、強い意志を湛えた紅の瞳。
それはこの絶望の中にあってなお、光輝く存在であった。
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