34話 闇の産声
それは想像を絶するほどの長い時間をかけて、進められてきた陰謀だった。
絶望的なまでに不確かで、そして気の遠くなるような計画は、幾度となく破綻しかけ、その度に立案者の心を抉った。
当然のことながら、すでに彼は発狂している。
狂って、狂って、狂って、それでも忠誠心だけを頼りにここまで歩いてきたのだ。
だからこそ、彼は強い。
非力な身でありながらも、前に進み続けたその意志は彼に生き抜く術を与えた。
敵を騙し、不意をうち、己の意のままに盤面を動かす。
それこそが彼の力。
そして作戦は最終段階に至った。
薄暗い牢獄の中で、錠に鍵が差し込まれる。
だが鍵は回らない。
彼は焦る心を必死で抑えながら、別の鍵を取り出した。
一つ一つ順番に、持っている鍵を錠の穴へと差し込んでいく。
やがてガチャリという音が、牢獄に響いた。
錆びた扉が大きな軋みを上げながら、ゆっくりと開いていく。
そして牢獄の中から、一つの影が現れた。
「王よ」
その影に向って、彼は恭しく頭を垂れる。
この瞬間こそ、彼が望んだものだった。
己が主を救い出すためだけに費やした彼の生が、今報われる。
「大儀である」
闇を纏うようにして現れた影は、そんな彼にねぎらいの言葉をかけた。
そしてどこまでも濁った瞳で前を見据えると、続く言葉を放つ。
「これより侵攻を開始する。目指すは天界。世界を再び我が手に取り戻すぞ」
もはや動き出した歯車は止められない。
凍てつく暗闇で、災厄は静かに産声を上げた。
感想・評価などお待ちしております。
あとよかったらブックマークもよろしくお願いします。
とろりんちょ @tororincho_mono




