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32話 要塞にて

 トトが追走を始める少し前、要塞でも事態は動き始めていた。


「各地の暴動はどうなっている?」

「まだ囚人たちを鎮圧できておりません。数が多すぎます」

「そうか・・・。侵入者たちの方はどうなった?」

「逃げられてしまいました。申し訳ございません」

「まあ彼相手なら仕方がない。宝物庫のほうはどうだ?何か盗まれていたのか?」

「はい、つい先ほど確認したところ、大寒獄の鍵がすべて盗まれていることがわかりました」

「なんだと?じゃあ奴らはあそこに向ったということか?」

「おそらく」


 地獄の支配者たるエンマは、部下からの報告を受け目頭を押さえる。


 普段冷静沈着な彼といえども、今回の事態に対してはさすがに混乱していた。

 部下の前だというのに不機嫌さを隠すことさえ忘れて、考え事に耽っている。


 しばらくの間、その沈黙の時間は続いた。


 だが彼とて歴戦の使徒の王。

 いつまでも立ち止まるような無様を晒すようなことはしない。


 やがて彼は顔を上げると、その聡明な瞳を輝かせた。


「・・・今すぐ獄吏をかき集めろ」

「かしこまりました。しかし動ける獄吏たちのほとんどは囚人たちの鎮圧に駆り出されています。十分な数は揃えられないかと」

「それでもかまわない。とにかくできるだけ集めるんだ」

「はっ!」


 そう言って部下が退室したのを確認したエンマは、ため息を吐く。


「ふう・・・」


 もう長いこと、地獄は平穏な時代を過ごしてきた。

 それは地獄という世界の理、エンマの手厚い保護、獄吏の管理要綱など、いくつもの要素が積み重なり、ようやく実現したものだ。


 それが今はどうだろう。


 他派閥の使徒の侵入を許したかと思えば、宝物庫を荒らされていた。

 結局彼らを取り逃がし、今も逃走を許している。


 挙句の果てに目的は大寒獄ときた。


 タイミングよく発生した囚人たちの暴動もこの件と無関係とは言えないだろう。


「いったいどういうつもりなんだ、ルイ・・・」


 エンマにとってはそこが一番の疑問だ。


 ルイが地獄を攻撃する理由がわからない。

 ましてや大寒獄の鍵を盗むなど、あり得ないことだとエンマには思えた。


「ははっ、困ってるな、エンマ」


 エンマが一人思考を巡らしていると陽気な声が割り込んでくる。


 その声の主はさっきからずっとここに入り浸ってうろうろと歩き回っていたサイラであった。


 そんな彼女に向ってエンマは言葉をかける。


「ああ、とても困っている。君はルイ達が何をしようとしているか知ってるんだろう?少しは教えてくれないかな?」

「だーめ。今アタシは中立だ。どちらにも協力してやらないよ」

「・・・ケチめ」

「あはは、ケチで結構。ほら、アタシのことなんかほっといて仕事して」


 このサイラという存在もエンマを混乱させる一因になっている。


 ルイと一緒にいたと思ったら突然裏切るといって目の前で決別しはじめ、かといって寝返るのかと思ったらそういうわけでもなく、今は自分を中立だとほざいている。


 その証拠にエンマが何を聞いても彼女が答える様子は無かった。


 しかし元々異分子である彼女を使おうなどとエンマは考えていない。


 早々にサイラという不確定要素を思考から排除すると、彼は再びこの後のことについて考え始める。


 そんな時だった。


 部屋の扉がノックされる。


 今彼らがいるのはエンマの執務室。

 ここは日々獄吏たちからの情報が運び込まれる要塞の中枢だ。


 その扉が叩かれたということは、この世界に新たな展開があったということを意味していた。


「入れ」


 エンマは意識を切り替え、応えを返す。


 地獄の平穏は終わった。

 様々な思惑が入り乱れ、もはやその制御は彼の手から離れてしまっている。


 ゆえにこの騒乱の結末は誰にもわからない。


 いや、正確に言うならばこうだろう。


 結末は、神のみぞ知る。



良いお年を!

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