27話 逃走
けたたましく警鐘が鳴り響く。
今や要塞はお祭り騒ぎになっていた。
原因は言うまでもなく僕たち。
獄吏たちが必死になって僕たちを追い回しているのだ。
「どうする、ルイ?」
「今考えてる」
焦ったように声をかけてくるトトに対して適当に返事を返しながら、僕は頭を回転させていた。
だがいくら考えたところで結局やることなどあまり変わらない。
そう結論づけると僕は口を開く。
「まあとりあえずこのまま頑張って脱出すればいいんじゃない?」
「だからどうやって!」
僕があまりに適当なことを言ったのでトトがご立腹だ。
しかし残念なことに、今できることは本当にそれくらいしかない。
「地図は頭に入ってる。あとは相手の出方次第だ。とりあえずこのまま出口を目指すよ」
「こんなことになっても冷静なのは心強い限りだが、その格好で言われると少し滑稽だな」
「いやー面目ない。エンマには見つかるし、サイラには裏切られるし、君たちを助けようとしたら縛られるし、まったく散々だよ。しかも助けた本人に馬鹿にされるし」
「うっ・・・、助けてもらったことには感謝している。悪かった」
「別に気にしなくていいよ。でも足を縛られなくてよかった。走れなかったら君たちに担いでもらってるところだよ」
「また来ます!」
僕とトトが呑気に会話をしていると、バスピーが突然叫ぶ。
それにつられて前に向き直ると、通路の角から獄吏たちが現れるのを視界に捉えた。
全員その手には縄を持っている。
「あれに捕まらないようにね。取れなくなるよ」
「おう」
「はい!」
縛られて両腕を使えない僕を見た二人が苦い顔をして返事を返した。
まあ無様な僕を見て警戒してくれるというなら安いものだ。
「縛!」
先ほどエンマが見せた行動と全く同じように、獄吏たちもこちらに向って縄を放り投げてくる。
それに捕まったらどうなるかわかっている僕たちは必死になってその攻撃を潜り抜け、なんとか枝分かれした別の道へと逃げ込んだ。
「獄吏たちの拠点はこの要塞を中心に網目状に広がっている。地下には外につながっている通路も複数ある。とりあえずそこまで逃げられたら地上に戻れるはずだ」
「でもそこら中獄吏で溢れているし、厄介な技も使ってくる。このままじゃ普通に捕まるぞ」
「確かにもう隠れることはできない。数が多い相手に対しては不利な状況だ。でも逆に解禁されたものもあるだろう?」
「何の話だ?」
「トト様!ルイ様!あれを!」
トトがそう聞き返してきたその時、通路を封鎖するように天井から壁が下りてきた。
それを見たバスピーが悲鳴を上げる。
どういう仕掛けで作動しているのか知らないが、ここにきて発覚した要塞の新たな機能にトトは嫌そうな顔をする。
しかし僕は丁度良いと思った。
さっきの話を分かりやすく説明できると思ったからだ。
進路妨害に困った二人に先行して僕はその壁に向って突っ込んでいく。
そしてそのまま勢いに任せて、壁に向ってドロップキックをお見舞いした。
爆音と共に壁が崩壊するのを見届けて、僕は華麗に着地する。
「ほら、こんな風に大きな音を立てても大丈夫でしょ?」
「「うわー」」
振り返って二人の表情を見たらドン引きしていた。
せっかく逃走経路を確保してあげたのに、いったい何が気に入らないというのか。
「いたぞ!あっちだ!」
当然凄まじい音を出したので獄吏たちに見つかってしまう。
まだ壁を眺めて呆然としている二人を促すように僕は走り出した。
追いかけてくる獄吏、進路を邪魔する壁、いちいち対処するのも面倒なので、僕たちはなるべくそれらを避けつつ通路を走り抜ける。
そうして走ることしばらく、今度はまた別の種類の罠が僕らを待ち受けていた。
「うわっ」
「ちっ」
踏み込んだ先の床が突然割れたのだ。
「落とし穴とはまた原始的な・・・」
トトは壁を蹴り上がることで落とし穴をやり過ごしていたが、バスピーの方は対応できずにそのまま落ちていく。
それを見た僕は彼の元に急行し服に噛みついて捕まえると、そのままトトと同じ要領で落とし穴を駆け上がった。
「ぺっ!」
そして口にくわえていたバスピーを地面に下ろすと、僕はトトに向き直る。
「トト、君の部下なんだから君が面倒見ろよ」
「悪い、俺もとっさに反応できなかった」
「ルイ様、ありがとうございます。すみません、足ばかり引っ張って」
「いやいいんだよ、気にしないで。悪いのはトトだから」
「くっ」
一応トトもそれなりの力を持った使徒なのだが、いかんせんこういう瞬時の判断を必要とする状況にはあまり慣れていないようだ。
自分のことで手一杯になってしまっている。
仕方がない、ここは僕が頑張るとしよう。
「まったく、これじゃあサイラの思い通りだよ」
二人に聞こえないようにため息をつく。
だが嘆いている時間は無いようだ。
「縛!」
物陰から出てきた獄吏がこちらに向って縄を投げてくる。
またもや反応できたのは僕だけで、泣く泣く我が身を盾に縄を受ける。
もうすでに縛られているのだからさらに縛られたところで不利益はない。
「逃げるよ」
「ああ」
「はい!」
僕の掛け声とともに二人も走り出す。
しかしこのままではジリ貧だ。
獄吏たちは際限なく現れ厄介な攻撃を仕掛けてくるし、要塞内は捕縛用の罠で溢れている。
それに敵も馬鹿じゃない。
これまでの逃走も決して闇雲に後ろから追いかけているだけではないのだ。
「なあルイ、誘導されてないか?」
「そうだね。当初目指していた出口とはだいぶ離れてしまったよ。このままだとやばいかも」
「どうするんだ?」
「君もちょっとは頭を使え」
「どこかに隠れるというのはダメなのですか?」
「いや、もう見つかっている以上一刻も早くここから脱出するべきだ。このままグダグダとここにいたらたぶん捕まる」
「じゃあどうしたら・・・」
バスピーは心底困った顔をして僕に解決策を求める。
君の上司は僕じゃなくてトトなんだけど、というツッコミを僕はこらえた。
「誘導されているなら相手が意図していないことをすればいいだけだ」
「具体的には?」
「反転とか?」
「「ええ!?」」
「いくよ」
「「ちょっ・・・」」
宣言通り僕は急遽踵を返す。
二人は驚きながらもなんとかそれについてきた。
一番驚いたのは他でもない獄吏たちだろう。
突然向かってくる僕たちに焦って、縄を投げるタイミングが少しだけ遅れてしまったのを見逃さず、僕たちは隔壁を破壊して別の道に足を踏み出した。
「あっちにいったぞ。早く隔壁を降ろせ」
「待て、少し時間がかかる!」
予想通り相手の混乱を誘えたようで、しばらくの間追撃の手が緩む。
その隙をついて僕らは一気に直近の出口に向かって走り抜けるのだった。
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