25話 騒乱の始まり
一つ目と同じ要領で、二つ、三つと関門を突破していく。
サイラは置いておくとして、トトは腐っても派閥の王なのでそのへんの使徒に後れをとることはない。
特に危ない場面もないまま無事三つ目の扉を開いた僕たちは、いよいよ目的の区画へと侵入を果たす。
二つ目の区画も鍵の保管庫だったのである程度予想はしていたが、案の定三つ目の区画も同様の機能を持つものになっていた。
決定的に違うのはその狭さだ。
これまでのような広々としたものではなく、たった一部屋、ちっぽけな空間が広がっている。
そして扉のない三方の壁に、鍵が並べられていた。
「さて、どの鍵?」
「・・・わからん」
「はあー、まあこれくらいなら探すか」
これまで見てきた通りなら、この部屋の鍵にもちゃんと名札がつけられているはずだ。
多少時間がかかるとはいえ、四人で手分けして探せば見つからないこともないだろう。
そう結論づけて、僕らはさっそく作業に取り掛かった。
一つ一つの鍵を順番に確認していき、目的のものと思われるそれを探しまわる。
そうしてしばらく時間が経った頃、僕たちの中の一人が声を上げた。
「この辺じゃないですか?」
バスピーが立ち止まって、僕たちを手招いている。
皆が集合し、彼が指し示した場所をよく見てみれば、そこには確かに大監獄という文字と数字が書かれた鍵が並んでいた。
「それで、結局どれが必要なんだ?」
「わからないよ。まあでも全部持ってけばいいんじゃない?」
とりあえずそれらしいものは全部回収する。
そして入り口近くに置いてあった、持ち出しのために用意されているのであろうキーホルダーにそれらまとめると、バスピーに向って声をかけた。
「君がこれ持っといて」
「え?」
「おい、なんでバスピーなんだ?別に俺が持っとけばいいだろ」
「トトとサイラ、そして僕はいざという時の戦闘要員だ。激しく動けばうっかり鍵を落としてしまうことだってある。それに比べて足手まといであるバスピーはそんな心配いらない。大事な鍵の管理ぐらいは任せたっていいだろう?」
「足手まといって・・・」
「いいんです、トト様。事実です。こんな私でもお役に立てることがあるのなら喜んで引き受けます」
「・・・まあバスピーがそう言うならかまわんが」
「ということでトトも天界に帰るときの鍵をバスピーに預けておこう」
「え、それもか?」
「うん、それも落とされたら困るし」
「・・・ああ、わかった」
直属の上司に納得いただいたので、僕とトトは鍵をバスピーに渡す。
彼はそれを受け取ると、懐にしまった。
「さて、これで目的は達成したね」
「ああ。後は逃げるだけだな」
「あー、ようやく外に出られるよー」
「早く逃げましょう」
正直な話、このとき多少なりとも僕らは浮かれていた。
それもそうだろう。
なにせこれまでの僕たちといったら、何もわからないまま地獄を彷徨い、挙句の果てに大した準備もないまま敵の本拠地に突入するような狂った旅をしていたのだ。
普通ならどこかで失敗していてもおかしくない。
だが蓋を開けてみてみればここまで大した問題も起こらず、物事はうまく進んでいた。
危険な未探索領域にて何もわからずよくここまで頑張ってきたものだ。
我ながら自分で自分を褒めたくなる。
しかし忘れてはいけない。
物事というのは、得てしてうまくいかないものだ。
ここまでが順調だったからと言って、これからも順調だと誰が保証してくれよう。
神か?
いいや、神は傍観者だ。
間違っても助けてくれたりなんかしない。
ゆえに不運は突然訪れる。
宝物庫から脱出しようとして扉を開けた先にそいつはいた。
「そこで何をしている?」
扉の前に立っていた男はひどく小柄な優男だった。
長い黒髪を肩まで伸ばし、今まで見てきた誰よりも豪華な法衣を着ている。
「警報が鳴ったから来てみれば、これは驚いた。ずいぶんと懐かしい顔があるじゃないか」
その使徒はこちらの動揺になど気づかないとでもいうように、笑みさえ浮かべて話しかけてきている。
それにその視線は明らかに僕を捉えていた。
これはまずい。
「いったい誰の許可を得てここにいるんだ、ルイ?」
全員が言葉を失う中、名指しされてしまった僕は仕方なく返事をする。
「久しぶりだね、エンマ。少しお邪魔しているよ」
これは最悪の展開だと言ってもいいだろう。
なぜなら今目の前にいる者こそが、この地獄の支配者たるエンマその人なのだから。
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