24話 宝物庫
「まったく、あれだけ意気込んだ結果がこれか?」
「・・・」
「だから言ったのだ。時間の無駄だと」
「・・・」
「だがこれで気が済んだだろ?約束通り俺の指示には従ってもらうぞ」
「・・・」
もはや僕に言葉はない。
トトの言う通り、僕は何の成果も得ることができなかった。
無能に発言する権利はなく、ましてや逆らうなどもってのほか。
ここはじっと耐え、ただ嵐が過ぎるのを待てばよい。
そう、トトのドヤ顔をという嵐を。
「時間が惜しい。さっそく作戦の説明に入る」
トトはまるですべてを掌握したかのような勢いで、僕とサイラに向って作戦を披露し始めた。
その瞳は自身に満ち溢れていて、ここから始まる快進撃を信じてやまい様子である。
しかし僕にはその自信がどこから来るのかよくわからなかった。
なぜ彼は僕が大人しく彼の指示に従うことを前提に話を進めているのだろうか。
ついさきほどトトは僕のことを約束に誠実だと評した。
しかしそれは間違いである。
僕が素直に約束を守るのは破る必要がない時だけだ。
もしその約束より大事なことがあればそっちを優先する。
そういう理由で約束を破ったことなんていくらでもあるし、最初から守る気がない約束をしたことだってある。
それくらい僕は薄情な奴なのだ。
そんな僕に期待したトトという使徒は馬鹿なやつである。
つまり今この場を仕切っている彼の立場というものは、あまりにも不安定な先入観から成り立っているということになるのだ。
まあしかし今回に限って言えば、本当に幸運なことに、彼とした約束を破る理由が僕にはないので、その約束は無事履行されることになっている。
まったく、事と次第によってはいろいろと崩壊していることに彼は気づいているのだろうか。
本当にめでたい奴である。
僕がそんな風に思いながら哀れな視線を送っているのにも気づかず、当の本人は楽しそうに作戦とやらを捲し立てていた。
「宝物庫は三つの区画に分かれている。奥の区画に行くには獄吏が警備している扉を通っていかなければならない。そして残念なことに俺たちが手に入れるべき鍵は最奥、つまりは最も厳重に警備されている区画にあるわけだ」
「・・・」
「宝物庫には常に見張りがいる。見つからずに侵入するのは不可能だろう。だから最初から腹をくくって強行突破することにした」
「・・・」
「獄吏を見つけ次第迅速に無力化して前に進む。バレるのは時間の問題だが、バレる前に鍵を手に入れてこの要塞から離脱する。これが今回の作戦だ」
「・・・」
トトよ、それを作戦とは呼ばない。
僕は口から零れそうになった言葉を必死で抑えた。
今回は彼の作戦に黙って従うことにしている。
だからそれに口出しするつもりはない。
だがあまりにお粗末だ。
彼はいったいこの二時間何を考えていたのだろうか。
これではサイラと同類である。
それに脳筋サイラは僕とずっと一緒にいたので、トトに変な入れ知恵はしていないはずなのだ。
つまり普通にトトとバスピーがアホな作戦を考え出したことになる。
正直無言で頭を抱えた。
だが仕方がない。
今回は彼の立てた作戦に無条件に従ってやるつもりなのだ。
言いたいことはたくさんあったけど、僕はそれらをぐっとこらえて大人しく指示通りに動くことにした。
僕にできることといったら、この作戦とも呼べない作戦がうまくいくことを祈ることぐらいである。
――――――
宝物庫は要塞中央部にある巨大な螺旋階段を下った先の地下深くにある。
その入り口は微かな光源によって照らされているだけで大層薄暗い。
そんな中でも僕たち一行は、扉の前に立つ門番の姿をなんとか確認できていた。
そしてトトが僕たち三人に向って合図を出す。
敵を無力化するときは可及的速やかに、そして何より音を立てずに。
それだけ気を付けてやればいい。
闇に紛れて、二つの影が動き出す。
次の瞬間には二人の門番が気を失っていた。
「こういう暗殺みたいなのも案外面白いな」
「殺してないだろうな?」
「大丈夫だよ、たぶん」
「たぶんとかやめてくれない?」
「あははは」
サイラは冗談めかして笑っているが、僕からしたら全く笑えない。
まあ二人とも無事なのは確認しているので問題ないのだが。
「鍵があったぞ」
ゴソゴソと門番の体を調べていたトトが入り口の鍵を見つける。
そのまま特に誰が何を言うでもなく、その鍵を使って扉を開錠した僕たちは、いよいよ宝物庫の中へと侵入を果たした。
「さて、とりあえず第一関門突破だな」
小さな声でトトがつぶやく。
とりあえずは作戦がうまくいったことに安堵して漏らした言葉なのだろう。
ここは一つよくできましたとでも言ってあげるべきなのだろうが、僕はその言葉を軽く流すことにした。
なぜなら、それどころではないからだ。
今僕は目の前の光景に意識をもっていかれていた。
宝物庫などとうたっているのだから、当然ここには宝物の類が保管されているものとばかり考えていたのだが、その推測は大きく外れている。
相変わらず薄暗い視界に映ったのは規則正しく並べられた大棚。
うっすらと明かりで照らされているそれらには、所狭しと“鍵”が並べられていた。
どれだけの数の鍵がこの空間に存在するのだろう。
とても数えられたものではないが、少なくともルイはこんな光景を見たことがない。
「これは驚いた・・・」
あまり大きな声は出せないが、それでも感嘆の声を上げずにはいられない。
僕はキョロキョロと視線を動かしながら、棚の一つに近づいた。
「おい、あまり勝手に動くな」
「わかってるよ。ヘマはしないさ」
トトが文句を言ってくるが、僕はそれに取り合わずに注意深く周りを観察しながら奥へ奥へと進んでいく。
もう少ししたらまた扉が現れ、そしてそこには門番がいるだろう。
そこに辿り着くまでの少しの間くらい、この空間を楽しんでもいいはずだ。
そんなことを考えながら、僕たちは宝物庫の中を練り歩くのだった。
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