13話 動き出す事態
「そういえばさ、獄吏たちって普段どこにいるんだろうね」
下山した帰り道、ふと疑問に思ったことを僕は口にする。
すると隣でそれを聞いていた男が心底不機嫌そうに反応した。
「・・・やっと反応したと思ったら質問か?お前はいったいどういう神経してんだよ・・・」
「え、何の話?僕はいたって常識的な感覚を持ち合わせた存在であると自負しているんだけど」
「本気でそう思ってるならもう少し自己評価を見直せ」
なぜか白い目を向けてくるシュウに、僕は首を傾げた。
「んー、まあ今その話はいいや。それより獄吏のことだけど何か知らない?」
「だからそういうところだって・・・」
「ん?」
「あー、もういい!わかったよ、答えればいいんだろ」
ぶつぶつと文句を言いながらも結局のところは律義に答えてしまうのが彼の美徳と言えよう。
是非ともその調子で僕の疑問に答えていってほしい。
「でもそれに関しては本当に何も知らないぞ。やつらはいつもどこからともなく現れて、いつの間にかいなくなっている。昔後をつけてみたけど、結局見失っちまった」
「ふむ、なるほど。なら調べるしかないか」
もう集落までは目と鼻の先というところまで戻ってきていたのだが、ここにきてまた調べたいことができたので、僕は踵を返すことにした。
「シュウ、ここまで付き合ってくれてありがとう。もうここからは僕一人でなんとかするよ。君は集落に戻るといい」
さすがにこれ以上彼を付き合わせるのも可哀想なので、彼がついてこないと言うのなら無理やり同行させるつもりはなかった。
そう思って発した言葉だったのだが、なぜかそれを聞いた本人は帰ろうとしない。
こんなこと言われたら速攻で帰宅すると思ってたのだがどうしてそうしないのだろう。
彼の反応が理解できず、僕は再び首を傾げた。
「どうしたの?」
「そろそろ罰の時間だ。調査をするならその後にしておけ」
「え、別に一回くらいサボっても大丈夫・・・」
「やめておけ」
突っ込みの時以外覇気を感じられない彼にしてははっきりとした物言いだった。
首を傾げたまましばらくシュウの様子を観察していると、彼は厳しい視線を送りつつ僕の腕をつかむと、そのまま引っ張って歩き始めてしまう。
川で彼を捕まえたときとは全く逆の構図で、僕たちはそのまま集落に帰還することになった。
「別に罰を受けたいのなら勝手にそうすればいい。わざわざ僕を連れていく意味もないだろうに」
「さっきも言ったはずだ。俺たちは罪人、罰を受ける義務がある」
「おいおい、君はそんな模範囚みたいなやつだったのかよ?」
「その通りだが?」
「・・・冗談だよね?」
「いいから行くぞ。罰さえちゃんと受ければ後は好きにすればいい」
「えぇ・・・」
そうこうしているうちに、例の鐘の音が集落に響き渡り、僕は三度目の罰を受けることになる。
「なんでこうなった・・・」
煮えたぎる川に飛び込む寸前に、僕は思わずそう呟いた。
―――――
「ただいま」
相変わらずの拷問内容にうんざりしながらも、僕はなんとか帰宅する。
おそらく同居人も拷問によって瀕死の状況にあるはずなので、あまり返事は期待していなかった。
「おかえりー」
だが意外なことに、元気そうなサイラの返事が僕を出迎える。
「なんだか元気そうだね」
「おう、寝てたからな」
「え、拷問は?」
「寝てたら終わってた」
「・・・なんでそれが許されて、僕は許されなかったんだ?」
「何の話だ?」
「こっちの話だよ」
これぞまさに理不尽の極みだろう。
どうして頑張って情報を集めていた僕が拷問されて、ここで寝腐っていただけのサイラがそれを回避しているんだ。
納得がいかない。
だがしかし結局そんなもんである。
頑張ったから報われるなどという考えは、つまるところ努力に対して抱く身勝手な期待に過ぎないのだ。
我々は報われるから努力するのではなく、報われるために努力をする。
結果が出なかったからといって不満を述べるのは筋違いだろう。
なので僕は深呼吸を一つして心を整えると、自然な態度でサイラに話しかけた。
「トトは?」
「まだ帰ってきてないぞ。いくつか集落を回るって言ってたからもう少し時間がかかるんじゃない?」
「そうか」
「それで?何かわかったことはあった?」
「いや、特に無いかな」
「えー、なんだよー、無駄足かよー、使えないなー」
「ここで寝てた君に言われたくない」
サイラと軽く会話をしながら、僕は腰を下ろして横になった。
少し休憩したらまた出かけるつもりだが、さすがにちょっと疲れたので今は眠りたい。
せめてそれくらいは許されてもいいだろう。
「少し寝る」
「はいよ、おやすみ」
そう言って目を閉じる。
しかしやはりどこの世界に行こうと理不尽というものは僕に対して風当たりが強いようだ。
ようやく訪れた安息の時間は荒々しい足音によって、無情にもぶち壊された。
「ルイ、サイラ、大変だ!見つかったぞ!」
トトがものすごい勢いで部屋に飛び込み声を上げている。
そんな状況下で眠ることなどできるはずもなく、僕は重い体を無理やり起き上がらせた。
「おかえり、トト。そんなに慌ててどうしたの?」
振り返って彼の姿を確認しようとしたところで、思いがけず僕の視線は彼ではなくその隣の存在へと吸い寄せられていった。
「俺の部下が一人見つかったぞ!」
そしてトトのその一言が僕の疲労を一発で吹き飛ばした。
僕とサイラが黙って見守る中、彼が部下と呼んだその人物はおずおずといった様子で一歩前に出てくると、こちらに向って口を開く。
「初めまして、トト派閥のバスピーです。以後お見知りおきを」
何の手掛かりもなく、膠着状態に陥りつつあった僕らの冒険は、行方不明だった探し人の登場によって急激に動き始めるのであった。
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