8話 集落
5000PVいきました!
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本来使徒にかかれば移動なんて大した苦にはならない。
水の上も歩けるし、空だって飛べる。
そもそも条件さえそろっていれば転移することだって可能だ。
だがこの地獄という世界においてはそれが許されない。
この世界では使徒など人間よりちょっと身体能力に優れているだけの存在でしかなく、目的地に行きたいのなら自分の足で歩く以外に方法はないのだ。
よって僕たち一行も今現在人間の住む集落とやらに向って歩いている。
そうして代わり映えしない景色を横目に見ながら、特に会話を交わすこともなく進むことしばらく、僕らはようやく目的地らしきものをその視界に収めることに成功した。
「あれだよね?」
「あれだろうな」
別に何も期待などしていなかったが、予想した中では一番最低のものがそこには広がっていた。
まあ最低とは言ってもそれは客観的な指標に従って選ばれた言葉であり、決してそこに悪い意味は含まれていない。
つまり何が言いたいかというと、その集落は文明レベルが最低ということだ。
囚人たちが住んでいるであろういくつも並んでいる家は、すべて土で作られている。
それもただ単に積んだ土を掘りぬいただけの簡素な造りをしており、地面に凹凸と規則的に並んでいるその光景は、遠くから見たならそれと気づけないほど周りの景色に同化していた。
「誰もいないよ?」
「今は皆寝てるとか?」
「行けばわかるだろ」
残念ながらここから見ていても全く動きが見て取れないので、僕たちは仕方なく集落へと近づいていくことにする。
しかしもう目の前というところまで来ても何かが起こることはない。
辺りは不気味なくらいの静寂に包まれていた。
「静かだなー」
「そうだね」
「アタシこういう静かすぎる場所にいると突然叫びたくなるんだけど、叫んでもいい?」
「やめろ」
僕が必死でサイラの口を押えると、彼女はそれに抗議するようにもごもごと声を出しながら抗い出した。
そんな僕とサイラをトトは不機嫌そうに眺めている。
おそらく彼からしたら、こんな時に何を遊んでいるのだと思っているのかもしれないが、僕は至って真剣だ。
というより見てる暇があるならこの馬鹿押さえるのを手伝ってほしい。
だがもう遅かったらしく、僕たちが取っ組み合いをしている間にも事態は動いてしまったようだ。
「そこで何をしている?」
今まで人っ子一人姿が見えなかった集落の中に人間が立っていた。
その人間は僕たちと同じ服を着て、不機嫌そうにこちらを見ている。
「いや、その、道に迷ってな・・・」
その突然の登場にトトがしどろもどろになりながら答えを返す。
それを聞いてさらに相手の顔が険しくなった。
このままではまずい。
そう思った僕はサイラから離れ、ただちに軌道修正するために口を開いた。
「なんか気がついたらこんな荒野にいてさ。わけもわからず歩いて来たんだけど、君ここがどこか知ってたりする?」
「・・・なんだ、新入りか・・・」
なんとか痴態を誤魔化すことには成功したらしく、その男は僕たちに対する変な不信感を一旦引っ込める。
そして代わりに僕たちを誘導するように手招きをした。
「ついてこい。いろいろと教えてやる」
地獄に来てようやく出会った最初の人間はかなり親切な人のようだ。
逆らう理由もないので先導されるまま大人しくついていくと、その辺にある家の一つへと彼は入っていく。
そして僕たち三人もそれに続いてぽっかりと空いた穴をくぐってみると、そこには家具も何もない、むき出しの地面と外から見たままの壁に囲まれた空間だけが広がっていた。
「ここは君の家かい?その割には何もないけど」
「違うぞ、お前たちの家だ」
「「「え?」」」
突然のプレゼントに僕たちは三人とも固まった。
しかしそんなことなど気にせず目の前の男は話を続ける。
「ここは地獄で、お前たちは罪人だ。罪人は流れ着いた集落で生活することになっている。ここでの規則はあまりないが、とりあえずは獄吏の指示に従っていればいい。それ以外は自由にしていろ。以上だ」
「質問しても?」
「俺たちが知っていることは他にない。わからないことがあっても慣れでなんとかしろ」
「えぇ・・・」
結構無茶苦茶なことを言われた気がする。
しかしどうしたものか。
彼が親切にいろいろと教えてくれるのかと期待していたのだか、この人にはやる気というものが感じられない。
僕たちの前に現れたのも、うるさかったから嫌々出てきたという感じだ。
「もう俺は行く。あとは勝手にやれ」
「・・・」
そう言って彼は出ていってしまった。
僕たちはそれを見送ると、お互いに顔を見合わせる。
「で、これからどうする?」
「アタシに聞かれても困る」
「僕は今トトに話しかけているから心配しなくていい」
「そうだな、俺は部下の目撃情報を集めようと思っている。奴らは最初囚人の服も獄吏の服も着ていなかったから、見られていれば覚えている奴もいるかもしれない」
「んー、僕はもう少し別のことを調べたいかな。どうだろう?一旦ここで別行動を取るというのは」
「別に俺は構わない」
「アタシはルイについてく」
「・・・まあいい。じゃあとりあえずお互い調査が終わったらもう一度ここで落ち合おう。そのときにまた次の方策を考えるということで」
「「異議なし」」
「よし、じゃあさっそく・・・」
そう言って僕たちが行動を起こそうとしたその時、静かだった集落に突然鐘を打ち鳴らすような音が鳴り響いた。
何事かと思って外を覗いてみると、その音につられるようにして周りの家から囚人たちがぞろぞろと這い出してきている。
「なんだ?」
その光景に疑問符を浮かべていると、家の影から見たことのある、しかし囚人のものではない服装をした者が現れた。
「あれは獄吏だな」
一緒になって家の入口から顔を出しているトトがその人物を見て口を開いた。
この地獄に来てトトに見せてもらった獄吏の服とその人物の服は確かに一致している。
つまりはあれが噂に名高い獄吏様というわけだ。
サイラも顔を出し、三人でその様子を観察していると、それに気づいた獄吏が僕たちに気付いて近づいてきた。
「おいお前たち、早く家から出ろ」
「えっと・・・、なんで?」
「ああ、新人だったのか。これから罰の時間だ。私についてこい」
「はあ」
なるべく彼を刺激しないよう指示通りに動き出す。
これから各々調査を開始しようとしたところに水を差される形となった。
しかし僕たちを案内した先輩囚人も獄吏には従えと言っていたからここで逆らうようなことをするのは愚策であろう。
それに何か起こるというのなら、それも情報を得られる良い機会ということだ。
だから僕たちは大人しく彼についていくことにしたのだった。
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