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1話 プロローグ

二章スタート

 穏やかな時間。平和な日々。

 働かなくていい休日とはなんと素敵なものなのか。


 これも僕が日頃からちゃんと世界を適切に管理しているおかげだろう。

 ちょっとした工夫により最小限の干渉で世界を滅びから救えるということは、それだけ僕たち使徒の仕事が減るということ。

 彼らは自分たちの力で自分たちのことを救えるし、僕らも必要以上に手を出さなくて済む。


 これこそが世界の本来あるべき姿なのだ。


 よって僕が怠けていることそれ自体が世界全体にとっての幸福であり、逆に僕が煩わしく感じるのはそれだけで世界の不幸と言えるだろう。


 そんなことを考えながらここ最近は堂々と仕事をサボっていたのだが、残念なことに今回はその怠惰が面倒くさいものを引き寄せってしまったらしい。


「おーい、ルイ。暇だろー。遊ぼうぜー」

「・・・」


 どこからともなく僕の暇を嗅ぎ付け、まるで飢えた獣のようにその安息を食い散らかそうとする不届き者が僕の家を訪れていた。

 今すぐ消し飛ばしてやりたい。


「うわっ、また本が増えてる。お前ほんと読書好きだよな。そんなんじゃ体がなまるぞ。アタシと一緒に外でひと暴れしようぜ!」

「・・・」


 ノックもせず無遠慮に部屋の扉を破壊して侵入してきたその馬鹿は、特に悪びれもせずに入室早々人の趣味にケチをつけてきた。


 ぶっ飛ばすぞ、この野郎。


 そもそもこいつを拠点に入れたのは誰だ。追い返せよ。なんで他所の使徒が僕の拠点に侵入しているんだ。門番仕事しろ。


「おい、いつまで本読んでるんだ。せっかく私が来てやったんだから、茶の一つくらい出せや」

「・・・」


 お前に出すものなどない。その辺で泥水でも啜ってろ。


「おーい、無視すんなよー。かわいい子が家に遊びに来たんだからもてなせよー」

「・・・」


 反応したら負けだと思い、心の中でひたすら罵っていたのだが、いよいよその悪魔は僕の体を掴んでゆすり始めたので、いい加減無視を貫くのもつらくなってきた。


 非常にうざったいのだが、このままだとさらにうざいので仕方なく僕は返事を返す。


「帰れ」


 馬鹿でもわかるようにシンプルに僕の思いを伝える。

 これで伝わらなければもはやこいつに知性は認められないだろう。


「お、ようやくアタシと遊ぶ気になったんだな?」

「・・・」


 どうやら知性はないようだ。


 なんとなく悲しくなった僕はこいつが来るまで続いていた至福の時間を諦め、全力でこの災害に対処することにした。


 赤き鬼神。


 このサイラという名の使徒はそう呼ばれている。

 類まれな戦闘能力によってその頭角を現し、多くの使徒から恐れられる存在に成りあがった使徒だ。


 しかしながら彼女は力を得るために理性と知性をどこかに落としてきてしまったらしく、基本的に頭がおかしい。

 彼女とまともに会話しようとしても、それは徒労に終わることだろう。


 そして非常に遺憾なことに、そんなサイラに僕は懐かれてしまっていた。

 いや、懐かれるという表現はあまりに優しく言い過ぎたかもしれない。


 僕は彼女によくからまれていた。


 何がそんなにお気に召したのか知らないが、事あるごとに僕の前に現れてはこうして邪魔をしてくる。

 その度に対応しなくてはならないこちらとしてはいい迷惑なので、正直厄介極まりない。


 今回も僕の方が根負けした形で無理やり話をさせられているのだ。

 どうしてこんな目にあわなければならないのだろうか。日頃の行いはバッチリなはずなのに。


「何の用?」

「遊びに来た」

「僕は遊びたくないんだ。帰ってくれない?」

「いやだ」


 さっそく心が折れそうになる。

 たぶん今世界はこいつを中心に回っているのだろう、そうとしか思えない。


「・・・ちなみに何して遊ぶつもり?」

「んー、とりあえず走るか」

「いや、それなら一人で走れよ」


 僕の心を躍らせる魅力的な提案だったら話を聞いてやらないでもなかったが、こいつにそんなものを期待するだけ無駄である。


「じゃあ鬼ごっこで。アタシが鬼で、もし捕まったら・・・ふふっ」

「いやだよ。なんか怖いよ」

「もう、ルイは我儘だなー。じゃあ何して遊びたいんだよ」

「そもそも遊びたくない」

「・・・それじゃあ十数えるからその間に逃げろよ?」

「待て、まずは落ち着け」


 これだから元気があり余っている奴は嫌いなんだ。

 こちらの都合など一切考慮してくれない。


 どうやったら穏便にお帰りいただけるのかまったくわからず、僕が頭を抱え始めたところで、部屋をノックする音が聞こえた。

 

 これは好都合だ。

 この来訪者に全精力を注ぐことにより、サイラに割ける時間がないということをアピールしよう。

 そしたらそのうち飽きて帰るに違いない。


「入っていいよー」


 そう考え僕は扉に向って返事をする。

 サイラが少しむっとしたような顔になるが、そんなことは気にしない。


「ルイ様、失礼いたします」


 入ってきたのはスッチーだった。


 頼む、なるべくしょうもない用件であってくれ。

 とりあえず僕が忙しくなる口実をくれればそれでいいのだ。

 庭の草むしりとかでもいいから。


「あれ?どうしてサイラ様がこちらに?」

「あ、アタシのことは気にしなくていいよ。勝手にお邪魔してるだけだから」


 こいつ、不法侵入だったのかよ。


「そうでしたか。後でお茶をお持ちしますね」

「お茶なんか出さなくていい。それで用件は何だったの?」

「はい、ルイ様にお客様です」

「客?」


 今度は誰だ。お願いだからサイラよりマシなやつ来い。


「わかった。応接室にお通しして」

「おーい、ルイ。アタシが先に来てるのにそれはないだろ」

「君は客じゃない。僕は今からちゃんと取次ぎをして訪れた礼儀正しいお客様とお話があるんだ。不法侵入者は帰れ」

「・・・まあいいや。人が増えたほうが鬼ごっこも盛り上がるし」

「まだ鬼ごっこやるつもりだったのか・・・」


 スッチーは僕とサイラを交互に見て困ったような顔をしていたが、僕が部屋を出ようとしたのを見て、来訪者を呼びにいった。


 ちなみにサイラは僕の後ろからついてきている。

 さらさら帰るつもりはないようだ。


 僕の部屋から応接室に行くまでの間ひたすらサイラが絡んできたが、それらをすべて無視して歩き続ける。

 そしてたどり着いた部屋でソファに腰かけると僕は目を閉じた。


 これは引き続き押し寄せるであろうサイラからの攻撃に応じる意思がないことを示すための行為だったのだが、どういうわけか彼女は予想に反して騒いだりすることはなく、部屋の隅っこに陣取ると壁に背を預けて大人しくなってしまった。


 これはこれで嫌な予感がするが今は放っておこう。


 しばらくそうして静かな部屋で待機していると部屋の扉がノックされた。


 開いた扉の方に視線を向け、スッチーが案内してきた人物を確認する。


「よお、ルイ」

「・・・おやおや、珍しい奴が来たね」


 相手が誰かを確認した僕は、思わず言葉を漏らす。


 どうして今日は厄介な客がこんなに来るのだろうか。


 もはや消えてなくなるのであろう僕の休日のことを思うと、自然と乾いた笑いが零れてくるのだった。



初めましての方は、初めまして。

お久しぶりの方は、お久しぶり。


しがない物書き、とろりんちょです。


艱難辛苦を経てようやく二章が完成しましたので、投稿していきたいと思います。


なんかいろいろあって、一章完結からここまで時間が空いてしまいましたが、また読者の皆様に楽しんで読んでいただけたのなら幸いです。


それではまた次の投稿で。


感想・評価などお待ちしております。

あとよかったらブックマークもよろしくお願いします。


@tororincho_mono

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