12話 修行は続く
衝撃の夜を過ごしていたことを自覚することなく寝ていた己が憎い。
ああ、今日はちゃんと意識して、寝よう。いや寝れないかもだけど。
俺がご飯を食べながらしょうもない誓いを立てている中、ルイさんが今日の計画を説明していく。
とりあえず俺たちはこれから毎日ダンジョンの奥へ奥へと潜っていくらしい。
ダンジョンは奥に行くほど魔物の強さが上がっていく。俺の修業の進行とともに敵も強くなっていく寸法というわけだ。
しかしこの調子で行って魔王討伐が間に合うかどうかはわからない。そこはルイさんの計算が正しいことを願って俺はやれるだけのことをやるだけだが。
「さてそれじゃあそろそろ出発の準備をしよう。君たちは天幕を片付けといてね」
昨日と同様聖女様との共同作業に勤しんでいく。さっきまで同じ天幕内で寝ていたというのに聖女様の方は俺のことを全く意識していないようだ。
俺がおかしい?
「勇者様、どうかなさいましたか?」
「え、いや、なんでもないですよ!ちょっと寝不足でね、あははは」
「そうですか、ご無理はなさらないでくださいね」
聖女様の笑顔が眩しい。やましいことを考えていた分、心が痛い。
いや別に変なことしようとかではないんだけどね。ちょっと意識しちゃうってだけだから。
ひとつ深呼吸して心を落ち着ける。
俺は今魔王を倒すための旅の途中なんだ。邪念に捕らわれている場合じゃない。
天幕をしまい、出発の準備が整うまで、俺はひたすら精神統一を繰り返すのだった。
―――
「グギャアアアアア」
魔物による断末魔の叫びがダンジョン内に木霊する。幾度となく上がるその声に最初こそ怯えたものだが、もう慣れてしまった自分がいる。こんな状況になってからこそ分かったことだが、私という人間は案外いい神経をしているらしい。
魔物とはいえ生物の生き死に、ましてや戦闘による殺し合いなど目の当たりにしたことがなかった私でも、目の前に広がる光景にもはや動揺はなくなってしまった。
ちらりと隣に目をやる。
そこには表情の読めない顔で静かに佇み、勇者様の戦闘を見守る存在がいた。
下手をすれば自分にも危害が及ぶ可能性がある状況で私が呑気に考え事をしているのもこの人の影響による。
ルイ様は勇者様の戦闘には一切手を出さない。どれだけ危なくなっても見ているだけだ。師匠として特に何か助言するわけでもなく、本当にただ見ているだけなのだ。
その割に私に危害が及びそうになると神経質に庇っている。戦って守るというより勇者様が駆けつけるまで時間を稼ぐというような感じで。ルイさんが前に出てくると不思議と魔物の動きが悪くなって襲ってこない気がするのは私の勘違いだろうか。
まあ戦闘に関して私は完全に素人だから詳しいことはよくわからない。だから考える必要はない。私がやるべきことはただ一つ、勇者様の治療だ。そのためには私が倒れないこと。それだけを考えておけばいい。
「うおおおおおお」
勇者様がその場にいた最後の魔物を倒す。肩で息をするその傷だらけの姿はなんとも痛ましい。
修行のためとはいえこの遠征は過酷だ。食事と睡眠以外は戦闘。戦い続ける毎日。
せめて私の力が少しでも勇者様の癒しになることを願っている。
「勇者、今日はそろそろ終わろう。ここで野営するよ」
いつものルイ様の言葉で今日の戦いが終わりを告げる。つまり私の出番だ。
「勇者様、治療いたします。こちらへどうぞ」
「あ、お願いします」
私は労を労うように笑顔で勇者様を迎え入れるのだった。




