59話 毒には毒を
僕の話を聞き終えたバスピーは呆然とこちらを見つめていた。
「あり得ない・・・、私の計画は完璧だったはずだ・・・」
「完璧ねえ・・・。完璧と言う割にはなかなか杜撰だったじゃないか。それこそトトへの奇襲なんて最たるものだ」
「何?」
「まあ僕がそうなるようにけしかけたのは事実だけどね。サイラを離反させ、君に鍵を持たせ、そして僕は身動きを封じた。君にとって理想的な状況を作ってあげた。君が動きやすくなるように、君が本性を現わせるように。そして君は僕の挑発に乗ってしまった。トトを殺そうとして、代わりに僕を殺してしまった。僕に暗躍の時間を与えてしまった。間抜けな話だ。完璧が聞いて呆れる」
「そんな・・・」
結局のところ彼は、己が主を助け出すのに都合のいい材料と、都合のいい解釈しかその視界に入れなかったのだ。
それが彼の敗因。
「・・・なぜ最初から私を止めなかった。貴様ならいつでも私を捕らえるなりなんなりできたはずだろう。こんな回りくどいことをする必要はなかったはずだ」
「僕には僕の目的があったからね。それには君が引き起こす混乱が必要だったというだけの話さ」
最後にそれだけ言って、僕は懐から縄を取り出す。
「縛」
たった一言添えて放った縄が、世界の理に従ってバスピーの体を縛り上げた。
「さて、これで終わりだね」
僕の役目はここまで。
これ以上のことをやるつもりはない。
だって僕はすでに目的を達成しているのだから。
あとは当事者たちで勝手にやってくれたらいい。
「ルイィィィィィィ!」
ゆえに誰が何と言おうと僕の仕事はこれで終わったのである。
たとえ雄叫びを上げながら僕に襲い掛かってくる使徒がいようとも、僕の知ったことではない。
「ふう・・・」
心底嫌な気持ちでそちらに目を向ければ、さっき吹き飛ばされたラゴーンが戦線に復帰して僕めがけて一直線に突っ込んできていた。
このままいったら刹那の後に僕と彼は接触することになるのだが、そうはならないことを僕は知っている。
なにせここまでお預け状態を食らってすでに我慢の限界を迎えている彼女が、黙って見ているわけがないからだ。
案の定僕の目の前で二つの影が衝突するとともに、轟音が鳴り響いた。
「そこをどけぇぇぇぇぇぇぇ!」
「どくわけねえだろぉぉぉぉ!」
「うわぁ・・・・」
やばい奴とやばい奴をぶつければ少しは相殺されないかなと期待したけれど、ウザさが倍増しただけだった。
近くで大きな声を出さないでほしい。
「ルイィィィィ、貴様ぁぁぁぁぁ!貴様だけはぁぁぁぁぁ!」
「うるさいなあ」
サイラに抑えられているので下手に身動きは取れないようだが、口までは塞げていないのが現状だ。
鬱陶しいことこの上なく、できることなら今すぐここから退散したい。
だが古い知己に会ったのならば、挨拶くらいはしておくのが礼儀だろう。
そう思って僕は仕方なく彼と言葉を交わすことにした。
「久しぶりだね、ラゴーン。元気にしてた?」
「殺してやる!貴様だけは、この手で殺してやる!あの時、貴様に敗北したあの時から、この屈辱を、この怨恨を、我は一日たりとも忘れたことはない!今こそ復讐の時だ!絶対に殺してやる!」
ダメだった。
せっかく話しかけてあげたのに、ひどい言い草である。
まあしかし相手が礼を欠くというのなら、こちらが礼を尽くす必要もないだろう。
僕はさっそく彼との会話を諦めることにした。
「悪いけど今回君の相手をするのは僕じゃない。君の相手はそこの彼女だ」
そう言ってラゴーンと相対するサイラに視線を移す。
「さあサイラ、約束の報酬だよ。存分に食らうといい」
「おうとも!」
今回僕はサイラの協力を得る代わりに、彼女に戦う相手を用意した。
これで僕はラゴーンの相手をしなくて済むし、サイラも思う存分戦えれば満足することだろう。
毒をもって毒を制す。
我ながら冴えた作戦を考えたものである。
永遠に終わらない戦いを始めた彼らに背を向けて、僕はその場を後にするのだった。
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