「恐山」
二人は学生時代からの友人同士だった。就職して経済的に余裕が出来ると、年に数度は、気軽な女二人旅と洒落込むのであった。
今回の目的地は、恐山。本州北限の地のパワースポットだ。
JR大湊線に揺られ、終点の手前、下北駅からバスに乗る。車検やメンテナンスなどという概念を感じさせないオンボロバスだ。
「どのくらいかかるんだっけ」
「四十分くらいかな」
「あ、圏外になった」
住宅がまばらになり、やがて途切れると、道路の左右はヒバの原生林だ。携帯の電波は届かない。
「こっちも」
「現世から遠ざかったって気がするね」
「あ、スマホ、ちゃんとしまっておかないと、痛むって」
四十分弱の山道、目が回るような下り坂を抜けると、朱色の太鼓橋を左手に、すぐに終点だ。
「着いた!」
思わず背伸びする。硫黄の匂いに包まれる。精密機械にとってはよくない環境だ。ちゃんとしまうに越したことはない。
「霊場アイス‥‥おいしそう」
「あとあと‥‥入山料を払って‥‥」
「イタコの口寄せコーナー‥‥ここか」
イタコは恐山に常駐しているわけではない。夏と秋の大祭の、それぞれ数日間だけ、境内に粗末なテントを張って客を迎える。
「お次の方、どうぞ」
「あ、はい‥‥どうも‥‥」
テントをくぐる。