第12話 メルの3択
マイルーム大破壊から二週間が過ぎた。
ユーザーが選んだ行動は『部活』と『アルバイト』のみ。
なのでパラメータはこのようになっている。
体力25
学力8
雑学50
ルイズの好感度 50
所持金 37500円
なんというか、アホの子だな。
そのくせ雑学があるってことは、無駄知識ばかりあるタイプだろうか。
テストの点は低いのに、戦国時代や幕末だけ異様に詳しいとか。
さて、各パラメータの値によっては、イベントが起きる事がある。
学力高くなるとミナコ、二度目のダウンでアスカというように、ヒロインと対話をしたりする。
今回は雑学がらみ。
メルのイベントが待っている。
果たしてオレは生き残ることが出来るだろうか。
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金曜の放課後。
教室や廊下は生徒でひしめきあっている。
そこそこいい時間なのに、帰宅部ですら帰ろうとしていない。
というのも、文化祭に向けた本格的な準備の為だ。
開催日は明日から二日間。
大半のクラスで看板やら、出し物のセットやら、手間のかかるアイテム作成に着手していた。
トンカントンカン、トンテンカン。
鎚を振るう音がなんとも心地よい。
作業自体は少し面倒だが、このお祭り感というのは心が踊るもんだ。
オレは作業の合間を見つけて、部室へと向かった。
こっちはこっちでライブの準備がある。
ルイズと曲の練習や打ち合わせをしておきたかった。
「リンタローさん。こんにちわ」
部室棟の階段脇で声をかけられた。
子供と聞き間違えるほどの幼い声色。
忘れもしない。
「……メルか。何の用だ」
「あなたは知識欲、探求心が強い方だと聞きました。もし興味を持たれたらで構いませんから、お一つどうですか?」
本来であれば、ここで数冊の小説が手渡される。
そしてその中から一冊を選んで借り受けるのだ。
すると、学力・雑学・メルの好感度がちょっと増える。
デメリット無しの好イベントなんだが……。
「私物で失礼かと思いますが、いかがでしょうか」
差し出されたのは小太刀。
グラディウス。
クックリ。
全部刃物じゃねぇか!
銃刀法ってご存じねぇんですか?
「ウフフフフ。早く選んでくださいよぉ。全てが研ぎたての切れ味抜群ですんで。さぁて……ど・れ・で・殺・ろ・う・か・な!」
そしてここで場面が止まる。
ユーザーに選択が迫られたからだ。
【メルに何と答えますか?】
・日本人なら小太刀だろ。
・グラディウスとか実物を初めて見た。
・玄人ならクックリ一択!
→・死ぬなら一人でくたばれ。
選択肢4がチョイス。
確かに的確な返しだと思うが、一番刺激する台詞じゃねぇか。
だが、指定されては仕方がない。
オレは意を決して叫んだ。
「死にてぇなら一人で死ねよ、幼児体型!」
「ウケケケケ、興奮しすぎて口が滑らかになりましたかぁ? ァアン?」
「やってられっか。じゃあな!」
捨て台詞を吐いてフルスピードで逃げた。
メルは2階側からやってきたので、部室に向かうことは出来ない。
となると、自分の教室にでも駆け込むのが生存ルートになりそうだ。
「オラァァアア!」
体力が25と心許ないが、何とか追い付かれずに済んでいる。
距離を一定に保てていた。
本校舎に戻り、階段を2フロア分駆け昇る。
チラリと背後を見てみるが、ヤツの姿が無い。
諦めてくれたんだろうか。
「はぁ、はぁ。助かった……」
「なんて思ってませんよね?」
「うわぁあッ!」
外に面した窓からメルがヌルリと現れた。
もしかして垂直の壁を登ってきたって言うのか。
ここ3階だぞ。
「クケケケケェーー! 逃がさねぇもう逃がさねぇぜぇえええ!」
ヌルリと動くメルがメルリと笑う。
かなり近づかれはしたが、まだ終ってない。
オレは辺りにたむろするモブ生徒をぶん投げて、メルの進路を塞いだ。
大量のマネキンを少女にけしかけた様な絵面になる。
「どうだ、モブに潰されちまえオラァ!」
「ウケッケッケ。こんなもん訳ねぇぜぇー」
「何なんだ、その足捌きは!」
ヌルリと動くメルがメルリと笑いつつスルリと避けた。
投げられたモブたちは直立不動のまま、氷の上を滑るかのように進み、壁に当たって止まった。
あと1メートル。
オレとヌルリに挟まれた余白は、残り僅か。
右手に握られたクックリ。
天を切り裂くほどの絶叫。
それとともに、白刃が迫ってきた。
「死にさらせやぁぁ! 邪龍聖王鬼神剣ーーッ!」
「コイツ、別の『手遅れ』まで持ってやがったのか!」
このままみすみす殺されるオレじゃない。
長身らしいモブの腕を、今この瞬間後ろ手に掴むことができた。
こいつをカウンター気味に投げつけてやる。
「食らえや、手遅れ女!」
「むぉお! 君子リンタロー、これは何の遊びですかなぁ!?」
「えっ! マリスケだったのかよ!」
やっちまった、モブだと思っていたその人物はマリスケだった。
コイツが殺されたらゲームはどうなるんだ。
このケースも詰みになるのか?
もちろん罪だけどさってそういうのはイラン!
「おおっと、危ない」
「へうッ?」
マリスケはよろけつつも、メルの一撃を防いだ。
彼女の利き手を掴むことで。
あまりにも自然な動きすぎて、達人か何かに見えてしまった。
唖然としたのはオレだけじゃない。
狂気に染まりきっていたメルでさえ勢いを失って、困惑するばかりだった。
そんな中、マリスケだけがノンキな声を漏らす。
「これは珍しい。湾刀でござるか。それにしてもなぜ土偶がグルカナイフを……」
「あの、ええと」
「おや、土偶が喋りましたな。すなわち、目の前の置物は人間の女性でござるか。失敬」
「そのコメント、本当に失礼だと思うぞ」
いつか言ってた『リアル女性が全て土偶に見える』という言葉は冗談じゃなかったらしい。
マリスケの顔は真面目そのものだったから。
「それにしても、良い砥ぎでござる。曇りも脂も全く無い。よほどの愛情が注がれた証でありんす」
「あの、その、ありがとうございます」
「これは土偶さんの物ですかな?」
「そうです。そして私はメルと言います」
「ではお嬢さん、ひとつばかり忠告を。刃物は無闇に振り回すものではないでござるよ」
「マリスケ。正論かつ、助けて貰っといて言いたかねぇが、名乗られた名前くらい覚えてやれよ」
「リアル女子は視覚で判別できぬ故、覚えるだけ無駄でござる」
マリスケはメルから譲り受けるようにして、手の物を奪った。
抵抗する様子は全く見られない。
それから、マリウスが逆の手を伸ばした。
その指先がメルの髪に触れ、毛をひと束分掴んだ。
メルも最初はビクリと体を大きく跳ねさせたものの、すぐに硬直してされるがままになった。
「良いでござるか。刃物とは人を幸にも不幸にもするもの。キチンと扱えば、極めて有用なものでござるよ」
「あっ……」
毛先にあった枝毛をプツリと切り取り、メルにクックリが戻された。
毒気を抜かれたメルは、そのナイフを両腕で抱えて駆け去っていった。
まるで文学少女が、分厚い本を胸に抱くかのように。
怪我するからやめろよ、それ。
「ふぅ。驚いたでござるなぁ」
「ほんとだよ。刃物持って襲われるなんてよ。つうか、助けてくれてありがとうな」
「いやいや衝撃でござった。『剣闘女子ぶらり旅』で見かけた剣が実際にあったとは……」
「ポイントそこかよ。そろそろ現実に戻ってこいよ」
まぁそのリアルも目を背けたくなるがな。
虫食いとか通り魔とか、ほんと酷いもんだ。
さて、その現実だが、パラメータが一部変更された。
【メルの好感度35(+15)】
ガッツリ上がりやがった。
この結果は理不尽だろ。
オレじゃなくてマリスケに興味を持ってくれと思う。




