逃げたい、辞めたい、帰りたい 6
横を見ると、そこに立っていたのは、長髪でスーツ姿の見覚えのある男。
この男、気配が無いから立っていることに気づけない。
「なんですか……?」
「ハハッ助けてやったのに睨むなよ。」
ニコニコとそう話す男。掴み所がなくて調子が狂う。
「助けてやった?僕の頭殴ったのは貴方……。」
(あれ?あの時確か、誰かに背後から思い切り頭を殴られた。僕が男と話している最中に。
ん、……よく考えて見ると何かおかしい。
目の前にいた男が背後から殴れるはずがない……あの時、背後にいたのは……し、少女?)
「気がついたかい?そう、あの少女。あの子はとっても危険だ。安易に近づいてはいけない。説明が遅くなって悪いことをしたね。頭は大丈夫かい?」
「……大丈夫です。でも貴方、実験体にするために僕を連れてきたんでしょう。実験体なんて嫌なんでもう帰ってもいいですか?」
「なんでその事を……!?
駄目だよ。いや、駄目駄目、駄目駄目駄目駄目!君さ自分が何したか覚えてる?私の仕事を邪魔したくせに、助けて貰ってるんだよ。これくらい協力しないと人間失格だよ。
クズだよ。いや、クズ以下だ。そーゆー訳で協力してくれるね。」
「嫌です。」
即答した。クズ以下でもゴミ以下でもなんでも構わない。自分が悪いという自覚もない。僕はただ巻き込まれただけ。ゆったらこっちが被害者だ。なんでその上、悪い者扱いされてよく分からない変な奴に協力しないといけないのだ。
「……アハハハッ!久しぶりに面白い人に会えたと思ったのに、手放すわけには行かないだろ。君の意思は関係ない。協力はしてもらう。」
……ここまで話が通じないのは初めてだ。あれだけ嫌だと言ったのに。
僕の意思を無視するなんてあり得ない。
僕は主人公だぞ。ふざけるな。