逃げたい、辞めたい、帰りたい 4
少女はまるでだるま落としのように膝を崩し倒れ込んだ。
それと同じスピードで僕も下へと伏せる。
間一髪。
弾は頭がスレスレのところを通り過ぎ、大きな木に命中した。
当たったのが木であったのが不幸中の幸いとでも言えば良いのだろうか。怪我人はゼロ。
見ると少女は僕が足を蹴ったことに怒りをあらわにしている。
「なんて事するんですか!!」
赤く腫れた足をさすり、プルプルと震え、
涙目になりながら、キッと睨む。
あーあー不幸中の不幸だなこりゃ。
早く家に帰りたい。
なんて思っていると、
パチパチパチ……
背後から手を叩く音が聞こえてきた。
振り向くとそこには長髪でスーツ姿の男が立っている。
「いや、素晴らしい。ここから200メートルも先の銃が見えるなんて。君の視力はどうなっているんだい?そして、あの判断力。弾が発射されてから僅か二秒で最善策を見つけ実行するとは、ほとほと恐れ入ったよ。何より、助けるためとはいえ、こんな小さな少女に躊躇なく思い切り、蹴りを入れられるなんて、素晴らしいね。」
男はなんとも楽しそうにそう話した。
「それは褒めているのか、けなしているのか、どっちなんでしょう…。」
「アハハハ、もちろん褒めているに決まっているじゃないか。なかなかいないよ、君みたいなやつは。」
「それはこっちの台詞ですよ。一体200メートルも先からどうやったらあの一瞬でここまで移動出来るんですか? 超能力者ですか貴方。」
「…まさか銃だけじゃなく僕の顔までも見えていたなんて、流石だね。ハハッ。」
人を殺そうとしておいてお気楽に話す男。
無表情でそれを見つめる僕。
「ハハッじゃなくて…。貴方の狙いはこの少女でしょう。何故この子を狙うんです?」
「うん、そうだね。その質問に答える前に一つ忠告しといてあげよう。その少女は危険……。」
男の話を聞き終わる前に、思い切り頭を殴られ、僕の意識はそこで無くなった。