逃げたい、辞めたい、帰りたい 3
外に出ると、まだ11月初めだと言うのに雪が舞っていた。
病院の前で手に息を吹きかけ凍えている少女を発見した僕は、少女に傘を差し出し、雪に濡れながら家へと帰る……
つもりだった。のだが。
思い通りにはならないのが人生。
この後、僕は散々な目に合うのだ。
良いことをしたって報われるとは限らない。
これが主人公の基本とも言える。
少女に傘を差し出してから2、3歩進んだ所で滑って転んだ。
なんとも恥ずかしい。ましてやあれだけカッコつけて傘を差し出した後なだけあってより一層恥ずかしい。
これには少女も驚き、慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
なんて…こんな質問…大丈夫です。以外に答える言葉ないじゃないか。と思いつつ、何事もなかったかのように立ち上がったのち、サッと雪を払い、思った通り、
「大丈夫です。」とだけ告げ再び前へと歩き出した。
「待って、傘を返します。」
少女は僕の腕を引っ張りながら、傘を返した。
自分よりも、目の前でこけた明らかに貧弱そうな僕の方が心配になったのだろう。
僕の面目丸潰れである。
十は年下であろう少女に心配されてしまうなんて…。
このままじゃまずいな…。
これじゃまるでこの少女が主人公みたいじゃないか。僕はこの世界で常に主人公でいないといけないのだ。
はぁ、めんどくさいけど仕方がない。
「ねえ、君さ何か悩みがあるだろ。僕に教えてくれないかな?」
「はい??」
少女は何を言っているのかまるでわからないと言うような、表情で、
「悩みなんてないですけど…。」と答えた。
「いや、僕だって本当はめんどくさいんだ。
早く家に帰りたい。でも君、なんか悩みがあるだろ。分かるんだよ。僕には。早く言ってもらえないかな、力になるから、っていうかならないといけないから。」
目の前でペラペラとよく分からないことを話している僕のことを少女は不審者だと確信したようだ。
防犯ブザーを鳴らされた。
あーあ、もう最悪だ。
主人公から不審者へと早変わり。
不審者が主人公なんてあってはならないだろう。
ある意味気になるけど…。
さて、不審者から犯罪者になる前においとましよう、なんて思ったその瞬間、およそ200メートル後方に銃を構えた男が、少女に向けて発射した。その間、僅か二秒。
僕は即座に少女の足を思い切り蹴った。