逃げたい、辞めたい、帰りたい 2
ここで僕はついに口を開いた。
先生は1度ハッとしたような顔をしたのち、ニコリと笑う。
「それじゃ君の意見を聞かせてもらおうか。」
僕は静かにうなづいた。
「まず、確率はあくまで確率です。先生が仰っていたことは全て確率とは呼びません。
単なる事故です。起こり得ることはほぼ無に近い。
そんなもの元々確率なんて括りに入っていないのです。
先生の話は屁理屈。言い換えるとすると逃げです。
問題の本質から逃げているだけ。
Aの道とBの道があってどちらかに進もうと考えているなら必ずどちらかに進むのです。これは100%、絶対です。
もし、事故に遭ってどっちの道も途絶えたらなんて、それはAの道、Bの道云々じゃなく、それよりもっと前の、事故に遭うか遭わないかの確率へと戻るはずです。
つまり、選択肢は必ず二つ。それ以外の選択はあり得ません。
もっと突き詰めて言うのであれば、
生きるか死ぬか、この世界の主人公になるのかならないのか。
僕が選ぶのはこの選択二つだけです。
後は全て、流れに任せていればいい。
どうですか?先生は?
先生も流れに任せて生きてきた人でしょう。」
「ほお、なぜ?」
「なぜって、目を見たら分かります。」
「ハハハハハッ、君は本当に面白い。
君と話すのはこれだから飽きないんだよ。
自分の尺度で他人の生き方さえも決めてしまうんだから。間違いなく君はこの世界で主人公だ。楽しい時間を過ごせたよ。
ありがとう。またおいで。」
そう言って立ち上がり扉を開いた。
まだ何一つ話は終わっていないが、
帰れと言わんばかりに僕の背中を押してくる。
「また来ます。」
そう言って僕は病室を後にした。