5年間の片思い
べた恋企画第2回テーマ【告白】参加作品
薄暗い階段を上る。
同じような扉がいくつも並び。私は一番奥のドアのカギを開けて部屋に入る。
そして、いつもの様に暗い部屋の電気を付けて私一人のための夕食を作る毎日、そして一人で寝て終わる一日の……はずだった。
携帯が鳴る。
私は電話に出る。
相手は高校時代の友達。入学から数えて5年くらいの友達
そして、私が好きな人。そして、私の事を好きでいてくれた人。
「今、時間空いてる? 少し、相談したい事があるんだけど」
彼はそう言った。私は「空いてると」答えた。
「実は好きな人にプロポーズしようと思うんだけど、何て言えば良いか思いつかないから一緒に考えてくれ、」
彼は少し照れくさそうに言う。
彼の一言に私の心は嬉しい反面、悲しかった。好きな人が幸せになるのは良い事だけど、そのかわり、永遠に私の隣にはいる可能性がなくなるからだ。
私は自分の気持ちを悟られないようにいつもの調子でこう答えた。
「片思いの女の子と上手くいっていたんだね。良かったしょ」
彼は電話越しに苦笑いするような声で、「まあ、ぼちぼちとな」と答えた。
正直、何が『ぼちぼちとな』だ。
5年も掛けて片思いの彼女と結婚近くまで上手く行っているんだから、ぼちぼちはないだろうと正直に思った。
彼は高校時代に、一度、私に告白してくれた。
けど、うれしかった。好きな人と同じ想いだったと思うと
でも、私は素直じゃなかった。
だから、好きなのに振ってしまった。
その後、何ヶ月間か、お互いに避けていたけど、今では友達同士の仲までに戻った。
そして、仲を修復したと同時に彼に片思いの女の子が出来たのもその時期だった。
正直、ショックだった。
私に対する感情はその程度だったのか、
そして、もう、彼に好きな人が出来たから私と付き合うことは無理だと思った。
今でも、たまに思っている。もし、私が素直な女の子だったら彼と幸せに暮らせたんだと思う事が……
私がそう考えっていると電話越しから私を呼ぶ声が聞こえた。私は慌てて出る。そして、彼は質問をしてきた。
「とりあえず、女のお前としてはなんて言われたい?」
彼はいきなり変な事を言う。
もし、彼が私に告白してきたら、なんて言われたいかと
私は2,3分ほど考えて出た答えはいたって平凡な答え。
「お前が好きだ。結婚してくれ」
あはは、平凡すぎるよね。でも、私が彼に一番言われたい言葉だもん。もう、一緒になる機会がないんだからそれくらいの夢を見たいもん。
私はそう答えとき、その傍らで必死にメモを取っている音が聞こえた。
それだけ、その女の子とを想っているんだと思い、私は唇を少し噛む。
そして、彼はこう聞いてきた。
「服装はやっぱりスーツかな?」
私は想像してみた。彼が告白してくるなら、そして、こう答えた。
「やっぱりスーツが一番。そして、花でも贈って欲しいかな」
私がそう答えると彼は「分かった」と言って電話を切った。
正直、私は馬鹿だと思った。
もし、彼と一緒にいたいなら、適当に振られるようなアドバスをすれば良い話なのに、
なのに、ちゃんとしたアドバイスをしてしまった。彼のことが好きだから、彼に幸せになって欲しい。
私が高校時代に彼を振った時、彼は悲しい顔をした。
苦笑いしながら悲しい顔をしていた。私は彼にもうあんな顔をさせたくなかった。
でも、彼との恋はもうおしまい。
私はいつものようには寝れなかった。
そして、久しぶりに泣いた。
高校時代に振ってしまった時のように……
「おーい、起きろ」
誰かが私に声を掛けてくる。
「起きないと起きれなくするぞ」
正直、うるさいので無視をする私。
「よし、起きないな。油性マジックを用意」
「何をする気だ」
「うわ、起きた」
「あんたがうるさいから起きたのよ」
「酷いな彼氏に向かって『あんた』扱いとは」
「彼氏?」
「そうだぞ。彼氏だぞ。お前、寝ぼけてるのか?」
彼が何を言っているか私には理解できなかった。
でも、色々なところに違和感が合った。
「ところで、あんた、なんで、高校の時の制服着ているの?」
「なに、おかしな事言っているんだ。ここは学校だぞ。やっぱり寝ぼけてるな」
彼は怪訝な顔して言う。
私は理解が出来ず、周りを見た。そこには、複数の机、教壇、さらにいたずら書きされてる黒板、懐かしい教室の風景があった。
そして、彼の顔を見ると少し若かった。今でも十分若いが、
私は頭の中で整理した。そして、これは夢の世界だと結論に至る。
でも、悪くなかった。彼と一緒にいる夢だから。
私はそう思っていると彼は言ってくる。
「そろそろ、一緒に帰るか」
彼はそう言ってあたかも、手を繋ぐのが当然のように手を差し出した。
私は一瞬、なぜ、手を差し出したか疑問に思ったが、先ほど、彼が自分の事を「彼氏だぞ」誇らしげと言っていた。
この夢の世界では私たちは恋人同士ということなのかもしれない。
嬉しいけど、念の為聞いとこ。
「どうして手を差し出すの?」
「そりゃ、俺達はカップルだからだ。嫌か?」
慌てて手を掴んだ。嫌だと思われたくなかったから。
彼の手はごつごつしていて汗ばんてたけど、彼の心のように暖かい。
現実でも素直にそうすれば彼の暖かさを感じられたのに……
下校中、私達は手を繋いで帰っている。
私は左手、彼は右手を握っていたという感じで、車の通りが多い国道を歩きながら駅に向かった。
駅に向かうと言う事は、当然、他の生徒達にも見られる。
私は夢の世界とは言え、恥ずかしくなり、手を放そうとする。しかし、彼はがっちりと痛くないように私の手を握っている。
さらに彼は握っている手を回し始めた。遠くから見たら、手がブランコしているように見えるだろ。
「恥ずかしいから止めて」
私は手を繋いでるのさえ、恥ずかしいのにそんな事をされたら余計に目立つ。だから止めて欲しかった。
でも、彼は止めなかった。そして、こう言った。
「お前の恥ずかしがる顔がかわいいか……」
恥ずかしい事を言う彼を、私は体を半回転にひねり、遠心力を利用しながら空いている右手で彼の腹にボディブローを決めた。
彼は正座するような形で膝に地面に付いたが、手だけは放そうとせず、繋いだままだった。かなり手応えがあったはずなのに手を繋いだままとは執念深い。
そして、彼は何事もなかったようにすぐに立ち上がった。
「だってお前の可愛い顔が見たいから、つい、やりたくなるんだもん」
彼は笑いながら言った。恥ずかしいという感情ないのか?
「恥ずかしいから手をブランコのように回すのは止めて」
「なら、手を繋いだままで良いか?」
私はきつめに言ったが、彼はものともせず、切り返した。
手を繋ぐ事、自体が恥ずかしいのにそんな注文は耐えられない。でも、手を回される方が人に目立って、もっと恥ずかしい。
自分の顔が暑くなりながらも、手を回されるより、ましと考え、手を繋ぐ事にうなずいた。
彼は私のうなずいたのを見ていたずらっ子のような笑顔を見せた。
私は今日ほど人に恥ずかしい事をさせられたのは初めてだ。
そして、上機嫌だった彼だが、彼はすぐに手を放した。
私はあんなに恥ずかしかったのに、離れた瞬間。少し、寂しさを感じた。だが、彼が中年の男に声を掛けたので、すぐに手を放した理由が分かった。
「どうしましたか?」
「実はバスターミナルに行きたいのですが?」
「それでしたら……」
優しい彼は道を迷っている人に案内をしていた。
私はいつもの事だと思い、彼の行動を見ながら黙って待っていた。
そして、彼は案内をし終えるとすぐに戻って来て謝りながら私の手を握った。
「いつもながら優しいのね」
自分を置いていった彼に少し皮肉気味で言った。しかし、彼は皮肉を言われたのに気づいていないのか、
「困っている人がいたらほっとけなくてね。だから損する役をするんだよなぁ」
彼は笑いながら言った。
彼は本当に……優しい。
いつの日か、滝のような大雨が降っていた時、私は傘を忘れてしまい、玄関口で立ち止まっていた。
一歩出れば、たちまちにびしょぬれになる。でも、傘を持っていない。
私はどうやって帰れば良いか、悩んでいた時、後ろから声を掛けられた。
振り向くと彼が後ろに立っていた。
私は傘を忘れてどうしようかと考えていると答えた。
そしたら、彼は一本しかない自分の傘を差し出した。
私は断った。いくら、困っているとはいえ、いくら何でも一本しかないのに、そんな、奪い取るような事は出来ない。
しかし彼は「大丈夫と言った」
でも、さすがにこの大雨だと確実に風邪を引くからいらないとよと言うと、
「俺は濡れても平気なんだよ。ほら、水にしたたる良い男だから」
彼は笑いながら言って、土砂降りの雨の中を駆けて行った。
次の日、彼は風邪で休んだけど、それがきっかけで私は彼の事を気になり始め、そして、彼の普段からの優しい行動を見ていて……好きになっていた。
私達は電車を降りた。
そして、改札口の切符を入れ、手を繋いだまま外へ出た。
だが、彼は外に出た瞬間、また手を放した。
私はいつものおっせかい……親切をすると思った。
でも、違った。彼は他の女の人と手を繋いだ。そして、仲良く、どこかに歩き出した。
「どこに行くの」 私はそう言おうとした。でも、声が出ない。体全体が動かない。
でも、周りの人は動いている。
私だけの砂時計が動いていないように感じる。
このままだと彼の姿が見えなくなる。だから、呼び止めないといけない。動かないといけない。でも、
いくら、彼に呼び止めようとしても声が出ない。
いくら、彼を追いかけようと足を動かそうとしても動かない。
そうしている間にも彼の姿は小さくなっていく。女の人と手を繋ぎながら、
そして、無駄にあせる。彼がいなくなるという恐怖感で、でも、体は動かない。
そして、私の事を好きだと言ってくれた。彼の姿が見えなくなった。
布団から飛び起きる。
体が熱い。酷い寝汗。そして、倦怠感が襲う。
寝ていたはずなのに具合が悪くなった。
そして、思い出した。彼が結婚する事を
彼は結婚して5年間想った女と幸せに暮らす。
さっきの夢は、きっと、彼と一緒になる夢をあきらめろということ前触れなのかもしれない。
もう、想い続けても私の事は見てくれない。
だから、早く忘れないいけない。自分を苦しめるだけだから、
私は彼の事を忘れようともう一度、布団の中に入った。
彼からの電話が来て2日経った。私はいつもの様に薄暗い階段を上る。
同じような扉がいくつも並び。いつもの様に一番奥のドアをカギを開けて部屋に入る。
そして、部屋の電気を付けて一人分の夕食を作ろうとした。
でも、手が動こうとしない。いや、体が動きたがらない。
職場でも彼のことを考えてばかりで、仕事に手が付かなかった。おかげで上司に怒られてばかり。
彼の事を考えると仕事に集中できない。そして、何もしたくない。
いくら、忘れようとも彼の事が頭にこびり付いて忘れられない。
早く忘れないといけない。でも、忘れられず、彼が他の女と一緒に暮らして楽しく暮らしていると思うと心が辛くなって気分も暗くなる。
もう、彼とは一緒になれないのは頭では分かっているのに心は分かってくれない。
もう、彼は片思いの女に告白している。そして、顔も名前も知らない女は彼の隣にいる。
私も素直に答えていれば、彼の隣にいれたはずなのに、言えないせいで彼は隣にはいない。
少しずつ素直じゃない。昔の自分に嫌悪していた。その時、玄関からチャイムが鳴った。
私は無視した。玄関に出る気分になれなかった。
でも、チャイムが鳴りつづける。隣の住人が迷惑になりそうなくらい。
さすがの私も出るわけにいかず、来客の対応をする事にした。
そして、迷惑な来客者はどんな顔をしているかをドアのレンズ越しから見た。
だが、その来客の顔を見て驚いた。
来客者は彼だった。
彼はいきなりやってきた。
彼が来たのは驚いたが、でも、一番驚いたのは、彼の格好と持ち物である。
彼はスーツを着込み、左手には花束を持って私の所にやってきた。
一瞬、戸惑いはしたが、彼はきっとお礼に言いに来たのだろう。
毎年、律儀に年賀状を書く男だから、
「これからプロポーズしに行くの?」
私は分かり切っている答えを出す。心の中で違うという解答を求めてたのかもしれない。
しかし、彼は笑顔で言った。
「そうだよ.」
私の希望ははかなく散った。そして、この話と彼の顔を打ち切りたく、一言、応援の言葉を乗せた。
「がんばってね」
そして、この言葉は私の恋を終わらせるための言葉だった。
彼は笑顔で「がんばるよ」と、言った。
私はそれを聞き終えると、扉を閉めようとした。
でも、ドアは閉まらず、何か強い力で逆にドアが開いてしまった。
そして、彼がいきなり真剣な顔になった。そして、言ってきた。
「お前が好きだ。結婚してくれ」
それは2日前に私が考えたプロポーズの言葉。
そして、彼はそれを言い終えた瞬間に私に花束を渡した。
私は何が起きたか把握が出来なかった。
そして、彼は笑顔でこう言った。
「これでOKもらえるかな?」
彼の笑顔で状況が分かった。そして、うれしかった。好きな彼が片思いの女の人を捨てて私を取ってくれたことを、
でも、素直に答えるのは恥ずかしい。だから、いつものような事を言うとした。でも、口が上手く回らない。
私が、どもっている時に彼は冷たい口調……何かを切り捨てるような口調で言った。
「もし、断ったら二度と現れない。電話も掛けないと」
彼に会えない。彼に会えなくなるのは嫌だ。そして、高校時代と2日前みたいに泣きたくない。
そして、これが彼との一緒になる最後のチャンスということも。
でも、私はうまく口が回らない。でも、言わないといけない。言わないと私の気持ちが彼に伝わらない。
だから、今度こそ、自分の気持ちを言う。恥ずかしいという気持ちを殺して素直の気持ちを言う。夢の中のように彼の暖かい手を感じたいから、
「好きです」
うわずった声で何とか言えた。そして、彼は笑顔で言った。
「やっと5年間の片思いが叶った」
彼はそう言って私に誓いの口付けをした。
初めての恋愛小説です。お楽しみいただけたでしょうか?
すれ違う思いが最後は一緒になるとテーマで書きました。
そして、これはべたな恋になっているか心配です。