6話「誇りと使命」
第1波終了直前 西門
「観測塔、フォードだ。ローレンスが現れる。こちらで対処する」 騎士団長は火に囲まれていようがお構いなしとでも言うように状況報告をする。
「しかし、彼の能力は強力です!援軍を待ったほうが…」
「リリィがまもなくここに到着する。彼女が居れば問題ないだろう」
「わかりました!では準備をします!御武運を!」 彼は再び剣を構えた。
―――――――
「地に眠る深き怨念よ、今こそ復讐の時 黒く世界を塗りつぶせ。【世紀末】」
彼の下から多くの魔族が現れたと同時に、砲弾が雨のように降りそそぐ荒野へと周りの風景が変わった。
「【青嵐】第三の剣 剛壁」 彼が剣を上に掲げ一振りすると水流の壁が砲弾を防いだ。
「あなたの能力は小回りも利けば豪快な技も打てる。なんという万能性」ローレンスは続けて言った。
「ですがさすがに守りながら攻撃はできないでしょう」そう言うと彼は西門の方角へ飛び去って行った。
「第六の剣 穿空!」彼を覆っていた水が柱のように空へ伸び空間に穴を開け外へ飛び出した。
「俺は騎士団長だ、守るだけが使命ではない」月明かりを浴びながら彼はローレンスに言った。
「なかなかやりますねぇ。 しかし私にはこれがあります」彼はそう言うと服から緑色の壺を取り出した。
「風神の壺か、北門まで飛んでいくつもりだな」フォードは空を見て言った。
「しかし、もう無理なようだぞ」 「なんですか?私をまだ止める方法があると?」
「シャイン・エクス」 女の声のする方向から光の矢が大量に発射された。
それに気づいたローレンスは「これは分が悪い…仕方ないですねぇ 引かせてもらいましょう」と言って消えた。
「リリィ、遅いぞ」「フォードが置いてったんでしょうが!」リリィと呼ばれた三角帽子を被った赤髪で長髪の女が言った。
「それで、アイツ逃げたけどいいの?」「あぁ、今は逃がそう。風神の壺で逃げられたら骨折り損になる」
リリィが木で出来た杖を振ると、箒が出てきた。
「急ぐわ。第2波は大したものは来ない。ここに来る兵士で対処可能よ」「乗りなさいよ」
「いや、俺は事後処理がある。先に行け」 フォードがそう言うと彼女は「そう」と言って箒に乗って消えて行った。
―――――――
北門城壁
「魔法剣…か。面白いな」 「だが俺は自身で魔法は使わないぞ」 不敵な笑みを浮かべながらジャックは言った。
「そうか、でももう充分だよ」俺は黒く光る剣を構える。 頼むぞ、俺の剣!
剣を振り、敵が生み出すゾンビたちを蹴散らしながらジャックへ向かっていくがあと少し届かない。
数は減らないのに俺のスタミナだけが削られる。 そのとき、リリアの操る風の音が聞こえた。
後ろからリリアの声がする。「ありがとう、マコト!詠唱が完成した!」
彼女は巨大な風の塊をジャックに向かって発射した。俺はそれを剣に纏い相手の軍団に打ち込む。
ものすごい風が辺りを包み魔族たちを消し去った。 「次はお前だ」俺は敵に剣を向けて言った。
彼は余裕の表情を崩さなかったが
「もう少し遊びたいところだが…残念だ、そろそろ貴様らの援軍が来る」
「また今度にお預けだ。また会おう、魔法剣」 と言って空間に開いた門を通って消えた。
「リリア…これで終わりか?」
「まぁ、今日のところはね」「私は先に戻るわね。それと… ありがとう」 顔を赤くした彼女の姿はもうそこには無かった。
どうやら俺の出番は終わったようだ。 俺は城壁の上で寝転がった。
月が綺麗だ。こんな世界に終わりが訪れようとしているなんて考えられないな…
まだ俺の剣にはわずかに風が残っていた