活動報告より(2015・10・9)
『吾輩とペス』
吾輩の名前はサンディニックシノロ、犬である。
少しばかり舌を噛みそうな名前であるが、いくら大仰だとしても呼ぶ相手は限定されるので問題はなかろう。
何しろ吾輩の居を構える此処……ノヴァンアド山には知的生命体がほとんどいないので。
そう、吾輩の相棒にして養い子……ペス以外には。
『パパー、パパー? どこにいる、パパ』
「わんわん!(む、ペスよ! 吾輩は此処である!)」
『ああ、パパ! こんなところに居たんだね』
「わんわん!(うむ、雄大なる大自然が我を荒野に呼んでおったのだ)」
『そっか、なれば仕方ない……ってことだよね』
「わんわん!(うむ。仕方あるまい)」
『晩御飯を仕留めたんだよ、パパ』
「わんわん!(む、了解した。では共にお山に帰ろうではないか)」
『うん!』
――以上、全て人間には理解できない領域において成された会話である。
吾輩は夕餉の支度が整った由を聞くと我が養い子の頭に素早く駆けあがり、ペスの額にて身を伏せた。
これから襲いくる風圧に備え、体勢を整える必要がある故な。うむ。
このくらいでは我が養い子の身体に傷一つ付かぬと知っているので、遠慮なく我が子の鱗に爪を立てた。
『パパ、準備は良い?』
「わんわん!(うむ。問題ないぞ、ペスよ)」
『転がり落ちちゃったら僕の心臓も大打撃を受けるんだからね? 前は驚き過ぎて口から心臓飛び出るかと思っちゃった。だから本当、しっかり掴まっててね』
「わんわん!(くどいぞ、ペス。吾輩は学習する犬なのだ。二度と同じ轍を踏みはしない)」
『そう、それじゃあ――飛ぶよ!』
「わんわん!(うむ。さあ飛ぶが良い、ペス!)」
そうして、我が養い子……ペスは大空へと飛び立った。
大きく威容を誇る、蝙蝠の如き翼をはばたかせて。
……うむ! 前方から襲いかかってくる風圧に落ちぬよう気をつけねば。
ペスも言及していた通り、以前にペスの額から転がり落ちた際には、流石に死ぬかと思った故な。
吾輩がしっかりとペスにしがみ付いていることを確認してか、ペスは一気に高空へと駆け上がる。
徐々に増す空気抵抗。
ペスは吾輩を気遣いながらも、我らが居を構える山を目指す。
ペスは、吾輩の目では全身を視界に収めきれぬ程の巨体を持つ。
ペスは、蜥蜴の如き肉体を持ちながら蜥蜴とは掛離れた異形を有する。
――我が養い子ペスは、人間どもに『ドラゴン』と呼ばれていた。