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小林晴幸のネタ放流場  作者: 小林晴幸
ネタの放流場
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黒歌鳥エレクトリカルカーニバル

 ふと浮かんだネタですが、タイトルの通り小林の作品『没落メルトダウン』のシリーズでおなじみ、某黒幕系吟遊詩人が存在感を放っております。

 本文の一番下に、今回は黒歌鳥のイラストを仕込みました。

 そういうの苦手、イメージ崩れる! という方は自力で回避をお願いいたします。

 昔むかし、あるところに『緑の国』と呼ばれる小国がありました。

 森の深い場所にある小さな国には、魔法と呼ばれる奇跡を操る神秘の一族が住んでいたそうです。

 彼らは大変見目麗しく、普通の人間とは異なる外見をしていました。

 ――だからでしょうか。

 森の奥深くで穏やかに、他のどこの国とも争わずに暮らしていた彼らだというのに、他の国々に住まう人間たちは緑の国の民を恐れて排除した方が良いんじゃないかと疑心に囚われ、または欲深な目でどう利用してやろうかと常々考えていたのです。

 そうして緑の国の民は、絶対数が人間に比べて圧倒的に少なかったこともあり、結託した人間の国々に滅ぼされてしまいました。

 最後の王、慈悲深く賢きロンバトル王は蹂躙されて滅びゆく国を、虐殺され、または人間に捕まっていく自分の民達を血の涙を流しながら見ているしかありません。

 真っ先に人間の兵たちによって襲われた城の中、王は既に死にかけていたのです。

 身動きもままならぬ体には、もう民を救う為に身を張る力はひとかけらも残されていませんでした。

 だけどただ、滅びを見ながら死ぬことも出来ない。

 王は気力だけで玉座の間を這いずり、民達の救済を願って最後に大きな魔法を使いました。

 それは、未だかつて誰も見たことのない大魔法。

 最期の時間に許された、魂までも注ぎ込んだからこそ発動した真の奇跡でした。

 自分にはもう民を救うことはできない。だから――



 王は、自分の代わりに民を救う者の存在を願って命を落としました。


 その命を受け取って、緑の王国があるのとは別の世界から現れたのです。


 緑の国の民草を救うという使命を帯びた、彼らの救済者――救世主の来臨。


 今は昔の、古いふるい時代のこと。

 緑の王様の願いを受けて現れたのは、黒い髪の小柄な少年だったと言います。

 少年は全てをかけて王様の最期の願いを果たそうと力を尽くしました。

 自分を呼び出した者の願いを叶える、それが彼と世界との契約だったのです。

 少年はやがて青年となり、誰からも立派な若獅子と例えられる英雄に成長しました。

 殺されかけた緑の民を、人間に囚われた者達を救う解放者でもありました。

 魔法の奇跡を超えた、誰も見たことのない力を操りさえして。

 やがて緑の国の生き残りを集め終えると、かつて緑の国があった場所に新たな国を作りました。

 彼の圧倒的な強さは、数の利さえも撥ね退けます。

 人間たちには手出しができませんでした。

 滅びた王国は新しい王国になり、王の願いを受けた青年は王の忘れ形見たるフィアーネ王女と結婚して。

 そうして、かつて少年だった青年はいいました。

 緑の国が滅ぼされたのが、異端だったことを理由にするのであれば。

 ならば我らは異端ではなくなれば良いのだと。

 自分達の独自性を守ることよりも、一度滅ぼされた民達は子孫の安寧を選びました。

 それから数百年、何世代にも時間をかけて。

 ゆっくりと少しずつ、緑の国の子孫たちは『人間たち』に同化していったのです。

 血を混ぜて、手探りながらも慎重に交流を結んで。

 やがて、誰もが『緑の国』なんて言葉を忘れた頃。

 人間たちに滅ぼされてしまった、悲しい小さな国のことを忘れ果てた頃。

 その頃にはもう、どこにも奇跡の魔法を操る神秘の民なんていませんでした。

 見目麗しい異形の民など、どこにも存在しませんでした。

 ただただ後には、ほんのちょっと、どことなく変わった、それでも間違いなく『人間』の人々が平和で穏やかな暮らしを営むばかりだったのです。


 彼らの忘れた先祖、古き民の名は『エルフェリア』。

 最後の王の願いの果てに生まれた新しい国の名前は『ルフェリ』。

 そして異界から現れた黒髪の英雄は、その名を『アーサー』といったそうです。


 ――『ルフェリ国建国童話—炎灰の章—』より




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 男が一人、月の見えない闇の中を走っていた。

 一体いつから森に迷い込んだのか……男自身にもわからない内に、足は深淵へと。

 頭が朦朧とするのは、血を流し過ぎたせいか?

 それとも先程返り討ちにした刺客の一人が投じた石が、頭に直撃したせいだろうか?

 原因はどちらとも知れなかったし、どちらなのかと気にする余裕も男にはない。

 今はただ。

 ただただ、生き延びること。

 逃げ落ちて、この惨劇の引鉄を引いた仇敵に全ての代償を払わせる。

 そう心に強く念じて、意識を保つことの方が重要であった。


「あの、裏切り者どもめ……今まで受けた恩への報いが、これか。忘恩の輩めが」

 

 悪態をつく声は、息も絶え絶え。

 時間と共に次第に失われていく活力が、舌の回りも鈍らせる。

 このまま、こんな森の奥で。

 我が王の敵も討てぬままに朽ち果てるしかないのか――?

 気をしっかり強く。

 だが保とう、保とうと思えば思うほどに気弱な部分がそっと胸中から囁きかけてくる。

 その声は、自分の意識の深いところから発せられる声は。

 まるで毒の滴る棘のようで。

 男の精神は、自覚する以上の容赦なさでギリギリと削られていく。


 そんな絶望の淵にいた男が、森奥の朽ち果てた廃城に迷い込んだのは運命だったのか。

 

 その答えは誰も知らない。

 しかしまるで、導かれるように。

 自分を追跡しているはずの追手から僅かな時間だろうと身を隠し、身体を休めようと……休めなければ、どうにもこれ以上保ちそうにないと。

 得られるかもわからない休息を求めて、男の足は城の奥へ、奥へと。

 進んだ先にあったのは、城で最も重要な場所。

 かつては謁見の間だったのだろうと、その名残を残した場所に男は辿り着いていた。

 引きずるように、一歩一歩と重い足取りで。


「ここは……」


 男は、こんな城があるなど知らなかった。

 存在の欠片も、聞いた覚えはなかった。

 王の側近くに仕え、王統の血を幾許か受け継ぐ身であったのに。


 いや、そもそもこの森に城があること自体がおかしい。


 今まで重い体を引きずり、極限の常態にいた。

 だから気付かなかった。

 この森は始祖の地。

 我らが王国の前身となった、古い王国の滅びし土地。

 祖霊を静かに眠らせ、慰める為に……そう、ここは禁足地だったはずなのだ。

 そんな場所に建造物があることからして、既におかしかったのに。


「この森が、禁じられる以前の建造物、か……?」


 それはつまり、王国の前身となった古き王国の。

 それも城となれば……記憶に僅か、引っかかるものがあった。

 そう、そうだ。

 嘘とも本当ともしれない、古いお伽噺に、確か……この城のことが言い伝わっていたような。

 その話を、聞いたことがあるような気がする。

 幼心にも強く印象に残るような、それは重要な(エピソード)だったはずなのだが……。


 お話(ソレ)が何だったのか、思い出せないまま。

 男は朽ちて転がる柱の裏に身を隠した。

 

 彼がこの時、この場に導かれるようにして辿り着いたのは。

 果たして運命だったのか偶然だったのか。

 どちらにしても、数奇なこと。

 このことが彼と彼の忠誠を捧げた王国の行く末を、大きく変えてしまったのだから。 

 その方向性が、良かったのか悪かったのかも不明なままに。




「いたぞ、逆賊め!」

「……くっ」


 もうここを嗅ぎつけたのか。

 執拗に自分を追跡していた刺客どもが、もうこんなところまでやって来たらしい。

 朽ち果てた柱や崩れた壁の隙間、この広い空間に入り込める数々の入口から、わらわらと男たちがなだれ込む。揃いの紋章を誇らしげに胸につけ、男を逆賊と呼んで大義を掲げる。

 その様が、男には酷く腹立たしかった。


「誰が、逆賊か……! 本物の逆賊が、裏切り者が誰であるのかお前達も知っているだろうに……真の正しさに目を背けてでも、あの薄汚い偽物に従おうというのか。あの薄汚い偽物に与えられる蜜がそんなに甘いのか!」

「ふん、なんとでも言え。既に語る言葉はただ無為なだけ。お前はただ無様に躯を晒せば良いのだ。お前の首を持っていけば我らにはたっぷりと報奨金が出るのだからな」

「ただでこの身をくれてやるとでも? お前達を喜ばせてやる気など毛頭ない。楽に目的を果たせると思うなよ」

「強がりはそこまでだ。お前が手負いなのは我らがよく知っているのだからな。では、おさらばだ。あの世の先王陛下によろしく伝えてくれ、アーサー卿」

「ぐっ……!」


 そして、誰にとっても思いがけない事態は発生した。


 傍流ながら王家の血を引く男の血が、謁見の間に……古き王国の最後の王が終焉を迎えた場に、血溜りを作る。

 流れる血潮は熱く、濃く、古い時代の王と同じ匂いをしていた。

 かつての王が最期に描いた、願いを叶えるための魔法(キセキ)を再起動させてしまうほどに。


 床に光の線が走る。


「な、なんだこれは!?」


 男たちの動揺を介すことなく、みるみる内に描かれていく魔法陣。

 魔法という奇跡が失われて久しい今の世では、誰も見たことのないお伽噺の具現。

 朦朧としていく意識の中、周囲で何が起きているのか把握もできない中で。

 一人、死を目前に感じた男は最後の願いに思いを馳せた。


「(どうか――)」


 ――どうか、この王国を、王家を誰か救ってくれと。

 正しき王を弑して王冠を奪った、逆賊を倒し……王国を救える英雄よ、現れてくれと。


 声にもしてないその願いを聞き届ける者がいようなどと、欠片も信じていなかったのだが。



 だけど、その願いは聞き届けられる。


 一際強く輝いた魔法陣は、男の血を吸って赤く色を変える。

 全ての光が赤く染まり切った時、狼狽え怯える刺客たちは立っていられない圧力を感じた。

 その場に立つ者はもういない。

 全員が地に伏した時、更に増す圧力の中で光は一層輝き、真昼の太陽を直視したかのような眩しさで男たちの視界を潰した。


 視界が真っ白に燃える中、ふっと圧力が消える。

 だが失せた圧力を一か所に凝縮したような、途方もなく得体のしれない気配が。

 いつの間にか、そこに、魔法陣の中心に現出していた。


 金の髪に金の瞳の、この世界の誰とも異なる存在感。

 そうしてこの世に、ソレ(・・)は来臨した。

 人の姿をした精霊とでも呼ぶべき、異質な本性を柔和な外面の下に隠した存在が。


「なるほど、なるほど……『契約』内容を確認しましょう。この王国の救済、現王の打倒、並びにそれを達成し民衆の希望と成り得る英雄、伝説の再来……と」


 なるほど。

 頷き、言葉を繰り返し、納得を重ねて。

 ソレ(・・)は、殊更優し気に、麗しく微笑みを口元に刻んだ。


そういうの(・・・・・)、得意です」


 やれます、できます、経験があります。

 昔取った杵柄というものですね。

 薄い琥珀色の肌に金の髪を揺らして、見る者がうっとりとするような笑みを浮かべる。

 この世に非ざる、本来あってはならない存在。

 遠い、遠い、重なり合うことなど無かったはずの異なる世からの来訪者。

 『契約』により、召喚者の願いを叶える。

 そういう約束でありつつも、『※ただし手段は問わない』という一文を密かに契約の中に忍ばせて。

 ソレ(・・)は……彼はこの世界に現れた。


「それでは早速、伝説の第一歩を始めましょう。ですが『英雄』役をやるのは私ではなく……そう、『貴方』です」


 微笑みを崩すことなく、自分を『召喚』した男をまっすぐに見据える金の眼差し。

 ここではない別の世界で、敵も味方もあらゆる意味で阿鼻叫喚の渦に叩き落とした。

 彼の世界ではとうに滅びたとされる、魔物の名を冠した吟遊詩人――


 無暗に恐れられたその名は、黒歌鳥。


 ――『暗黒プロデューサー』が降臨した。

 





☆ 登場人物 ☆


アーサー・ストロング・ルフェリ

 ・『第二の犠牲者』

 ・ルフェリ王国、傍流王族の出身。王位継承権第17位。

 ・忠義に厚い高潔な騎士。

 ・運命の悪戯により異世界から『最期の望みを叶える英雄』を召喚する。

  しかし並べた条件に合致する存在として『黒歌鳥』が召喚されてしまい……

 ・黒歌鳥に『英雄譚の主人公』に選ばれてしまった苦労人。

  だがそのお陰で命拾いする。


 本来であれば召喚魔法を発動させる代償に命と魂を捧げるはずだった。

 だが黒歌鳥の「『英雄』にする人が必要ですね。呼び出すだけ呼び出して離脱されるのも癪に障りますので、彼にやってもらいましょう」という判断によって延命される。

 ……彼が捧げるはずだった命と魂は、居合わせた刺客たちで代用された。



黒歌鳥

 ・呼び出された異世界じ……人?

 ・かつて故国で隠居しようとしていた将軍を表舞台に引きずり出して英雄王に仕立て上げた実績を持つ。

 ・『英雄』というより『英雄をつくるヒト』。

 ・捏造英雄伝の紡ぎ手。

 ・本来の肉体はとうの昔に失っており、召喚魔法のオプションとして再構築された肉体で降臨する。肉体は生前の遺伝子情報を基に創り上げられた人間の肉体。

 ・召喚による契約を達成することが肉体を正式に手に入れる条件となる。

 ・ちなみに召喚時は全裸で降臨した。

 ・四児の子持ち。





















挿絵(By みてみん)



これから彼らの冒険が始まったり始めさせられたり。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、また被害者が出たよ。
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