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小林晴幸のネタ放流場  作者: 小林晴幸
ネタの放流場
50/55

サポートキャラなんぞやってられるか!!

 ふと「乙女ゲーム転生ってよく見るけど、俯瞰する立場の人外(マスコット)に転生してる例ってあったっけ?」と思い立ち、こんなものが出来上がりました。

 サポートキャラって、どうしてあんなに主人公に恋愛させたがるんでしょうねぇ?

 俺の名前は『らきり☆』。

 体長50㎝、体重2.8㎏。

 乙女ゲームのマスコット兼サポートキャラである。


 ぷにぷにもちもちした贅肉の気配濃厚な肉体にみっしりと生える、緑の毛! 緑、緑だぞ!? 緑の毛だ!

 生まれてこの方、どれだけ年月を経ようと縮尺が変わるだけで比率は全く変わらない二頭身ボディ!

 やたら丸っこい肉体に負けず劣らず、やはり丸い、体と同じくらいの大きさがありそうな巨大な尻尾!

 短い手足に義務として持たされた、謎技術で作られた懐中時計型アイテム(時間を計れる訳ではない、測れるのは野郎どもの好感度だ)!

 鏡を覗けばそこに映り込む、瞳に散らされた『☆』の形の虹色ハイライト。


 もう一度言おう。

 俺の名前は『ラキリ☆』。

 栗鼠の姿をした、通称『恋の妖精』。

 乙女ゲームのマスコット、兼、サポートキャラである――!!


 ちなみに『らきり☆』は『☆』まで含んで一個の名前だ。


 名付け親を恨みたくなる要素が満載に詰まった、実に痛い名前である。

 まあ、俺ら妖精の名前は、出生届出した時に役所がつけるんだけどな。妖精の。

 この名前で呼ばれる度に、俺は前世の名前『島谷 脩二』が恋しくなって仕方がない。

 妻どころか成人済みの子供までいた記憶があるので、現世のファンシー溢れる職場事情は辛いものがある。

 前世では頻繁に『来世は金持ちの猫的な愛玩動物になりてぇ』と思ったものだが、誰も妖精とかいう不思議生物にしてくれと願った覚えはない。愛玩動物的なビジュアルではあるが、これは似て非なるものだ。

 栗鼠型の謎生物(※妖精)に生まれ変わったと知った時は世を儚みそうになったものだが、更には自分が前世で見聞きした覚えのある乙女ゲーム『恋するフェアリー!』のマスコット兼サポートキャラであることを知った際には真剣に自殺を考えた。生きているのが辛いと思ったのは栗鼠型生物(※妖精)に生まれ変わって以来わりと毎日のことだが、ここまで現実を苦痛に思ったのは初めてだ。

 だが前世では3人の男の子を育てた記憶がある。妖精とかいう不思議生物の育児と人間の育児を比べるつもりはないが、今まで女手一つで育ててくれた老いた母を思うと自殺なんてとても出来ない。特に母が、

「まあ、なんて立派なお役目を! 上の方々に期待されているのね、母さん鼻が高いわ!」

 ……心の底から、拝領した『お役目』を喜んでいるのである。

 俺に逃げ場はない。


 さて、それではいよいよ、その俺が与えられた『お役目』とやらを説明しよう。 

 ……いや、そこを説明する前に前提としてもう一つ説明が必要だな

 俺が『乙女ゲームのマスコット兼サポートキャラ』だと何度も言っているが、その乙女ゲームについて先に説明するべきだろう。

 俺も自分がプレイした訳じゃないから、そう詳しく知っている訳じゃない。


 このゲームは、前世の俺の、嫁が学生時代にやっていたブツだ。


 あの頃、嫁とその仲間のブームは、各々が持ち寄ったツッコミどころが多そうな未プレイの乙女ゲームを、全員で逐一ツッコミを入れながら適当にその場のノリでプレイするというものだった。

 どういう趣味だとドン引きした記憶がある。

 あまりにもツッコミどころが満載で、嫁とその一派のツッコミも騒々しくて。

 まあ、楽しそうではあったな。

 お陰で同じ空間にいただけの俺も、あまりに酷かったゲームの記憶が残っているくらいだ。

 当然、まともに嫁もプレイしていないのでルートの迷走ぶりは筆舌に尽くしがたいものがあったが。

 お陰で攻略に関する記憶は特に残っていない。

 そんな真っ当とはいえない楽しみ方に喜びを見出していた嫁たちのお眼鏡にかなっただけあり、俺が生まれ変わってしまったこのゲームもまた……なんというか、ツッコミどころが満載過ぎた。


 そんなゲームでも、一応プロローグくらいは辛うじて覚えている。

 プロローグっつうか、このゲームの設定?

 確か、ゲーム内の元祖『らきり☆』先輩がヒロインに無茶ぶりしていたはずだ。


 ――ヒロインは15歳の女の子☆

 夢と希望に胸を弾ませながら、首都でも指折りの学園への入学が叶った。

 これから素晴らしい学園生活が幕を開ける、そんな思いで学園の門をくぐる。

 しかし入学したその日、彼女の前には恋の妖精『らきり☆』が突如あらわれ助けを求めてきた。

「お願いだよ、王女さま! ぼくたち、妖精の世界をたすけて!」

 人間の純粋で強い思い……特に無垢な乙女の恋心によって、妖精の世界は支えられているという。

 だが人間たちが夢も愛もない無味乾燥な政略結婚を繰り返すようになり、だんだん妖精の世界を支えてきた乙女の恋心パワーが枯渇してきた。このままじゃ妖精の世界が大変なことになってしまう!

 『らきり☆』はそんな妖精の世界を救うという使命を背負い、人間界にやってきたのだ。

 特別な強い力を持った血筋の女の子……人間と駆け落ちした先代妖精女王の血を引く、ヒロインに会うために。

 妖精女王の血を引くヒロインは、素晴らしい潜在能力と心の力を持っています。

 そんなヒロイン(あなた)が素敵で幸せな恋に目覚める時、妖精の世界は救われるでしょう……。


 ……というのが、確か説明書に書かれていたあらすじなんだが。

 正直な感想を言おう。

 乙女の恋心パワーってなんだよ、おい。

 確かにとてつもない強さはありそうだが、そんなんで支えられてる妖精の世界大丈夫か。

 そんな感想を持っていた、前世の俺は知る由もなかった事実。

 それを、妖精(いま)の俺は知っている……そう、無情な裏設定ってヤツを。


 乙女の恋心パワー = 前世でいうところの電力


 前世の世界風に意味を変換するとそのものずばり、コレである。

 いや、電力っつうか原子力発電、みたいな感じかな?

 ……他に代替できるものが無い訳でもないが、これが一番手っ取り早くて強力、みたいな。

 人間の純粋な乙女の恋心が発する強力な思念波を、妖精の世界じゃ横からかすめ取って便利な生活水準の向上に役立てている訳である。

 確かに世界を支えているって言い方も間違いじゃないんだろうが、特に世界が崩壊するとか誰かの命が失われるとか、そういう緊急性は皆無である。ただ妖精の生活の質がワンランクほどダウンするだけで命の危機はない。だけど一度便利な生活を手に入れてしまうと、難しいのがそのランクダウンなのだ。

 俺はその問題を解決する為に新しい電力確保……いやいや乙女心の調査と逸材確保の為に派遣される電力会社の調査員、みたいな感じなのだ。妖精の世界の電力会社は公営なので一応は国家公務員だが。

 ……年老いた母に少しでも楽をさせてあげたいと孝行心抱いて公務員試験的なものを受けた時は、まさかこんな任務回されるとは夢にも思ってなかったんだけどなぁ。


 まあ、そんなわけで、俺が人間界に派遣されるのは国からの命令なのだ。

 従わない訳にはいかない、仕方ない。

 しかし乙女ゲームの内容……というか攻略対象者の内訳を知っている身としては、ヒロインのことは正直そっとしておきたい。

 でも今回、敢えてわざわざ国から有望な電力候補として、ほんっとにわざわざ、要調査指定でヒロインの資料渡されてるんだよな。これヒロインのとこに突撃しない、訳にゃいかねーんだろうなぁ。

 ああ、憂鬱。


 国の命令に従うなら、ヒロインに恋をさせて、そこから発散されるエネルギーを集めないといけない。

 けどな、ぶっちゃけヒロインの恋とか全然応援したくない。

 だって攻略対象者、全員濃いんだもん……。

 そりゃキャラが立ってないと乙女ゲームの意味ねえんだろうけどな。

 このゲーム、攻略対象者に課せられたコンセプトが『ヒミツ』なんだよ……!


 ――攻略対象者たちはみんな、人にはいえない『ヒミツ』を抱えています。

 それを受け止めて包み込むのはヒロイン(あなた)の愛☆

 攻略対象者(カレ)が心からヒロイン(あなた)を求める時、きっと……


 ……とかなんとか、説明書には書いてあった。はずだ。

 だが敢えて言おう。

 このゲームにおける『ヒミツ』……それは、『性癖』と書いて『ヒミツ』なのだと!

 俺の記憶が確かなら、ゲームの攻略対象者は7人。

 隠しキャラを除けば、いずれもヒロインと同じ学校に通う者ばかりだ。


 1.第一王子、公明正大な正統派キャラ。

 ――と、見せかけて重度の女装趣味を隠し持つ変態。


 2.第二王子、繊細で気の弱い年下系キャラ。

 ――と、見せかけて男装させた女子にしか興味のない変態。


 3.第一王子の腹心、理知的で理性的な文官キャラ。

 ――と、見せかけて縛られて罵られたいドMの変態。


 4.第一王子の忠臣、裏表のない頼れる兄貴系武官キャラ。

 ――と、思いきや巨乳の女性にばぶばぶ言いながら甘やかされた変態。


 5.第二王子の腹心、研究者気質の天才魔法使い。

 ――その実、精神を粉砕した生き人形や剥製を愛する猟奇的変態。


 6.第一王子の婚約者、高慢で妖艶なお姉様キャラ。

 ――と、思いきや女性にしか興味がない上にドSのド変態。過激な百合要員。

 加えて、1~4の攻略対象者の性癖を思いっきり歪めまくる原因を作った元凶。


 7.隠しキャラ、流行りのスタイリッシュな魔王系人外。

 ――と、見せかけて実は上着の下は裸とか傍目にはわからない露出行為で密かに興奮している変態。


 うん、見事に碌なのがいない。


 ……なんであんな濃い設定にしたよ?

 キャラを立たせるためにしても、他にやりようなかったのかねぇ?


 さてさて……ヒロインがどんな人物かは知らないし、ゲーム通りに攻略対象者から相手を選ぶのかも謎だがな?

 実際にヒロインと行動を共にすることになると、して……同じ学校内にいるだけでも、あんな意味不明な攻略対象者たちの近くで恋愛模様を観察しなくちゃいけないわけだ。

 ……軽く拷問じゃない?

 

 俺は、一体どうしたら……

 思い悩みながらも、国からの命令に逆らえるはずもなく。

 俺はさして多くもない荷物をのろのろと纏めながら、先行きの暗さを思って深い溜息を吐いた。




 




 そうして出会ったヒロインは、脳みそお花畑系の楽天家主人公だった。

 『らきり☆』氏はおそらく死んだ魚の目でヒロインのキラキラ☆学園生活を見守る羽目に……


 ちなみにこのゲーム、『無垢で純粋な乙女の恋心』が必要とか抜かしておきながら、股がけプレイが可能という謎仕様。そこに(方向性はともかく)純粋な思いがあれば、2人3人と同時攻略してもよいということなのだろうか……


ヒロイン パンジー・フェイ(デフォルト名)

 『らきり☆』氏の前世の嫁は『田中マチ子』という名前でプレイしていた模様。

 乙女ゲームのヒロインはみんな嫁が『田中マチ子』にしてしまう為、国に渡された資料を見て初めてヒロインの名前を思い出すという始末。

 楽天家で、前向きで、深く物事は考えない。

 天然あほの子が故に、攻略対象者どものとんでもないド変態な性癖もまるっと受け止めてしまった剛の者である。


攻略対象者ども

 攻略が進んで個別ルートに入ると、漏れなくその隠されてきた性癖がヒロインとのイチャイチャを他人に目撃されてしまって世間バレしてしまう。

 正しいルートを進めば「変態だ。だが国に欠かせない素晴らしい人材だ!」と性癖に目を瞑って国民から認められ、受け入れられるエンドを迎える。

 あるいは選択肢に正解しても好感度が足りなければ「私達を認めてくれない人間の世界にサヨナラしましょう!」とヒロインと攻略対象ともども妖精の国に逃亡し、そこで新たな妖精の女王(電力供給減扱い)となって世間に認められなくても幸せに暮らす。

 だけど選択肢を間違えると酷いエンドを迎えることに……


 逆ハーレムエンドも一応存在するが、バッドエンド。

 誰も選ばない主人公の不実に思い余って魔法使いが暴走し、主人公に怪しい薬を注射。

 自我を失って生き人形と化した主人公は曜日替りで攻略対象者たちに共有されるという……

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