我が家の家訓は「殺られる前に殺れ」
今回もいつもと同じ、謎の発掘品。
どうやら乙女ゲーム系の斜めに突っ走ったお話を書こうとして放り出していた模様。
私の父……いや、前世の父はやんちゃな人だった。
人づてに聞いた話なので詳細は知らないけれど、若い頃にはど派手にペイントだけでなく違法改造までやらかした単車を乗り回し、ゲバ棒?とかいう謎のアイテム片手に深夜徘徊を繰り返したとかなんとか。
どっかの県の高速道路を舞台に繰り広げた小競り合い? 抗争? どの程度の規模だったのかは謎だけど、男達が入り乱れての殴り合い・喧嘩騒ぎは今でも地元で語り草なんだとか。
そんな父も私が生まれる頃にはすっかり物騒な世界からは足を洗っていて、十代の頃には散々抵抗の意思を示しまくっていた家業を継いで家元をやっていたのだから人生ってよくわからない。よくそんな経歴でお弟子さんついたよね。寝ている隙に鎖と南京錠で縛りあげて強制的に引っ張り出したお見合いの席で、ママンと運命の出会いを果たしたお陰だっておじじ言ってたよ。愛の力って偉大だね……。
私をお膝の上に乗せて武勇伝を語っていた父と、私をお膝に乗せて父のやんちゃにどれだけ手を焼いたかを語った祖父。それぞれ逸話のある傷跡を見せてくれながら語る父と祖父の顔は本当に良く似ていた。うん、親子。
そんなちょっぴり血の気の多い父と、祖父に猫可愛がりを受けながら長じた私。
待望の第一子、それも男系家系で珍しい女の子とあって、本当に可愛がられた。
たくさんの愛を注がれて、大きくなったら恩返しが大変だなぁなんて思っていたのに。
なのに。
先立ってしまってごめんね、パパ。ママ。おじじ、おばば。
親孝行も何も、全然恩返しができていないのに。
全部、全部、居眠り運転していたトラックの運ちゃんが悪い。
トラックの運転手を酷使していた運送会社(予想)はもっと悪い。
私はまだまだ若かったのに、15歳だったのに。
この世とバイバイしなくちゃいけなかった。
アッデュー、みんな。
これからは何もできなかったなりに、黄泉比良坂の先で見守っている。
……って、思ってたのに、なぁ。
人生って何が起きるかわからない。
父の非行から両親の馴れ初め含め、その言葉はよく聞いたけど。
まさか死んだ後にまでそうだとは思わなかったなぁ。
「いいかい、レイチェル」
我が兄上。
……今生での、兄上。
栄えあるディアマンテ家の嫡男にして、私の双子の兄であるレイシー兄上が言った。
まだまだ幼い顔で真面目くさった表情を作り、ぷくぷくの小さく短い人差し指を立てて。
同年齢の妹である私に、言い聞かせるように。
「君はこの世界の……乙女ゲーム『燃えよレバー』の悪役令嬢なんだよ」
もしもし兄上? それ本当に乙女ゲームのタイトルですか?
いろんな意味で、兄の発言に疑問が絶えなかった。
ちなみに後によくよく説明を聞くと、『燃えよレバー』はファンの間で定着していた通称なんだそうな。
本当のタイトルは『輝け☆レボリューション~なんたらかんたら(うろ覚え)……なんて言ってたっけ?
……一度ちゃんと聞いたはずなのに、通称のインパクトが強過ぎて忘れちゃった。
まあ、些細なことだよね。重要な情報じゃないし、忘れたままで良いか。
登場人物
主人公 レイチェル・ディアマンテ
本来は悪役令嬢として乙女ゲームのヒロインの恋路を大いに盛り上げる当て馬役である。
だが本人としてはそんな誰かのために奔走し、挙句不幸になるのは絶対に御免だとのこと。当然だ。
前世の記憶があるが、どうやら前世の身内がちょっとやんちゃというかヤバい武勇伝の数々を打ち立てた問題ある人物だったらしく、本人の自覚はないが色々と影響を受け、薫陶を授けられて成長している。
「殺られる前に殺れ」は前世の父君の口癖らしい。真剣な顔でマジに言っていたそうな。
乙女ゲームの知識がある双子の兄(仲良し)に情報を横流ししてもらった結果、自分の今生の運命が本気で気に入らないので力技で破壊することにした模様。
手始めに前世父直伝の「ゲバ棒クラッシュ」を婚約者になる筈の第二王子に食らわせに行こうとして、今生の家族に一家総出で止められた。
自分の人生を滅茶苦茶にされるくらいなら、ヒロインを物理的に滅茶苦茶にしてやんぜ! という心意気で恋愛も攻略対象もそっちのけでヒロイン単体を標的にしている。
双子兄 レイシー・ディアマンテ
本来は攻略対象だけどレイチェルの補佐役。
というかセコンド。
眉目秀麗で優雅な見た目の美少年だけど、本人のノリは優雅とは程遠い。
前世の記憶があり、その影響が強過ぎた結果だと思われる。
どうやら生前は二次元とかサブカルチャーとか好きな青年だったらしい。
好きなジャンルは熱血少年漫画。特にバトル漫画とスポーツ、格闘系の漫画が好き。
何故乙女ゲームにまで詳しいのかは謎だが、問題のゲームの通称が全てを語っている気がする。
レイチェルが悪役令嬢の運命を真っ向から破壊するという心意気に賛同し、前世知識を活かしてイロイロ入れ知恵……手助けをする。
最もリスペクトする人物:「あし●のジョー」に出て来る某眼帯のオヤジさん。
ヒロイン ミリオン・ジルコニア
己の知らないところでヤバ気な悪役令嬢(笑)に標的にされてしまった人。
このままならただの可哀想な人だが、実は彼女も前世の記憶がある。
……前世はアマゾン川流域を自由に駆け抜けたジャガーだったそうな。鰐との格闘経験があるらしい。
そして更にその前の生では出身地を追放されて各地を女傭兵として転々としながら、最後はトロイア戦争に参加して戦死したアマゾネスだったという。
今世では15歳で前世の記憶が蘇るまで、砂糖菓子のようなふわふわした愛らしい典型的な女の子として生きている。ふりふりのエプロンドレスで、お母さんと一緒にビスケットを焼いている。ちなみに家はパン屋さんで、ジャム作りが得意なんだそうな。
第二王子 ダニエル・ジェム・プラチナ
乙女ゲームのメイン攻略対象にして、レイチェルの婚約者(暫定)。
甘めな顔立ちの、育ちが良さそうで優秀さが前面に出ているイケメン。
7歳の時、危うく幼馴染のご令嬢にゲバ棒で殴られそうになった可哀想な人。
その棒な~に?と何も知らずにてくてく近寄ったばっかりに……デンジャラスな昼下がりの事件。
しかし攻略対象としてのポジティブ精神とへこたれない異常な不屈メンタル、そしてレイチェルたちと接することで刺激されまくって暴走しだした好奇心が彼の危機感を摘み取ってしまったようだ。
レイチェルが原作ゲームと全く異なる人格だったせいか、影響されたのか。
それともいきなり釘を打った角材で殴られそうになったショックで頭のねじが飛んだのか。
レイチェルの事を「自分の知らないナニか楽し気なことを見せてくれる、教えてくれる人物」と認識してしまったらしく、無駄に後にくっついて行動するように……目ぇキラキラさせながら。
お陰ですっかりゲームとは違うキャラになってしまった。
今では愉快な性格の、レイチェルの一の舎弟である。
よく一緒にいるので体面と家格などなどを鑑みてレイチェルとは仮の婚約関係にあるが、何をやらかすかわからない危険人物予備軍のレイチェルを王妃様が警戒している為、今後も婚約関係から(仮)が消える予定はない。
この後、レイチェルは多分レイチェル(物理)に成長する。




